526 / 739
4:龍撃の学院
526:ツツィア子爵領紀行、リファービッシュと不穏な知らせ
しおりを挟む
「なるほどあれだけのゴーレムの大群を、どのようにして統率しているのかが、なんとなく見えてきましたね」
秘書の手帳が一杯になったころ、どうにか一息つけた。
新しい手帳を懐から取り出し、鉄筆を挟んでぱちんと閉じる。
あの手帳……帳面は、リオで言うところの〝魔法杖(小)〟みたいなもんだな。
たぶん、おれが思う十倍くらい予備がある。
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
的確に余計なことを言う〝筆頭御意見番〟こと、レイダ・クェーサー。
手帳や根菜を置く台と化していた、子供の頭が揺れた。
「そうわねー。元々のデザインコンセプトは〝威圧〟の一点張りでカスだけどぉー。この子馬ちゃんの中身わぁ、なかなかの物ではあるわよねぇん♪」
常人の約50倍ものおれのスキルや神々の叡知、そして超レアな△。
そんな如何様もなしに、おにぎりみたいな勝手に動き回るやつを拵えるだけの――
スキルと才能と根性を、あの王女さまは持っている。
「そのぱんぱんのお腹の蓋を、きちんと閉めるのには……苦労しましたよー」
片手を子馬の尻尾にぶら下げた給仕服が、ジトリとした目で子馬の腹を睨みつけた。
子馬の中身が王女の魔導工学と自然力の賜なら――
その外見はタターとレイダの、功績によるところが大きい。
どうしても威圧感を足そうとする王女殿下と、真っ向からやり合ったらしい。
いまこうして天ぷら号が、おれたちに囲まれているのは――
この子馬にとっても、とっても良かったと思う。
「うん、なんとなくだが。王女殿下の物作りの肝みたいなものが、わかった気がしないでもな――」
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
御意見番は的確に、口を挟む。
「そうわねぇ……ゴーレムOS――天ぷら号の動く仕組みを司っているのは王女さまだから、子馬の側……から調整す方法わぁ、わーかーらーなーいーわーねーぇ」
根菜の眉根が、むぎゅりと寄る。
「おれが轟雷を着て真後ろを見るときの、目の動かし方を教えてやれりゃ簡単なんだが」
ふぉん♪
『>その場合でも情報共有のために、AOS(女神像OS)のインストールが必要になります』
結局、酢蛸かSDKが要るんだな。
「でもそれでもテンプーラゴウを、直せるわけじゃないんでしょぉ?」
こいつ……ただ会話に混ざりてぇだけだな。
「いや、直せるぞ。急ごしらえだから見栄えが悪いかもしれんが」
たったいま思いついたことを、やってみる。
§
「ぎゃはははははっ、何そのお顔っ!」
「あははははははっは、かっ、かわっいい♪」
よし、うけてるな。
ジトリとした半目で、おれたちを見上げる天ぷら号。
おれは子馬に、まぶたをつけてやった。
つまりは簡単な話だ。
おれの全天球レンズで物を見ると、活力を食われちまうと言うなら。
見る範囲を、半分にすりゃ良い。
急ごしらえだから、自分で閉じたりは出来ねぇが。
「ふっうーん、考えたわねぇ。坊主相変わらずの、脅威の理解力♪」
ヴォォォォゥン♪
手伝いが終わったのか、迅雷が飛んできた。
「そうデすね。視覚情報ヲ物理的に軽量化すルとは」
「ひっひひひひぃぃぃぃんっ?」
子馬はよろよろと、立ち上がる。
しかしこりゃやべぇな。
まぶたで隠れた瞳で、馬顔が八の字になって――
何とも覇気のねぇ面になっちまったぜ。
しかし笑われてるな。
〝面白い〟が過ぎらぁ。
せめて凜々しくしてやろうと――ギュギュリッ。
目頭がわへ、傾けてやる。
「怒ってる? ねぇ、ひょっとして怒ってるのっ?」
「かっかわいい、ぎゃひー!」
「キリッ!」
「かわいいですね」
「かわよい♪」
「プークスん♪《・》」
「うふふ、素敵ですね」
やかましいぞ、お前ら。
暇な奴らが、集まって来やがったぜ。
「ひひひひぃぃぃん?」
お前も顔を向けるんじゃねぇや、面白ぇから。
これじゃ王女は、絶対に納得せんだろな。
おれの全天球レンズをみて――
「この新型の集光装置は、デザインにパンチがなくて、威圧感に欠けるらぁん?」
って言ってたからな。
ふぉん♪
『>彼女にとってゴーレムの定義とは、〝厳つい見た目〟に他ならないようですから追々、策を講じましょう』
王女が全天球レンズ用の燃費とやらを考えてくれりゃ、こんな面白は要らんだろ。
気づきゃ日が、大分傾いてた。
没頭して子馬を看てたら、もう夕方近いじゃんか。
ふぉルるォらレぃ!
ふォるるぉられィ!
フぉるルぉラれぃ!
とつぜん母屋から響く、聞きなれねぇ音!
