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5:大森林観測村VSガムラン町
696:料理番の本懐、洞窟蟹は超素敵
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「ぅぎゃっ!? 洞窟の壁を掘って、穴だらけにしてるわよん!?」
がさがさ、カチャカチャカチャ――ゴゴゴゴンボゴゴゴン、グワラララッ♪
岩壁までは、少し離れているが。
ヴュパァァァァ――――カッ!
瞬く画面。
ヴォヴォォゥゥン♪
暗視のお陰で蟹どもの姿は、はっきりと見えた。
五百乃大角が手にした、一本箸にもなる匙の形。
その割れた先が辿るのは、皿や丼ではなく――
岩壁に開いた穴が、蟹の輪郭と重なる辺り。
――ふすふすふす、ふすん♪
何も無いように見えるが、確かにそこには――
何かが居て、蠢いている。
ふぉん♪
『>>耐熱仕様の使い捨てシシガニャンは、蒸着された耐熱塗料が周囲の景色を映し込むので、視認しづらい傾向があります。音響定位による輪郭検出を、最大にしますか?』
うむ、また経文を読むのか?
ふぉん♪
『>>いいえ、妨害されていない今は、その必要は有りません』
じゃぁ、やってくれや。
ヴュザザッ――――ヴォヴォヴォヴォヴォッ!
画面が揺れ、色を無くしていく。
蟹や洞穴や、〝耐熱おもち〟たちの丸っこい体が、はっきりと見える様になった。
――ふすふすふす、ふすん♪
薄暗い岩壁近くへ、音も無く駆けていく――化け猫たち。
洞窟を体に映し、暗がりに溶け込む刺客。
ボッフォッ!!
ボッフォッ!!
数珠のように連なる〝おもち〟たちの一番槍。
その体に左右から突き込まれる、蟹の鋏!
ヒュボボォ――ン♪
呆気なく破裂した紙製の体が、虚空へ消える。
ひらひら。
残されたのは、舞う紙ぺら一枚。
ありゃ?
「ウケケケッ――お祭りのときの引換券が、入れっぱなしだったみたいわねん?」
ガラクタ……希少なアーティファクトが当たる、半券だ。
ふすふすふすふすすっ――♪
足音一つ立てず次々と、飛び込んでいく――
ギラギラと闇を映す、猫の魔物風どもが――
ボッフォッ、ボッフォッ!!
ボッフォッ、ボッフォッ!!
鋏を突き込まれ――ヒュボボボボボッフゥン!
まるで紙のように、消えていく。
ひらひらぁ、ひらひらひららぁ。
五百乃大角が放った、無音の兵卒は――
紙ぺら5枚に、成り果てた。
「何だぜ? 鉄餅にゃぁ表に迅雷鋼と、裏側に紫色の迅雷鋼を塗ってあるってのに、紙くず同然だぜっ!――ニャァ♪」
虎型の出る幕がぁねぇと思ったんだが……丸で駄目じゃぁねぇかぁ。
「〝超耐熱仕様使イ捨て汎用強化服〟ハ劣悪ナ環境下にオいて最大の耐久度ヲ誇りまスが――代替ネオジムーモリブデン合金ト、電解鉄ヲ塗布しただけですノで、おにぎりヤ虎型のよウな強度ハ望めマせん」
火や水や毒に強くても、鋏の一振りで破けちまうんじゃなぁ。
「しかたがねぇ、矢張り虎型で出るしか有るまい――ニャァ!」
今見えてるのは二匹だが、奥にも何匹か居やがるぜ。
正直、相手はしたくねぇが。
ふぉん♪
『特選洞窟蟹【大】/
鋏脚と甲羅を持つ、十足。食用甲殻類としては、大型種。
甲羅は硬く、物理・魔法共に弾く。
身だけでなく内蔵も美味で、濃厚な天然のスープとなる。
鋏脚と甲羅は、耐物・耐魔法素材として重宝される。』
迅雷が表示したのは、そんな食材情報。
ふぉん♪
『イオノ>>素敵わね。超素敵わね?』
念を押さんでも、甲羅に穴を空けなきゃ良いんだろぉう!?
