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5:大森林観測村VSガムラン町
653:厨房ダンジョン、ロットリンデVSルガレイニア
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「ファロコやぁーい。ごはんだよー♪」
村長が両手に皿を持ち、木箱へ歩いて行く。
「シガミーこれ、お醤油だよね! おいしそうだっ♪」
村長と入れ替わりに、ニゲルが来た。
「そうだが……姫さんたちは、もう良いのか?」
もうケンカは、終わ……ってねぇよな。
蜂女と大申女はまだ、魔法杖を構えたままだぜ。
「リカルル……さまは、なんか気が済んだみたいだよ」
親友でもある侍女に彼処まで、叩きのめされちゃぁなぁ。
「ひひひひぃぃぃぃんっ?」
ニゲルは上機嫌な天ぷら号を、引き連れてた。
「お、良かったな、お前。荷車を繋いでもらったのか」
普通、馬は重い荷車を引かされたら、嫌がるもんだろうが――
「ぶるるるるぅっ?」
こいつは、普通の馬じゃないからな。
タターの袖を尻尾で、引っかけられなくなってから――
近頃は、おにぎりと一緒に居たんだが。
「そういやぁ、おにぎりのやつぁ、何処行ったんだぜ?」
鼻先を竈に近づけてきたから、ぐいと押し戻す。
炭火はまだ整え中だ。火が立ち上ってるから、あまり近寄ると焦げる。
「ひひひひひぃぃん?」
ぽきゅぽきゅと下がる、黄緑色の馬。
「この香り♪ ヒーノモトーの塩っ辛い、調味料ですわねっ?」
荷車に積まれた荷物の影から、艶やかなドレス姿の姫さんが――
飛び出してきた!
「何だぜ、居たのか――よいしょっと♪」
整えた炭火の上に、串刺しの魚を乗せていく。
「シガミー、私にも一つ頂けるかしら♪」
そういってテーブル代わりの調理台に、着席するリカルル。
椅子は厨房を作るときに、くり抜いた大木から削り出した物で――
重ねりゃ踏み台、ひっくり返せば食材籠にもなる。
「へぇい、毎度どーも♪」
ミノ太郎を諦めてくれたんなら、もう敵じゃねぇ。
せいぜい愛想を、良くしておくとするぜ。
ぱったぱたたたたっ――調理台側へ灰が飛ばねぇよう、小刻みに団扇で扇ぐ。
じゅっじゅじゅじゅじゅじゅぅぅうぅっ――――♪
「ふふふ、まるでフェスタの時の、露店みたいですわね♪」
ニゲルに向かって後ろ髪を、たくし上げてみせる、ご令嬢。
この場にリオ……ルーガレさんが居合わせたら――
彼の命は、なかっただろう。
村人たちも、また色々と鷲づかみだし。
「ど、どどどどどどどうしたんだい、リカルル……さま? き、綺麗な首筋だ……ね?」
ふぉん♪
『恋愛相談所所長>か、カスわね。もぅ、何から何まで撃滅に超カスよ、三十六くんさぁ!』
皿の上を縦横無尽に転がる、お前さまも結構なカス野郎さまじゃね?
とは思うが、今日の所は黙っておく。
「もう、気が利きませんわね。髪が汚れないように、括って下さらないこと?」
髪を括る紐なら丁度、良いやつがあるぜ――ヴッ♪
「じゃぁ、此奴を使ってくれ。その布はリオレイニアのお墨付きだから、物は悪くないはずだぜ」
おれはニゲルに〝紫色のリボン〟を、放り投げてやった。
「うわっとととっ、あ、ありがとうシガミー!」
細首に見とれすぎて、紐を落としそうになる青年。
「まったく何年執事をしているのかしら、これだからニゲルは――〝万年ルーキー〟、〝ガムランの狼〟、〝メンテナンスフリー〟、〝LV不詳事〟、〝錆びた剣〟、〝揚げ芋〟などと呼ばれるのではなくって?」
なじるような口調ではなく、心からの言葉に聞こえる。
つまるところ、面と向かっての……悪口だ。
「えっ!? 僕、食堂の店員だよ? 猪蟹屋二号店でも働いては居るけど?」
ニゲルは二号店店長兼、木さじ食堂の仕込み要員でもある。
ふぉん♪
『>>ニゲルは普段の冒険者装備と比べて、店長制服や執事服が殊の外、似合っていますね。もっとも従者としての教育は受けていないので、見かけ倒しですが』
だよなー。見てくれは其処まで、悪くねぇんだが。
「ところでシガミー。そろそろお魚は、終わりじゃないの? ウケケッケッ?」
籠に入った魚は、確かに残り数匹だった。
「ところでさ……いま、僕の呼び名が一個増えてなかった?」
ふぉん♪
『>>増えていたのは二個です。そのうちの一つは、イオノファラーの雑な仕事に由来しています』
「いいからっ、早くなさい!」
ふたたび晒される、細首。
「えっ、ええっ!? ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ、僕がやるのかい!?」
ぼが多い。
「ルーガ……リオレイニアがそばに居ないのですから、仕方がないでしょう?」
ニゲルが思い人を見下ろし、首から上を真っ赤に染めていく。
リオ……ルガレイニアたちを見れば――
大蜂メイドと、大申令嬢が――
「ちょっと、使用人の方。邪魔しないで下さらない? 私、火加減なんて出来ませんわよ?」
悪逆令嬢の、そんな言葉にルガレイニアが震え――♪
前掛けに両手を、突っ込んだ。
かちゃちゃり、かちゃちゃりっ♪
またもや雑な、杖の扱い。
コォン、カシャラララッ、カララララン♪
ばら撒かれ放題の、練習用魔法杖。
「やっぱり、おかしいぜ?」
ふぉん♪
『>>靴を震わせる威嚇音のせいで、手元が疎かになっているのでは?』
うむ、そうかもしれねぇ。
「くすくす、先ほどの詠唱魔術には驚かされましたけれど、そぉんな小さな杖一本で、この私に敵うとお思いなのかしるぁぁぁぁぁ――――!?」
ぼぼぼぼっ、ごごぅわぁ――♪
色とりどりの爆煙が、片手の指の間から立ち上る!
「ろ、ロットリンデッ――ハウスだよハウス!」
尻餅をつき、木箱にしがみ付いた村長が、叫ぶ。
ありゃ商会長が大申女を、窘めるときに使った言葉だ。
刃臼てぇのわぁ、意味はわからんが――
字面がおっかねぇ割に、全然効いてねぇじゃんかよぉ!
おい、どうすりゃ良い?
こんな狭ぇ所で、あの尋常じゃねぇ爆発魔法を使われた日にゃ、おれたち全員一瞬でお陀仏だぜ!?
ふぉん♪
『>いえ、まずは様子を見ましょう。本気のリオレイニアも居ますし』
ふぉん♪
『イオノ2>そうわよ。いまシガミーがするべきことわ、お魚に変わる食材の確保ですよ? 早急なおかわりを所望します』
調理台の上の〝浮かぶ球〟から、小さな持ち手のような体がニョキリと生えた。
魔王と女神の球のように、根菜さまの体を――空中に映し出しているのだ。
要らぬ芸当ばかり、覚えやがって。
§
「消し飛びなさぃなっ、爆・発・魔・法!」
消し飛んだら、駄目だろうが!
ヒュヒュヒュヒュボボボボボゴゥワワワァァァァッ♪
黒く赤く青く白い、四色の噴煙。
悪逆令嬢の手から放たれたそれは、真っ直ぐには飛ばず。
向かい風を受けた矢のように――
ふらふらと緩急の付いた動き。
「何ですの、あの魔法っ! とても防ぐことなんて、出来ませんわ――ルガレーニアッ!?」
叫ぶ、悪漢まがいの令嬢赤。
「ヴヴヴヴヴウヴヴッ――――♪」
蜂は震える。
ふぉん♪
『ルガレイニア>杖よ!』
だから蜂語と文言が、逆だろーが!
ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォゥゥン――――♪
それは震える蜂女の、足下で起きた。
蜂女が靴を震わすことで起こる、威嚇音。
ソレが伝播したかのように、カタカタタタカタ、カカカッカカカカッ、カチャチャチャチャチャチャチャチャッ――――――――!
地を跳ね回る、無数の練習用魔法杖たち。
コンコンココココココココッ――
カチャカチャカシャラララッ!
小杖が一斉に踊り出し、蜂を取り囲んだ。
「まさか、ルガレイニアが、ぽろぽろと零して、ばら撒いていた杖は――」
「ヴヴヴヴッウヴヴッヴウッヴッ――――――――♪」
地に立つ無数の、一本箸のような。
そのうちの三本が、コココンと大きく跳ね上がり――ヴォゥン♪
眼前の敵に、ぴたりと狙いを付けた。
ふぉふぉふぉぉん♪
『ルガレイニア>ひかりのたてよ、ひかりのたてよ、ひかりのたてよ!』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
光る文様が、ひょろ長い厨房に現れていく!