首にさげた冒険者カードからも、聞こえてきた。
「冒険者カードヲ使っタ、緊急時連絡網でス」
一斉に自分のカードを確かめる、冒険者たち。
「こりゃ、変異種でも出やがったか!?」
銀の板の表側。名前が書いてねえ方。
ギルドの紋章の下には、こんな文字が浮かびあがっていた。
『緊急のお知らせ
旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョンより、緊急コールが発せられました。』
秘書の手帳が一杯になったころ、どうにか一息つけた。
新しい手帳を懐から取り出し、鉄筆を挟んでぱちんと閉じる。
あの手帳……帳面は、リオで言うところの〝魔法杖(小)〟みたいなもんだな。
たぶん、おれが思う十倍くらい予備がある。
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
的確に余計なことを言う〝筆頭御意見番〟こと、レイダ・クェーサー。
手帳や根菜を置く台と化していた、子供の頭が揺れた。
「そうわねー。元々のデザインコンセプトは〝威圧〟の一点張りでカスだけどぉー。この子馬ちゃんの中身わぁ、なかなかの物ではあるわよねぇん♪」
常人の約50倍ものおれのスキルや神々の叡知、そして超レアな△。
そんな如何様もなしに、おにぎりみたいな勝手に動き回るやつを拵えるだけの――
スキルと才能と根性を、あの王女さまは持っている。
「そのぱんぱんのお腹の蓋を、きちんと閉めるのには……苦労しましたよー」
片手を子馬の尻尾にぶら下げた給仕服が、ジトリとした目で子馬の腹を睨みつけた。
子馬の中身が王女の魔導工学と自然力の賜なら――
その外見はタターとレイダの、功績によるところが大きい。
どうしても威圧感を足そうとする王女殿下と、真っ向からやり合ったらしい。
いまこうして天ぷら号が、おれたちに囲まれているのは――
この子馬にとっても、とっても良かったと思う。
「うん、なんとなくだが。王女殿下の物作りの肝みたいなものが、わかった気がしないでもな――」
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
御意見番は的確に、口を挟む。
「そうわねぇ……ゴーレムOS――天ぷら号の動く仕組みを司っているのは王女さまだから、子馬の側……から調整す方法わぁ、わーかーらーなーいーわーねーぇ」
根菜の眉根が、むぎゅりと寄る。
「おれが轟雷を着て真後ろを見るときの、目の動かし方を教えてやれりゃ簡単なんだが」
ふぉん♪
『>その場合でも情報共有のために、AOS(女神像OS)のインストールが必要になります』
結局、酢蛸かSDKが要るんだな。
「でもそれでもテンプーラゴウを、直せるわけじゃないんでしょぉ?」
こいつ……ただ会話に混ざりてぇだけだな。
「いや、直せるぞ。急ごしらえだから見栄えが悪いかもしれんが」
たったいま思いついたことを、やってみる。
§
「ぎゃはははははっ、何そのお顔っ!」
「あははははははっは、かっ、かわっいい♪」
よし、うけてるな。
ジトリとした半目で、おれたちを見上げる天ぷら号。
おれは子馬に、まぶたをつけてやった。
つまりは簡単な話だ。
おれの全天球レンズで物を見ると、活力を食われちまうと言うなら。
見る範囲を、半分にすりゃ良い。
急ごしらえだから、自分で閉じたりは出来ねぇが。
「ふっうーん、考えたわねぇ。坊主相変わらずの、脅威の理解力♪」
ヴォォォォゥン♪
手伝いが終わったのか、迅雷が飛んできた。
「そうデすね。視覚情報ヲ物理的に軽量化すルとは」
「ひっひひひひぃぃぃぃんっ?」
子馬はよろよろと、立ち上がる。
しかしこりゃやべぇな。
まぶたで隠れた瞳で、馬顔が八の字になって――
何とも覇気のねぇ面になっちまったぜ。
しかし笑われてるな。
〝面白い〟が過ぎらぁ。
せめて凜々しくしてやろうと――ギュギュリッ。
目頭がわへ、傾けてやる。
「怒ってる? ねぇ、ひょっとして怒ってるのっ?」
「かっかわいい、ぎゃひー!」
「キリッ!」
「かわいいですね」
「かわよい♪」
「プークスん♪《・》」
「うふふ、素敵ですね」
やかましいぞ、お前ら。
暇な奴らが、集まって来やがったぜ。
「ひひひひぃぃぃん?」
お前も顔を向けるんじゃねぇや、面白ぇから。
これじゃ王女は、絶対に納得せんだろな。
おれの全天球レンズをみて――
「この新型の集光装置は、デザインにパンチがなくて、威圧感に欠けるらぁん?」
って言ってたからな。
ふぉん♪
『>彼女にとってゴーレムの定義とは、〝厳つい見た目〟に他ならないようですから追々、策を講じましょう』
王女が全天球レンズ用の燃費とやらを考えてくれりゃ、こんな面白は要らんだろ。
気づきゃ日が、大分傾いてた。
没頭して子馬を看てたら、もう夕方近いじゃんか。
ふぉルるォらレぃ!
ふォるるぉられィ!
フぉるルぉラれぃ!
とつぜん母屋から響く、聞きなれねぇ音!
首にさげた冒険者カードからも、聞こえてきた。
「冒険者カードヲ使っタ、緊急時連絡網でス」
一斉に自分のカードを確かめる、冒険者たち。
「こりゃ、変異種でも出やがったか!?」
銀の板の表側。名前が書いてねえ方。
ギルドの紋章の下には、こんな文字が浮かびあがっていた。
『緊急のお知らせ
旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョンより、緊急コールが発せられました。』
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-
黒河ハル
ファンタジー
——1つの星に1つの世界、1つの宙《そら》に無数の冒険——
帰り道に拾った蒼い石がなんか光りだして、なんか異世界に飛ばされた…。
しかもその石、喋るし、消えるし、食べるしでもう意味わからん!
そんな俺の気持ちなどおかまいなしに、突然黒いドラゴンが襲ってきて——
不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語!
星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる