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4:龍撃の学院
526:ツツィア子爵領紀行、リファービッシュと不穏な知らせ
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「なるほどあれだけのゴーレムの大群を、どのようにして統率しているのかが、なんとなく見えてきましたね」
秘書の手帳が一杯になったころ、どうにか一息つけた。
新しい手帳を懐から取り出し、鉄筆を挟んでぱちんと閉じる。
あの手帳……帳面は、リオで言うところの〝魔法杖(小)〟みたいなもんだな。
たぶん、おれが思う十倍くらい予備がある。
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
的確に余計なことを言う〝筆頭御意見番〟こと、レイダ・クェーサー。
手帳や根菜を置く台と化していた、子供の頭が揺れた。
「そうわねー。元々のデザインコンセプトは〝威圧〟の一点張りでカスだけどぉー。この子馬ちゃんの中身わぁ、なかなかの物ではあるわよねぇん♪」
常人の約50倍ものおれのスキルや神々の叡知、そして超レアな△。
そんな如何様もなしに、おにぎりみたいな勝手に動き回るやつを拵えるだけの――
スキルと才能と根性を、あの王女さまは持っている。
「そのぱんぱんのお腹の蓋を、きちんと閉めるのには……苦労しましたよー」
片手を子馬の尻尾にぶら下げた給仕服が、ジトリとした目で子馬の腹を睨みつけた。
子馬の中身が王女の魔導工学と自然力の賜なら――
その外見はタターとレイダの、功績によるところが大きい。
どうしても威圧感を足そうとする王女殿下と、真っ向からやり合ったらしい。
いまこうして天ぷら号が、おれたちに囲まれているのは――
この子馬にとっても、とっても良かったと思う。
「うん、なんとなくだが。王女殿下の物作りの肝みたいなものが、わかった気がしないでもな――」
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
御意見番は的確に、口を挟む。
「そうわねぇ……ゴーレムOS――天ぷら号の動く仕組みを司っているのは王女さまだから、子馬の側……から調整す方法わぁ、わーかーらーなーいーわーねーぇ」
根菜の眉根が、むぎゅりと寄る。
「おれが轟雷を着て真後ろを見るときの、目の動かし方を教えてやれりゃ簡単なんだが」
ふぉん♪
『>その場合でも情報共有のために、AOS(女神像OS)のインストールが必要になります』
結局、酢蛸かSDKが要るんだな。
「でもそれでもテンプーラゴウを、直せるわけじゃないんでしょぉ?」
こいつ……ただ会話に混ざりてぇだけだな。
「いや、直せるぞ。急ごしらえだから見栄えが悪いかもしれんが」
たったいま思いついたことを、やってみる。
§
「ぎゃはははははっ、何そのお顔っ!」
「あははははははっは、かっ、かわっいい♪」
よし、うけてるな。
ジトリとした半目で、おれたちを見上げる天ぷら号。
おれは子馬に、まぶたをつけてやった。
つまりは簡単な話だ。
おれの全天球レンズで物を見ると、活力を食われちまうと言うなら。
見る範囲を、半分にすりゃ良い。
急ごしらえだから、自分で閉じたりは出来ねぇが。
「ふっうーん、考えたわねぇ。坊主相変わらずの、脅威の理解力♪」
ヴォォォォゥン♪
手伝いが終わったのか、迅雷が飛んできた。
「そうデすね。視覚情報ヲ物理的に軽量化すルとは」
「ひっひひひひぃぃぃぃんっ?」
子馬はよろよろと、立ち上がる。
しかしこりゃやべぇな。
まぶたで隠れた瞳で、馬顔が八の字になって――
何とも覇気のねぇ面になっちまったぜ。
しかし笑われてるな。
〝面白い〟が過ぎらぁ。
せめて凜々しくしてやろうと――ギュギュリッ。
目頭がわへ、傾けてやる。
「怒ってる? ねぇ、ひょっとして怒ってるのっ?」
「かっかわいい、ぎゃひー!」
「キリッ!」
「かわいいですね」
「かわよい♪」
「プークスん♪《・》」
「うふふ、素敵ですね」
やかましいぞ、お前ら。
暇な奴らが、集まって来やがったぜ。
「ひひひひぃぃぃん?」
お前も顔を向けるんじゃねぇや、面白ぇから。
これじゃ王女は、絶対に納得せんだろな。
おれの全天球レンズをみて――
「この新型の集光装置は、デザインにパンチがなくて、威圧感に欠けるらぁん?」
って言ってたからな。
ふぉん♪
『>彼女にとってゴーレムの定義とは、〝厳つい見た目〟に他ならないようですから追々、策を講じましょう』
王女が全天球レンズ用の燃費とやらを考えてくれりゃ、こんな面白は要らんだろ。
気づきゃ日が、大分傾いてた。
没頭して子馬を看てたら、もう夕方近いじゃんか。
ふぉルるォらレぃ!
ふォるるぉられィ!
フぉるルぉラれぃ!
とつぜん母屋から響く、聞きなれねぇ音!
首にさげた冒険者カードからも、聞こえてきた。
「冒険者カードヲ使っタ、緊急時連絡網でス」
一斉に自分のカードを確かめる、冒険者たち。
「こりゃ、変異種でも出やがったか!?」
銀の板の表側。名前が書いてねえ方。
ギルドの紋章の下には、こんな文字が浮かびあがっていた。
『緊急のお知らせ
旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョンより、緊急コールが発せられました。』
秘書の手帳が一杯になったころ、どうにか一息つけた。
新しい手帳を懐から取り出し、鉄筆を挟んでぱちんと閉じる。
あの手帳……帳面は、リオで言うところの〝魔法杖(小)〟みたいなもんだな。
たぶん、おれが思う十倍くらい予備がある。
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
的確に余計なことを言う〝筆頭御意見番〟こと、レイダ・クェーサー。
手帳や根菜を置く台と化していた、子供の頭が揺れた。
「そうわねー。元々のデザインコンセプトは〝威圧〟の一点張りでカスだけどぉー。この子馬ちゃんの中身わぁ、なかなかの物ではあるわよねぇん♪」
常人の約50倍ものおれのスキルや神々の叡知、そして超レアな△。
そんな如何様もなしに、おにぎりみたいな勝手に動き回るやつを拵えるだけの――
スキルと才能と根性を、あの王女さまは持っている。
「そのぱんぱんのお腹の蓋を、きちんと閉めるのには……苦労しましたよー」
片手を子馬の尻尾にぶら下げた給仕服が、ジトリとした目で子馬の腹を睨みつけた。
子馬の中身が王女の魔導工学と自然力の賜なら――
その外見はタターとレイダの、功績によるところが大きい。
どうしても威圧感を足そうとする王女殿下と、真っ向からやり合ったらしい。
いまこうして天ぷら号が、おれたちに囲まれているのは――
この子馬にとっても、とっても良かったと思う。
「うん、なんとなくだが。王女殿下の物作りの肝みたいなものが、わかった気がしないでもな――」
「でも、わかったからって、テンプーラゴウを直せるわけじゃないんでしょぉ?」
御意見番は的確に、口を挟む。
「そうわねぇ……ゴーレムOS――天ぷら号の動く仕組みを司っているのは王女さまだから、子馬の側……から調整す方法わぁ、わーかーらーなーいーわーねーぇ」
根菜の眉根が、むぎゅりと寄る。
「おれが轟雷を着て真後ろを見るときの、目の動かし方を教えてやれりゃ簡単なんだが」
ふぉん♪
『>その場合でも情報共有のために、AOS(女神像OS)のインストールが必要になります』
結局、酢蛸かSDKが要るんだな。
「でもそれでもテンプーラゴウを、直せるわけじゃないんでしょぉ?」
こいつ……ただ会話に混ざりてぇだけだな。
「いや、直せるぞ。急ごしらえだから見栄えが悪いかもしれんが」
たったいま思いついたことを、やってみる。
§
「ぎゃはははははっ、何そのお顔っ!」
「あははははははっは、かっ、かわっいい♪」
よし、うけてるな。
ジトリとした半目で、おれたちを見上げる天ぷら号。
おれは子馬に、まぶたをつけてやった。
つまりは簡単な話だ。
おれの全天球レンズで物を見ると、活力を食われちまうと言うなら。
見る範囲を、半分にすりゃ良い。
急ごしらえだから、自分で閉じたりは出来ねぇが。
「ふっうーん、考えたわねぇ。坊主相変わらずの、脅威の理解力♪」
ヴォォォォゥン♪
手伝いが終わったのか、迅雷が飛んできた。
「そうデすね。視覚情報ヲ物理的に軽量化すルとは」
「ひっひひひひぃぃぃぃんっ?」
子馬はよろよろと、立ち上がる。
しかしこりゃやべぇな。
まぶたで隠れた瞳で、馬顔が八の字になって――
何とも覇気のねぇ面になっちまったぜ。
しかし笑われてるな。
〝面白い〟が過ぎらぁ。
せめて凜々しくしてやろうと――ギュギュリッ。
目頭がわへ、傾けてやる。
「怒ってる? ねぇ、ひょっとして怒ってるのっ?」
「かっかわいい、ぎゃひー!」
「キリッ!」
「かわいいですね」
「かわよい♪」
「プークスん♪《・》」
「うふふ、素敵ですね」
やかましいぞ、お前ら。
暇な奴らが、集まって来やがったぜ。
「ひひひひぃぃぃん?」
お前も顔を向けるんじゃねぇや、面白ぇから。
これじゃ王女は、絶対に納得せんだろな。
おれの全天球レンズをみて――
「この新型の集光装置は、デザインにパンチがなくて、威圧感に欠けるらぁん?」
って言ってたからな。
ふぉん♪
『>彼女にとってゴーレムの定義とは、〝厳つい見た目〟に他ならないようですから追々、策を講じましょう』
王女が全天球レンズ用の燃費とやらを考えてくれりