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5:大森林観測村VSガムラン町
652:厨房ダンジョン、炭火と口上
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「やってくれました――わねっ、ごっひゅひゅごふゅ――ふっしゅっ!」
口や鼻から蒼白い炎をまき散らす、狐耳のお嬢さま。
「お怪我は、ございませんか――――ヴヴヴヴヴッ?」
甲斐甲斐しく抱き起こす、蜂顔のメイド。
「狐火の高等魔術が使えないなんて……私の完敗ですわ! えーもー本っ当にっ、気持ちの良いくらい!」
しおらしい言葉が聞こえてくるが、彼女の光線の狐火――
〝狐火・仙花〟単体なら、まだ使えるだろ?
弓のように撓る光の筋を散蒔くだけでも、並みの人間には避けられん。
ふぉん♪
『>>ウィルオーウィスプ・レーザーです。火種だけがあっても〝狐火・月輪〟の燃料となる、大量の狐火が返されてしまった今、心許ないのも事実では?』
まぁーなぁ、先の家宝勝負で、実際に相対した天狗役は――
〝狐火・月輪〟の数と、その脈動の恐ろしさを――身を以て知っているからなぁ。
ふぉん♪
『>>クローズドサーキット・レーザーです。単発型と設置型の違いは、豆鉄砲と多連装ロケット砲程の差があります。前回は引き分けに持ち込めましたが、裏天狗を使用したイカサマを使用しなければ負けていたのはこちらです』
そうだな。ソレを下したリオレイニアも、異端なのだ。
ふぉん♪
『ヒント>豆鉄砲。空圧を利用した豆粒を飛ばず玩具。紙玉や杉玉を使用する物もある。』
「先ほどのは〝普段使いの使いなれた魔法杖を、自ら破壊しなければならない〟、ただ一度のみ使える究極の禁じ手です。本来、魔術師が易々と扱えるような術ではございません」
おい、リオ。そんな重要なことを、ぺらぺら喋っちまって良いのか?
「もぉぐもぉぐ、がぁつがぁつ――♪」
ふぉん♪
『イオノ>小MAP全域効果範囲のある強化系バフを、もぐもぐ、帳消しにするリムーブ系って所かしらん? 見たことも聞いたこともないですけれど、もぐもぐもぐ、あ、シガミー』
「――おかわりちょーだい♪」
もう一つ取り出された、改良前の浮かぶ球。
それを〝何たらの御神体〟扱いとやらにすると――
女神さまが、飯を食ったり出来るようになる。
ふぉん♪
『>プライマリデバイス、〝いつも使う御神体〟として登録したプロジェクションBOTは、各種プレミアム機能を、ご利用可能です』
知らん。
「へいへい、ちょっとまて順番だ」
魚を焼く手を止めずに、聞こえてくる会話に耳を傾ける。
ふぉん♪
『イオノ>へいは一回、もぐもぐごくん♪』
うるせぇ、この飯神さまめ。
焼いて皿に乗せるそばから――ごろごろろぉん♪
皿の上を転がる速さで、平らげやがって!
そのくせ、倉庫への道は――――『(ಠﭛಠ)』
しっかりと、浮かぶ球で守ってやがる!
ふぉん♪
『イオノ>マルチタスクですので』
やかましぃ。
ふぉん♪
『シガミー>お前さまのおかわりは、村人たちに出してからだぜ』
ふぉん♪
『>>それにしても先ほどの術は、この世界にある汎用的なものとは、乖離した印象を受けます』
うん。あれもサキラテ家の秘伝かも知れんぞ。
「あらそれは、良いことを伺いましましたわ。まったくもって、状況は飲み込めませんが――ただ一度のみ使えるということは、貴方はもう、爆発魔法を防ぐ手だてが無いと言うことなのでしょぉ♪」
大声で敵の隙を突く。
これが大申で悪逆の、このご令嬢の本質なのだろう。
放つ言葉の中身さえ聴かなければ、何て可憐な佇まいか。
村長は、こういうのに騙され……いや、絆されるんだろうぜ。
ふぉん♪
『>>はい。まさにリカルルとニゲルの関係性に、酷似しています』
だよなぁ。
「はいょ! 焼き森林木魚、上がったぜ!」
トトトン、トトトトン――村人たちの分が、焼き上がった。
「「「アハァン♪」」」
「「スッモーゥク!」」
「「マイクチェック!」」
フカフ村が3で、ロコロ村が4。
「はぁぁ、つ、疲れた」
おれたちを、この厨房と倉庫が入り乱れた、偽の厨房に放り込んだあとは――
暇になったらしい、村長がやって来た。
ふぉん♪
『>村長。今すぐ、この封鎖空間を解除して、元の空間へ復帰することは可能ですか?』
そうだな村長にも色々あるんだろうが、此方にも色々あるのだ。
ふぉん♪
『ジューク>ごめんよ。けど金貨一枚分時間が過ぎないと、封鎖空間をしまえないんだよね』
五百乃大角やニゲルやロットリンデほどではないが、村長は相当に器用だ。
手にしていた黒板への書き込みが、超早い。
「巻き込んじゃって、ごめんね……す、すまぬのじゃぁ」
ぺこりと頭を下げられたから、ぺこりと返した。
ふぉん♪
『>いいえ。そちらのご令嬢も気が強そう、いえ。ジューク氏の村長としての気苦労は、理解出来ますので』
ヴォヴォヴォゥゥン――ことり。
置かれる、水の入った樽杯。
迅雷の機械腕が、ぽんと村長の肩に置かれた。
「じゃぁ次は、村長の分を焼くが――」
おれは顎を、持ち上げてみせる。
「ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ?」
ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ♪
ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ♪
顎の先、倉庫の前に置かれた木箱から、鳴き声と腹の虫が二人分、聞こえてくる。
むぅ、形はおれよりでかいが、森の主としちゃぁ、まだまだ子供なのだろう。
ふぉん♪
『>>イオノファラーの気を削ぐためとはいえ、可哀想なことをしてしまいましたね』
一人、腹を空かせた木箱勢を見つめる。
っていうか、なんで五百乃大角の腹まで一緒になって、鳴ってやがるんだぜ。此方の浮かぶ球は、でかいのを既に一匹、平らげただろうが。
「ついでに焼くから、村長が持って行ってやってくれやぁ」
焦げねぇように炭を少し、ガシャガシャと横に退ける。
「ありがとう、シガミーちゃ……料理番どの、ふぉっふぉっふぉ、けほけほけっほけほ♪」
あまり大きく息を、吸い込むな。
今使ってるのは炭火の竈だが、こう脂ののった魚を焼き続けると――もわもわじゅじゅじゅぅぅぅぅっ♪
ふぉん♪
『>>竈の天井に設えた換気ダクトの、排気効率が良くありません』
んぅー?
正面の巨大倉庫にも食材を駄目にしない為の、風の通り道は作った。
けど正面入り口から見える、厨房とは反対側の――
一番風が抜ける場所に、窓は付いてない。
風の取入れ口か……まあ今更、物音を立てても怒られもすまい。
場合に寄ったら全員を連れて、そこから逃げられるかもしれんしな。
ヴォォオッゥゥゥゥウゥン♪
『>>では倉庫側に、どのような風の取入れ口を設置出来るか、チェックし』
軽快にすっ飛んでいく、SDK弾倉をぶら下げた空飛ぶ棒箱――
「フシャァァァァッ――――ぐきゅるるるるるぅっ!!」
がしり――くるくる、ぼすん♪
真上に飛び上がり、木箱に着地。
再び卵に抱きつく、獣目の娘。