おれぁ、美の女神さまのぉ、料理番だ。
献立の催促を聞いてやるのも、吝かではない。
絵で板を立ち上げ、記録しておいた日本刀の〝拵え〟を選ぶ。
但し今度のは、大蟹を斬れるくらい長大な打ち物だ。
おれの小柄な童の体に合わせた小太刀だけじゃ心許ねぇから、まっとうな刀の一振り位有っても良いだろ。
灰をまぶし折り重ねる、昔ながらの刀作り。
ソレに必要な分の使い古しの避雷針と、作り置きの木炭。
それが絵で板の〝仮説〟や〝法〟を表す板ぺらに――ヴュパパパッ――♪
勝手に投げ込まれる。
小太刀の拵えを作ったとき同様、連なる小さな板。
その間が、ぐんにゃりした紐で結ばれていく。|
全ての材料が蠢いて、酷く曲がった、長大な刀になった。
柄糸が巻かれ――しゅるるうるりゅぎゅちっ!
一番端の小窓に回転する刀の姿が、映し出されるまで――
矢張り瞬きを3回する間しか、掛からない。
ふぉふぉん♪
『解析指南>一般的な太刀を作成しますか Y/N?』
おう、やってくれ。
おれの鍛冶周りのスキル、そして伝説の職人スキルを総動員され――
迅雷鋼製の魔剣が、即座に完成した。
強度と使い勝手が違うから、工房長に手直しを頼みてえ所だが――
おれが使う分には、コレで事足りるしな。
顔を向けた先に光の升目がみえ、光が消えると――――ガチャン♪
日本刀が、おれの手の中に落ちてきた。
ジャキッ――鯉口を切ってみる。
ススゥゥ――ギラリ。
良ぉし、硬ぇ脚や鋏を斬れるかはわからんが――
こいつぁ、上出来だ!
スゥゥゥッ――ガチィンッ♪
開けた業物を、直ぐ閉じた――ウケケッ♪
立ち会うのがぁ楽しみだぜ。
ふぉん♪
『シガミー>>あとは、おにぎり。お前、いい加減、SDKを出』
合わせて2個ねぇと、頓知の役に立たねぇだろ。
おにぎりを振り返ったら――風神と目が合った!
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
どどっどったっ、どどっどったっ!
風神が一鳴きして、倉庫から飛び出していく!
「危ねっえっ――――!?」
おれは根菜さまを引っつかみ、横っ飛びに避けた!
ゴドッガァン!!
頭を下げてりゃ、屋根にはぶつからんが、なんせ轟雷並みの図体だ。
当然、鴨居にゃあ、ぶつかる――バキバキッ!!
「みゃぎゃにゃぁ♪」
落ちてきた柱を、がしりと受け止め――
粉砕された倉庫の出口……大穴から、飛び出していく黄緑色。
ゴトリ――カチャカシャッ♪
おにぎりが落としていったSDKを、拾い上げる迅雷。
「こレは、廃棄さレた女神像かラ取レた発掘魔法具にまちがいありマせん」
ふぉん♪
『ヒント>酢蛸/SDK、エスディーケー、ソフトウェア開発キット。神々が使う術具』
ふぉん♪
『イオノ>>じゃぁ、あたくしさまは作業に入りたいんだけど――』
先割れスプーンが、遠ざかる巨体を指し示した。
ちっ、作業には風神の兜――女神像の台座が要る。
「仕方がねぇー――ニャァ♪」
おれも慌てて、風神の後を追った!
§
「やい、風神戻ってこい――ニャァ!」
真っ向からぶつかり合い、洞窟蟹に頭突きを喰らわせた、風神が――
「クケケケェー♪」と満足げに鳴いて、戻って来た。
ふぉん♪
『シガミー>>まさかの、言うことを聞きやがったな』
ふぉん♪
『>>なまじ人の言葉を介さなかったため、各種の言語系スキルが効率よく発揮出来ているように思われ』
その辺は追々やっていく、今は話が通じだけで超助かるぜ。
「じゃぁ風神は向こうで、五百乃大角たちを守ってやってくれ――ニャァ!」
わからん猫語で、言ってみれば――
「クケケケケェー♪」
わからん恐竜モドキ語が、返ってきた。
「みゃにゃぎゃにゃぁー♪」
柱を振り回し、残りの蟹を追いかけ回す黄緑色。
風神の頭突きを喰らって、ひっくり返った蟹の甲羅が割れて、中身が出ちまってる。
ふぉん♪
『シガミー>>おにぎりが甲羅を割っちまったら大変だから、行ってくらぁ!』
女神像わぁ、任せたからなぁ!
腰の辺りの夏毛を引っ張って、太刀を持たせた。
太刀緒代わりの夏毛は引っ張り出すと、迅雷の機械腕みたいに使える。
力も強く、重い物も平気だ。
いつだかは、暴れるガムランの姫さんを背中に貼り付けておけて超便利だった。
「ウカカカカッ♪――ニャァ♪」
太刀で居合いを放つのわぁ、前世ぶりだぜっ!
§
ギュギギギギギギッ――――ギャッギィィィン♪
蟹の中身を零さんよう、甲羅を避けて脚を狙ったら――
透かさず鋏で、弾かれた!
「(シガミー、ロットリンデの言葉通りに、惑星ヒースの甲殻類は、とても強敵です)」
倉庫から迅雷が、念話を送ってきた。
「(そうだな、厨房ダンジョンでは、儘と逃げられちまったからなぁ!)」
目の前を大きな鋏が、ゆっくりと通り過ぎていく。
ふぉん♪
『シガミー>>例の鋏わぁ、ちゃんと持ってるか?』
あの村長箱の中わぁ、絵空事ではあったが、確かにおれぁ――
〝滅モード〟で蟹どもと、引き分けたはずだ。
ふぉん♪
『>>もちろんです、シガミー。封鎖空間内部で遭遇した生物は、擬似的に生成された紛い物ではありましたが、素材や食材として収得済みの物は、たとえ封鎖空間が解除されても残るようです』
鋏のアイコンが画面の最前面に、ポコンと現れた。
絵空事の蟹の鋏。
そいつぁ、夢現の境を――越えてきた。
間違いなく――現に有っては、いけねぇ物だ。
「(ちょっと! せっかく捕まえたぁ、おっきな鋏わぁ、美の女神の名にかけてぇ――絶対にぃー、返ぇーしぃーまぁーせぇーんーかぁーらぁーねぇ――!?)」
根菜も必死に、念話を寄越した。
「(わかってらぁ! この食材の使い道は、もう決まってる!)」
そもそも〝返す〟って、何処にだぜ――ウカカカッ♪
全ては「空」だ、悩む謂れは一つもねぇ!
「みゃぎゃにゃやー♪」
ぽぎゅごむん――――バキィン!
「ギュギギチ、ぶくぶく!」
やべぇな。
おにぎりの強烈な〝柱〟を喰らって、ひっくり返る蟹。
蟹の甲羅が、また割れちまった!
全部、割られちまう前に、頑張って――
一匹だけでも、捕まえねぇと。
がさがさがさがさっ、カチャカチャカチャチャッ――ガチリッ♪
蟹の脚音で、間合いをはかり――息をととのえた。
「七天抜刀根術、零の太刀――ニャァ。」
本来、技の名は無ぇ手習いの居合い。
七ある根術の型で言うなら、零の型。
その切れ味で言うなら、さしずめ〝滅〟の太刀か。
「チィエェェェェエィッ――――ニャァ!」
虎型ごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
ぽぎゅぎゅむっ――シュッカァァァァン♪
小太刀ほど短くなく、錫杖ほどには長くない。
太刀の長さは、虎型で使うのに丁度良かった。
ぼとぼとっぼとん――ドズン!
ウカカカカッ――――見たか、蟹太郎めっ!
片側の脚を全部、落としてやったぞ!
がさがさ、カチャカチャカチャ――ゴゴゴゴンボゴゴゴン、グワラララッ♪
岩壁までは、少し離れているが。
ヴュパァァァァ――――カッ!
瞬く画面。
ヴォヴォォゥゥン♪
暗視のお陰で蟹どもの姿は、はっきりと見えた。
五百乃大角が手にした、一本箸にもなる匙の形。
その割れた先が辿るのは、皿や丼ではなく――
岩壁に開いた穴が、蟹の輪郭と重なる辺り。
――ふすふすふす、ふすん♪
何も無いように見えるが、確かにそこには――
何かが居て、蠢いている。
ふぉん♪
『>>耐熱仕様の使い捨てシシガニャンは、蒸着された耐熱塗料が周囲の景色を映し込むので、視認しづらい傾向があります。音響定位による輪郭検出を、最大にしますか?』
うむ、また経文を読むのか?
ふぉん♪
『>>いいえ、妨害されていない今は、その必要は有りません』
じゃぁ、やってくれや。
ヴュザザッ――――ヴォヴォヴォヴォヴォッ!
画面が揺れ、色を無くしていく。
蟹や洞穴や、〝耐熱おもち〟たちの丸っこい体が、はっきりと見える様になった。
――ふすふすふす、ふすん♪
薄暗い岩壁近くへ、音も無く駆けていく――化け猫たち。
洞窟を体に映し、暗がりに溶け込む刺客。
ボッフォッ!!
ボッフォッ!!
数珠のように連なる〝おもち〟たちの一番槍。
その体に左右から突き込まれる、蟹の鋏!
ヒュボボォ――ン♪
呆気なく破裂した紙製の体が、虚空へ消える。
ひらひら。
残されたのは、舞う紙ぺら一枚。
ありゃ?
「ウケケケッ――お祭りのときの引換券が、入れっぱなしだったみたいわねん?」
ガラクタ……希少なアーティファクトが当たる、半券だ。
ふすふすふすふすすっ――♪
足音一つ立てず次々と、飛び込んでいく――
ギラギラと闇を映す、猫の魔物風どもが――
ボッフォッ、ボッフォッ!!
ボッフォッ、ボッフォッ!!
鋏を突き込まれ――ヒュボボボボボッフゥン!
まるで紙のように、消えていく。
ひらひらぁ、ひらひらひららぁ。
五百乃大角が放った、無音の兵卒は――
紙ぺら5枚に、成り果てた。
「何だぜ? 鉄餅にゃぁ表に迅雷鋼と、裏側に紫色の迅雷鋼を塗ってあるってのに、紙くず同然だぜっ!――ニャァ♪」
虎型の出る幕がぁねぇと思ったんだが……丸で駄目じゃぁねぇかぁ。
「〝超耐熱仕様使イ捨て汎用強化服〟ハ劣悪ナ環境下にオいて最大の耐久度ヲ誇りまスが――代替ネオジムーモリブデン合金ト、電解鉄ヲ塗布しただけですノで、おにぎりヤ虎型のよウな強度ハ望めマせん」
火や水や毒に強くても、鋏の一振りで破けちまうんじゃなぁ。
「しかたがねぇ、矢張り虎型で出るしか有るまい――ニャァ!」
今見えてるのは二匹だが、奥にも何匹か居やがるぜ。
正直、相手はしたくねぇが。
ふぉん♪
『特選洞窟蟹【大】/
鋏脚と甲羅を持つ、十足。食用甲殻類としては、大型種。
甲羅は硬く、物理・魔法共に弾く。
身だけでなく内蔵も美味で、濃厚な天然のスープとなる。
鋏脚と甲羅は、耐物・耐魔法素材として重宝される。』
迅雷が表示したのは、そんな食材情報。
ふぉん♪
『イオノ>>素敵わね。超素敵わね?』
念を押さんでも、甲羅に穴を空けなきゃ良いんだろぉう!?
おれぁ、美の女神さまのぉ、料理番だ。
献立の催促を聞いてやるのも、吝かではない。
絵で板を立ち上げ、記録しておいた日本刀の〝拵え〟を選ぶ。
但し今度のは、大蟹を斬れるくらい長大な打ち物だ。
おれの小柄な童の体に合わせた小太刀だけじゃ心許ねぇから、まっとうな刀の一振り位有っても良いだろ。
灰をまぶし折り重ねる、昔ながらの刀作り。
ソレに必要な分の使い古しの避雷針と、作り置きの木炭。
それが絵で板の〝仮説〟や〝法〟を表す板ぺらに――ヴュパパパッ――♪
勝手に投げ込まれる。
小太刀の拵えを作ったとき同様、連なる小さな板。
その間が、ぐんにゃりした紐で結ばれていく。|
全ての材料が蠢いて、酷く曲がった、長大な刀になった。
柄糸が巻かれ――しゅるるうるりゅぎゅちっ!
一番端の小窓に回転する刀の姿が、映し出されるまで――
矢張り瞬きを3回する間しか、掛からない。
ふぉふぉん♪
『解析指南>一般的な太刀を作成しますか Y/N?』
おう、やってくれ。
おれの鍛冶周りのスキル、そして伝説の職人スキルを総動員され――
迅雷鋼製の魔剣が、即座に完成した。
強度と使い勝手が違うから、工房長に手直しを頼みてえ所だが――
おれが使う分には、コレで事足りるしな。
顔を向けた先に光の升目がみえ、光が消えると――――ガチャン♪
日本刀が、おれの手の中に落ちてきた。
ジャキッ――鯉口を切ってみる。
ススゥゥ――ギラリ。
良ぉし、硬ぇ脚や鋏を斬れるかはわからんが――
こいつぁ、上出来だ!
スゥゥゥッ――ガチィンッ♪
開けた業物を、直ぐ閉じた――ウケケッ♪
立ち会うのがぁ楽しみだぜ。
ふぉん♪
『シガミー>>あとは、おにぎり。お前、いい加減、SDKを出』
合わせて2個ねぇと、頓知の役に立たねぇだろ。
おにぎりを振り返ったら――風神と目が合った!
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
どどっどったっ、どどっどったっ!
風神が一鳴きして、倉庫から飛び出していく!
「危ねっえっ――――!?」
おれは根菜さまを引っつかみ、横っ飛びに避けた!
ゴドッガァン!!
頭を下げてりゃ、屋根にはぶつからんが、なんせ轟雷並みの図体だ。
当然、鴨居にゃあ、ぶつかる――バキバキッ!!
「みゃぎゃにゃぁ♪」
落ちてきた柱を、がしりと受け止め――
粉砕された倉庫の出口……大穴から、飛び出していく黄緑色。
ゴトリ――カチャカシャッ♪
おにぎりが落としていったSDKを、拾い上げる迅雷。
「こレは、廃棄さレた女神像かラ取レた発掘魔法具にまちがいありマせん」
ふぉん♪
『ヒント>酢蛸/SDK、エスディーケー、ソフトウェア開発キット。神々が使う術具』
ふぉん♪
『イオノ>>じゃぁ、あたくしさまは作業に入りたいんだけど――』
先割れスプーンが、遠ざかる巨体を指し示した。
ちっ、作業には風神の兜――女神像の台座が要る。
「仕方がねぇー――ニャァ♪」
おれも慌てて、風神の後を追った!