3枚の曼荼羅は、やや暗い棚の隅までを、煌々と照らし出す。
あれは鉄盆や大盾に、重ねて使うのが本式だが――
空中に放つことも出来る。
曼荼羅は、二つの鉄籠なんかを素通りし――――
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
爆発魔法使いの手から、噴き出した大爆煙と――激突する!
爆煙が4で、盾が3。
全部を、防げたとしても――
蜂女が一回分、多く炙られるだろ?
ボボボボゴゴゴゥワッ――爆煙が爆煙を吹き出し。
まるで雷光のように、メチャクチャな軌道を辿る。
これじゃ、リカルルが言ったように、通り道を予測出来ない――
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
一枚目の、ひかりのたてが躱された。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
二枚目の、ひかりのたても躱された。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
三枚目の、ひかりのたてもが躱されたが――
「ヴヴヴッ――――♪」
蜂が、手にした魔法杖を、くるんと回すと――
ヴォヴォォ、ヴォゥヴォゥゥゥゥォン!
三枚目の、ひかりのたてが大きく動いた。
爆発魔法を追いかける動きは、ルガレイニアの杖先と同じ。
手首の素早い動きそのままに、噴煙を切り裂く!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
四つの噴煙を爆発、霧散させた!
ふぅい、危ねぇ……っていうか、今の紋様の動き。
ひかりのたてで、物をぶった切れるのかよ!
超危ねぇっ!
「きゃぁ♪ ルーガレーッ!」
リカルルが歓声をあげる!
「「ルガレイニア先生!」」
「「「ァハァン!?」」」
「「「「ゥィヤァアァァァァアアァァッ――――!?」」」」
子供らと、おっさんと村人たちも、呑気なもんだぜ。
爆発で起きた突風に煽られる――蜂女。
「さすがは宮廷魔導師! 中々やりますわね――ズゴン!」
鉄棒を投げ捨てる、悪逆にして吸血鬼とまで揶揄される――
伝説の悪女ロットリンデ!
鉄棒は床に敷いた石板に、またもや罅を入れ、真っ直ぐに屹立する。
ぱしん――手を打ち合わせ、組んだ両手の隙間から――
今度は両手の指の間からだけではなく、手と手と指と指の無数に出来る隙間から――
ありとあらゆる色彩の噴煙が――立ち上っていく!
村長が両手に皿を持ち、木箱へ歩いて行く。
「シガミーこれ、お醤油だよね! おいしそうだっ♪」
村長と入れ替わりに、ニゲルが来た。
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もうケンカは、終わ……ってねぇよな。
蜂女と大申女はまだ、魔法杖を構えたままだぜ。
「リカルル……さまは、なんか気が済んだみたいだよ」
親友でもある侍女に彼処まで、叩きのめされちゃぁなぁ。
「ひひひひぃぃぃぃんっ?」
ニゲルは上機嫌な天ぷら号を、引き連れてた。
「お、良かったな、お前。荷車を繋いでもらったのか」
普通、馬は重い荷車を引かされたら、嫌がるもんだろうが――
「ぶるるるるぅっ?」
こいつは、普通の馬じゃないからな。
タターの袖を尻尾で、引っかけられなくなってから――
近頃は、おにぎりと一緒に居たんだが。
「そういやぁ、おにぎりのやつぁ、何処行ったんだぜ?」
鼻先を竈に近づけてきたから、ぐいと押し戻す。
炭火はまだ整え中だ。火が立ち上ってるから、あまり近寄ると焦げる。
「ひひひひひぃぃん?」
ぽきゅぽきゅと下がる、黄緑色の馬。
「この香り♪ ヒーノモトーの塩っ辛い、調味料ですわねっ?」
荷車に積まれた荷物の影から、艶やかなドレス姿の姫さんが――
飛び出してきた!