「あ、捕まりまひはわ、もぐもぐ♪」「捕まっはね、もぐもぐ♪」
子供らは軽く飯を食いつつ、面白そうな出し物に釘付けだ。
「くそう、根菜も棒箱も、取られちまったか」
「ごめんよ。こらっ、ファロコ!」
村長が叱ってくれるが――
こいつぁ、駄目だな。
ふぉん♪
『>>シガミー、脱出してよろしいでしょうか?』
神力を使う、ビリビリする奴は止めとけ。
滅多なことをして卵が割れたら……遺恨が残らぁ。
おれは団扇を使って、ぱたたたと炭火を扇ぐ。
魚を焼き続けないと、五百乃大角の食欲も満たせねぇからな。
「はい村長、上がったよ! ファロコにも持ってってやってくれ♪」
皿は二つ。醤油を、ひと垂らし――じゅぅうぅっ♪
魚は二匹ずつ、乗せてやった。
§
「レーニ……リオレイニアとの勝負は付いたので、私はもうミノタウロースと剣を交えることは諦めますけれど――なんだかちょっと、気に入りませんわね?」
悪逆令嬢を見ることなく、ただただ自分を負かした相手を、見上げ続ける悪漢紛いのご令嬢。
その顔が、ニタリと歪む。
「ふぅ、かしこまりました」
お嬢さまの手を引き、立たせてやるメイド。
その顔には――銅がかった白金の眼鏡が。
はたはたとドレスを払い――
くるりと踵を返すと――
給仕服の裾が、ふわりと翻る。
男の村人の何人かが、その光景に心を鷲づかみにされ――
女の村人の何人かに、モサモサ頭や長髪を鷲づかみにされた。
カツカツと靴を鳴らし、主人の前に立つ、その顔は――
「あら貴方、そんなお顔でしたかしら……何だか森に棲む凶暴な、鉄甲蜂そっくりですわね?」
あぁ怖い怖いと鉄棒を抱きしめ、身を震わせる悪逆ご令嬢ロットリンデ。
ありゃぁ、イラッとするな。
「言われてますわよ、レーニア♪」
メイドの背に隠れたご令嬢(赤)が、こそこそとご令嬢(紫)を指さした。
片足を引き、前掛けを軽くつまんで持ち上げる――蜂女。
腰を落とせば――「ヴヴヴヴヴウッヴウヴッヴヴヴヴッ――――――――!」
強さを増す威嚇音、圧倒的蜂感。
ふぉふぉん♪
『リオレイニア>私、コントゥル家に使えております、リオレイニア・サキラテと申します。以後、お見知りおきを賜りますよう、お願い申し上げます』
ふぉん♪
『シガミー>逆だぜ逆。口上(建前)と蜂語(本音)が、逆になってるぞー』
「シガミーちゃん、おかわりっ! まったくもう、目が離せませんわっ♪」
「わ、わたしも。あの冷静沈着なイ……ルガレイニア先生の戦いを、間近で見られるなんて――♪」
本当に良い飯の余興だぜ、まったく。
「「「アハァン♪」」」
「「スッモーゥク!」」
「「マイクチェック!」」
って、お前らもかよっ!
「待ってろ、今すぐ焼いてやるから!」
けどその前に、炭を足さねぇと。
口や鼻から蒼白い炎をまき散らす、狐耳のお嬢さま。
「お怪我は、ございませんか――――ヴヴヴヴヴッ?」
甲斐甲斐しく抱き起こす、蜂顔のメイド。
「狐火の高等魔術が使えないなんて……私の完敗ですわ! えーもー本っ当にっ、気持ちの良いくらい!」
しおらしい言葉が聞こえてくるが、彼女の光線の狐火――
〝狐火・仙花〟単体なら、まだ使えるだろ?
弓のように撓る光の筋を散蒔くだけでも、並みの人間には避けられん。
ふぉん♪
『>>ウィルオーウィスプ・レーザーです。火種だけがあっても〝狐火・月輪〟の燃料となる、大量の狐火が返されてしまった今、心許ないのも事実では?』
まぁーなぁ、先の家宝勝負で、実際に相対した天狗役は――
〝狐火・月輪〟の数と、その脈動の恐ろしさを――身を以て知っているからなぁ。
ふぉん♪
『>>クローズドサーキット・レーザーです。単発型と設置型の違いは、豆鉄砲と多連装ロケット砲程の差があります。前回は引き分けに持ち込めましたが、裏天狗を使用したイカサマを使用しなければ負けていたのはこちらです』
そうだな。ソレを下したリオレイニアも、異端なのだ。
ふぉん♪
『ヒント>豆鉄砲。空圧を利用した豆粒を飛ばず玩具。紙玉や杉玉を使用する物もある。』
「先ほどのは〝普段使いの使いなれた魔法杖を、自ら破壊しなければならない〟、ただ一度のみ使える究極の禁じ手です。本来、魔術師が易々と扱えるような術ではございません」
おい、リオ。そんな重要なことを、ぺらぺら喋っちまって良いのか?
「もぉぐもぉぐ、がぁつがぁつ――♪」
ふぉん♪
『イオノ>小MAP全域効果範囲のある強化系バフを、もぐもぐ、帳消しにするリムーブ系って所かしらん? 見たことも聞いたこともないですけれど、もぐもぐもぐ、あ、シガミー』
「――おかわりちょーだい♪」
もう一つ取り出された、改良前の浮かぶ球。
それを〝何たらの御神体〟扱いとやらにすると――
女神さまが、飯を食ったり出来るようになる。
ふぉん♪
『>プライマリデバイス、〝いつも使う御神体〟として登録したプロジェクションBOTは、各種プレミアム機能を、ご利用可能です』
知らん。
「へいへい、ちょっとまて順番だ」
魚を焼く手を止めずに、聞こえてくる会話に耳を傾ける。
ふぉん♪
『イオノ>へいは一回、もぐもぐごくん♪』
うるせぇ、この飯神さまめ。
焼いて皿に乗せるそばから――ごろごろろぉん♪
皿の上を転がる速さで、平らげやがって!
そのくせ、倉庫への道は――――『(ಠﭛಠ)』
しっかりと、浮かぶ球で守ってやがる!
ふぉん♪
『イオノ>マルチタスクですので』
やかましぃ。
ふぉん♪
『シガミー>お前さまのおかわりは、村人たちに出してからだぜ』
ふぉん♪
『>>それにしても先ほどの術は、この世界にある汎用的なものとは、乖離した印象を受けます』
うん。あれもサキラテ家の秘伝かも知れんぞ。
「あらそれは、良いことを伺いましましたわ。まったくもって、状況は飲み込めませんが――ただ一度のみ使えるということは、貴方はもう、爆発魔法を防ぐ手だてが無いと言うことなのでしょぉ♪」
大声で敵の隙を突く。
これが大申で悪逆の、このご令嬢の本質なのだろう。
放つ言葉の中身さえ聴かなければ、何て可憐な佇まいか。
村長は、こういうのに騙され……いや、絆されるんだろうぜ。
ふぉん♪
『>>はい。まさにリカルルとニゲルの関係性に、酷似しています』
だよなぁ。
「はいょ! 焼き森林木魚、上がったぜ!」
トトトン、トトトトン――村人たちの分が、焼き上がった。
「「「アハァン♪」」」
「「スッモーゥク!」」
「「マイクチェック!」」
フカフ村が3で、ロコロ村が4。
「はぁぁ、つ、疲れた」
おれたちを、この厨房と倉庫が入り乱れた、偽の厨房に放り込んだあとは――
暇になったらしい、村長がやって来た。
ふぉん♪
『>村長。今すぐ、この封鎖空間を解除して、元の空間へ復帰することは可能ですか?』
そうだな村長にも色々あるんだろうが、此方にも色々あるのだ。
ふぉん♪
『ジューク>ごめんよ。けど金貨一枚分時間が過ぎないと、封鎖空間をしまえないんだよね』
五百乃大角やニゲルやロットリンデほどではないが、村長は相当に器用だ。
手にしていた黒板への書き込みが、超早い。
「巻き込んじゃって、ごめんね……す、すまぬのじゃぁ」
ぺこりと頭を下げられたから、ぺこりと返した。
ふぉん♪
『>いいえ。そちらのご令嬢も気が強そう、いえ。ジューク氏の村長としての気苦労は、理解出来ますので』
ヴォヴォヴォゥゥン――ことり。
置かれる、水の入った樽杯。
迅雷の機械腕が、ぽんと村長の肩に置かれた。
「じゃぁ次は、村長の分を焼くが――」
おれは顎を、持ち上げてみせる。
「ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ?」
ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ♪
ぐぅぎゅりゅるぎゅりゅ――ぅ♪
顎の先、倉庫の前に置かれた木箱から、鳴き声と腹の虫が二人分、聞こえてくる。
むぅ、形はおれよりでかいが、森の主としちゃぁ、まだまだ子供なのだろう。
ふぉん♪
『>>イオノファラーの気を削ぐためとはいえ、可哀想なことをしてしまいましたね』
一人、腹を空かせた木箱勢を見つめる。
っていうか、なんで五百乃大角の腹まで一緒になって、鳴ってやがるんだぜ。此方の浮かぶ球は、でかいのを既に一匹、平らげただろうが。
「ついでに焼くから、村長が持って行ってやってくれやぁ」
焦げねぇように炭を少し、ガシャガシャと横に退ける。
「ありがとう、シガミーちゃ……料理番どの、ふぉっふぉっふぉ、けほけほけっほけほ♪」
あまり大きく息を、吸い込むな。
今使ってるのは炭火の竈だが、こう脂ののった魚を焼き続けると――もわもわじゅじゅじゅぅぅぅぅっ♪
ふぉん♪
『>>竈の天井に設えた換気ダクトの、排気効率が良くありません』
んぅー?
正面の巨大倉庫にも食材を駄目にしない為の、風の通り道は作った。
けど正面入り口から見える、厨房とは反対側の――
一番風が抜ける場所に、窓は付いてない。
風の取入れ口か……まあ今更、物音を立てても怒られもすまい。
場合に寄ったら全員を連れて、そこから逃げられるかもしれんしな。
ヴォォオッゥゥゥゥウゥン♪
『>>では倉庫側に、どのような風の取入れ口を設置出来るか、チェックし』
軽快にすっ飛んでいく、SDK弾倉をぶら下げた空飛ぶ棒箱――
「フシャァァァァッ――――ぐきゅるるるるるぅっ!!」
がしり――くるくる、ぼすん♪
真上に飛び上がり、木箱に着地。
再び卵に抱きつく、獣目の娘。
「あ、捕まりまひはわ、もぐもぐ♪」「捕まっはね、もぐもぐ♪」
子供らは軽く飯を食いつつ、面白そうな出し物に釘付けだ。
「くそう、根菜も棒箱も、取られちまったか」
「ごめんよ。こらっ、ファロコ!」
村長が叱ってくれるが――
こいつぁ、駄目だな。
ふぉん♪
『>>シガミー、脱出してよろしいでしょうか?』
神力を使う、ビリビリする奴は止めとけ。
滅多なことをして卵が割れたら……遺恨が残らぁ。
おれは団扇を使って、ぱたたたと炭火を扇ぐ。
魚を焼き続けないと、五百乃大角の食欲も満たせねぇからな。
「はい村長、上がったよ! ファロコにも持ってってやってくれ♪」
皿は二つ。醤油を、ひと垂らし――じゅぅうぅっ♪
魚は二匹ずつ、乗せてやった。
§
「レーニ……リオレイニアとの勝負は付いたので、私はもうミノタウロースと剣を交えることは諦めますけれど――なんだかちょっと、気に入りませんわね?」
悪逆令嬢を見ることなく、ただただ自分を負かした相手を、見上げ続ける悪漢紛いのご令嬢。
その顔が、ニタリと歪む。
「ふぅ、かしこまりました」
お嬢さまの手を引き、立たせてやるメイド。
その顔には――銅がかった白金の眼鏡が。
はたはたとドレスを払い――
くるりと踵を返すと――
給仕服の裾が、ふわりと翻る。
男の村人の何人かが、その光景に心を鷲づかみにされ――
女の村人の何人かに、モサモサ頭や長髪を鷲づかみにされた。
カツカツと靴を鳴らし、主人の前に立つ、その顔は――
「あら貴方、そんなお顔でしたかしら……何だか森に棲む凶暴な、鉄甲蜂そっくりですわね?」
あぁ怖い怖いと鉄棒を抱きしめ、身を震わせる悪逆ご令嬢ロットリンデ。
ありゃぁ、イラッとするな。
「言われてますわよ、レーニア♪」
メイドの背に隠れたご令嬢(赤)が、こそこそとご令嬢(紫)を指さした。
片足を引き、前掛けを軽くつまんで持ち上げる――蜂女。
腰を落とせば――「ヴヴヴヴヴウッヴウヴッヴヴヴヴッ――――――――!」
強さを増す威嚇音、圧倒的蜂感。
ふぉふぉん♪
『リオレイニア>私、コントゥル家に使えております、リオレイニア・サキラテと申します。以後、お見知りおきを賜りますよう、お願い申し上げます』
ふぉん♪
『シガミー>逆だぜ逆。口上(建前)と蜂語(本音)が、逆になってるぞー』
「シガミーちゃん、おかわりっ! まったくもう、目が離せませんわっ♪」
「わ、わたしも。あの冷静沈着なイ……ルガレイニア先生の戦いを、間近で見られるなんて――♪」
本当に良い飯の余興だぜ、まったく。
「「「アハァン♪」」」
「「スッモーゥク!」」
「「マイクチェック!」」
って、お前らもかよっ!
「待ってろ、今すぐ焼いてやるから!」
けどその前に、炭を足さねぇと。
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