§
「やい、風神戻ってこい――ニャァ!」
真っ向からぶつかり合い、洞窟蟹に頭突きを喰らわせた、風神が――
「クケケケェー♪」と満足げに鳴いて、戻って来た。
ふぉん♪
『シガミー>>まさかの、言うことを聞きやがったな』
ふぉん♪
『>>なまじ人の言葉を介さなかったため、各種の言語系スキルが効率よく発揮出来ているように思われ』
その辺は追々やっていく、今は話が通じだけで超助かるぜ。
「じゃぁ風神は向こうで、五百乃大角たちを守ってやってくれ――ニャァ!」
わからん猫語で、言ってみれば――
「クケケケケェー♪」
わからん恐竜モドキ語が、返ってきた。
「みゃにゃぎゃにゃぁー♪」
柱を振り回し、残りの蟹を追いかけ回す黄緑色。
風神の頭突きを喰らって、ひっくり返った蟹の甲羅が割れて、中身が出ちまってる。
ふぉん♪
『シガミー>>おにぎりが甲羅を割っちまったら大変だから、行ってくらぁ!』
女神像わぁ、任せたからなぁ!
腰の辺りの夏毛を引っ張って、太刀を持たせた。
太刀緒代わりの夏毛は引っ張り出すと、迅雷の機械腕みたいに使える。
力も強く、重い物も平気だ。
いつだかは、暴れるガムランの姫さんを背中に貼り付けておけて超便利だった。
「ウカカカカッ♪――ニャァ♪」
太刀で居合いを放つのわぁ、前世ぶりだぜっ!
§
ギュギギギギギギッ――――ギャッギィィィン♪
蟹の中身を零さんよう、甲羅を避けて脚を狙ったら――
透かさず鋏で、弾かれた!
「(シガミー、ロットリンデの言葉通りに、惑星ヒースの甲殻類は、とても強敵です)」
倉庫から迅雷が、念話を送ってきた。
「(そうだな、厨房ダンジョンでは、儘と逃げられちまったからなぁ!)」
目の前を大きな鋏が、ゆっくりと通り過ぎていく。
ふぉん♪
『シガミー>>例の鋏わぁ、ちゃんと持ってるか?』
あの村長箱の中わぁ、絵空事ではあったが、確かにおれぁ――
〝滅モード〟で蟹どもと、引き分けたはずだ。
ふぉん♪
『>>もちろんです、シガミー。封鎖空間内部で遭遇した生物は、擬似的に生成された紛い物ではありましたが、素材や食材として収得済みの物は、たとえ封鎖空間が解除されても残るようです』
鋏のアイコンが画面の最前面に、ポコンと現れた。
絵空事の蟹の鋏。
そいつぁ、夢現の境を――越えてきた。
間違いなく――現に有っては、いけねぇ物だ。
「(ちょっと! せっかく捕まえたぁ、おっきな鋏わぁ、美の女神の名にかけてぇ――絶対にぃー、返ぇーしぃーまぁーせぇーんーかぁーらぁーねぇ――!?)」
根菜も必死に、念話を寄越した。
「(わかってらぁ! この食材の使い道は、もう決まってる!)」
そもそも〝返す〟って、何処にだぜ――ウカカカッ♪
全ては「空」だ、悩む謂れは一つもねぇ!
「みゃぎゃにゃやー♪」
ぽぎゅごむん――――バキィン!
「ギュギギチ、ぶくぶく!」
やべぇな。
おにぎりの強烈な〝柱〟を喰らって、ひっくり返る蟹。
蟹の甲羅が、また割れちまった!
全部、割られちまう前に、頑張って――
一匹だけでも、捕まえねぇと。
がさがさがさがさっ、カチャカチャカチャチャッ――ガチリッ♪
蟹の脚音で、間合いをはかり――息をととのえた。
「七天抜刀根術、零の太刀――ニャァ。」
本来、技の名は無ぇ手習いの居合い。
七ある根術の型で言うなら、零の型。
その切れ味で言うなら、さしずめ〝滅〟の太刀か。
「チィエェェェェエィッ――――ニャァ!」
虎型ごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
ぽぎゅぎゅむっ――シュッカァァァァン♪
小太刀ほど短くなく、錫杖ほどには長くない。
太刀の長さは、虎型で使うのに丁度良かった。
ぼとぼとっぼとん――ドズン!
ウカカカカッ――――見たか、蟹太郎めっ!
片側の脚を全部、落としてやったぞ!
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ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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