「何だぜ、居たのか――よいしょっと♪」
整えた炭火の上に、串刺しの魚を乗せていく。
「シガミー、私にも一つ頂けるかしら♪」
そういってテーブル代わりの調理台に、着席するリカルル。
椅子は厨房を作るときに、くり抜いた大木から削り出した物で――
重ねりゃ踏み台、ひっくり返せば食材籠にもなる。
「へぇい、毎度どーも♪」
ミノ太郎を諦めてくれたんなら、もう敵じゃねぇ。
せいぜい愛想を、良くしておくとするぜ。
ぱったぱたたたたっ――調理台側へ灰が飛ばねぇよう、小刻みに団扇で扇ぐ。
じゅっじゅじゅじゅじゅじゅぅぅうぅっ――――♪
「ふふふ、まるでフェスタの時の、露店みたいですわね♪」
ニゲルに向かって後ろ髪を、たくし上げてみせる、ご令嬢。
この場にリオ……ルーガレさんが居合わせたら――
彼の命は、なかっただろう。
村人たちも、また色々と鷲づかみだし。
「ど、どどどどどどどうしたんだい、リカルル……さま? き、綺麗な首筋だ……ね?」
ふぉん♪
『恋愛相談所所長>か、カスわね。もぅ、何から何まで撃滅に超カスよ、三十六くんさぁ!』
皿の上を縦横無尽に転がる、お前さまも結構なカス野郎さまじゃね?
とは思うが、今日の所は黙っておく。
「もう、気が利きませんわね。髪が汚れないように、括って下さらないこと?」
髪を括る紐なら丁度、良いやつがあるぜ――ヴッ♪
「じゃぁ、此奴を使ってくれ。その布はリオレイニアのお墨付きだから、物は悪くないはずだぜ」
おれはニゲルに〝紫色のリボン〟を、放り投げてやった。
「うわっとととっ、あ、ありがとうシガミー!」
細首に見とれすぎて、紐を落としそうになる青年。
「まったく何年執事をしているのかしら、これだからニゲルは――〝万年ルーキー〟、〝ガムランの狼〟、〝メンテナンスフリー〟、〝LV不詳事〟、〝錆びた剣〟、〝揚げ芋〟などと呼ばれるのではなくって?」
なじるような口調ではなく、心からの言葉に聞こえる。
つまるところ、面と向かっての……悪口だ。
「えっ!? 僕、食堂の店員だよ? 猪蟹屋二号店でも働いては居るけど?」
ニゲルは二号店店長兼、木さじ食堂の仕込み要員でもある。
ふぉん♪
『>>ニゲルは普段の冒険者装備と比べて、店長制服や執事服が殊の外、似合っていますね。もっとも従者としての教育は受けていないので、見かけ倒しですが』
だよなー。見てくれは其処まで、悪くねぇんだが。
「ところでシガミー。そろそろお魚は、終わりじゃないの? ウケケッケッ?」
籠に入った魚は、確かに残り数匹だった。
「ところでさ……いま、僕の呼び名が一個増えてなかった?」
ふぉん♪
『>>増えていたのは二個です。そのうちの一つは、イオノファラーの雑な仕事に由来しています』
「いいからっ、早くなさい!」
ふたたび晒される、細首。
「えっ、ええっ!? ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ、僕がやるのかい!?」
ぼが多い。
「ルーガ……リオレイニアがそばに居ないのですから、仕方がないでしょう?」
ニゲルが思い人を見下ろし、首から上を真っ赤に染めていく。
リオ……ルガレイニアたちを見れば――
大蜂メイドと、大申令嬢が――
「ちょっと、使用人の方。邪魔しないで下さらない? 私、火加減なんて出来ませんわよ?」
悪逆令嬢の、そんな言葉にルガレイニアが震え――♪
前掛けに両手を、突っ込んだ。
かちゃちゃり、かちゃちゃりっ♪
またもや雑な、杖の扱い。
コォン、カシャラララッ、カララララン♪
ばら撒かれ放題の、練習用魔法杖。
「やっぱり、おかしいぜ?」
ふぉん♪
『>>靴を震わせる威嚇音のせいで、手元が疎かになっているのでは?』
うむ、そうかもしれねぇ。
「くすくす、先ほどの詠唱魔術には驚かされましたけれど、そぉんな小さな杖一本で、この私に敵うとお思いなのかしるぁぁぁぁぁ――――!?」
ぼぼぼぼっ、ごごぅわぁ――♪
色とりどりの爆煙が、片手の指の間から立ち上る!
「ろ、ロットリンデッ――ハウスだよハウス!」
尻餅をつき、木箱にしがみ付いた村長が、叫ぶ。
ありゃ商会長が大申女を、窘めるときに使った言葉だ。
刃臼てぇのわぁ、意味はわからんが――
字面がおっかねぇ割に、全然効いてねぇじゃんかよぉ!
おい、どうすりゃ良い?
こんな狭ぇ所で、あの尋常じゃねぇ爆発魔法を使われた日にゃ、おれたち全員一瞬でお陀仏だぜ!?
ふぉん♪
『>いえ、まずは様子を見ましょう。本気のリオレイニアも居ますし』
ふぉん♪
『イオノ2>そうわよ。いまシガミーがするべきことわ、お魚に変わる食材の確保ですよ? 早急なおかわりを所望します』
調理台の上の〝浮かぶ球〟から、小さな持ち手のような体がニョキリと生えた。
魔王と女神の球のように、根菜さまの体を――空中に映し出しているのだ。
要らぬ芸当ばかり、覚えやがって。
§
「消し飛びなさぃなっ、爆・発・魔・法!」
消し飛んだら、駄目だろうが!
ヒュヒュヒュヒュボボボボボゴゥワワワァァァァッ♪
黒く赤く青く白い、四色の噴煙。
悪逆令嬢の手から放たれたそれは、真っ直ぐには飛ばず。
向かい風を受けた矢のように――
ふらふらと緩急の付いた動き。
「何ですの、あの魔法っ! とても防ぐことなんて、出来ませんわ――ルガレーニアッ!?」
叫ぶ、悪漢まがいの令嬢赤。
「ヴヴヴヴヴウヴヴッ――――♪」
蜂は震える。
ふぉん♪
『ルガレイニア>杖よ!』
だから蜂語と文言が、逆だろーが!
ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォン、ヴォゥゥン――――♪
それは震える蜂女の、足下で起きた。
蜂女が靴を震わすことで起こる、威嚇音。
ソレが伝播したかのように、カタカタタタカタ、カカカッカカカカッ、カチャチャチャチャチャチャチャチャッ――――――――!
地を跳ね回る、無数の練習用魔法杖たち。
コンコンココココココココッ――
カチャカチャカシャラララッ!
小杖が一斉に踊り出し、蜂を取り囲んだ。
「まさか、ルガレイニアが、ぽろぽろと零して、ばら撒いていた杖は――」
「ヴヴヴヴッウヴヴッヴウッヴッ――――――――♪」
地に立つ無数の、一本箸のような。
そのうちの三本が、コココンと大きく跳ね上がり――ヴォゥン♪
眼前の敵に、ぴたりと狙いを付けた。
ふぉふぉふぉぉん♪
『ルガレイニア>ひかりのたてよ、ひかりのたてよ、ひかりのたてよ!』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
光る文様が、ひょろ長い厨房に現れていく!
3枚の曼荼羅は、やや暗い棚の隅までを、煌々と照らし出す。
あれは鉄盆や大盾に、重ねて使うのが本式だが――
空中に放つことも出来る。
曼荼羅は、二つの鉄籠なんかを素通りし――――
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
爆発魔法使いの手から、噴き出した大爆煙と――激突する!
爆煙が4で、盾が3。
全部を、防げたとしても――
蜂女が一回分、多く炙られるだろ?
ボボボボゴゴゴゥワッ――爆煙が爆煙を吹き出し。
まるで雷光のように、メチャクチャな軌道を辿る。
これじゃ、リカルルが言ったように、通り道を予測出来ない――
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
一枚目の、ひかりのたてが躱された。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
二枚目の、ひかりのたても躱された。
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ヒュボゴゴゥワッ!
三枚目の、ひかりのたてもが躱されたが――
「ヴヴヴッ――――♪」
蜂が、手にした魔法杖を、くるんと回すと――
ヴォヴォォ、ヴォゥヴォゥゥゥゥォン!
三枚目の、ひかりのたてが大きく動いた。
爆発魔法を追いかける動きは、ルガレイニアの杖先と同じ。
手首の素早い動きそのままに、噴煙を切り裂く!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
ヴォシュ――――バッゴォォォォゥン!
四つの噴煙を爆発、霧散させた!
ふぅい、危ねぇ……っていうか、今の紋様の動き。
ひかりのたてで、物をぶった切れるのかよ!
超危ねぇっ!
「きゃぁ♪ ルーガレーッ!」
リカルルが歓声をあげる!
「「ルガレイニア先生!」」
「「「ァハァン!?」」」
「「「「ゥィヤァアァァァァアアァァッ――――!?」」」」
子供らと、おっさんと村人たちも、呑気なもんだぜ。
爆発で起きた突風に煽られる――蜂女。
「さすがは宮廷魔導師! 中々やりますわね――ズゴン!」
鉄棒を投げ捨てる、悪逆にして吸血鬼とまで揶揄される――
伝説の悪女ロットリンデ!
鉄棒は床に敷いた石板に、またもや罅を入れ、真っ直ぐに屹立する。
ぱしん――手を打ち合わせ、組んだ両手の隙間から――
今度は両手の指の間からだけではなく、手と手と指と指の無数に出来る隙間から――
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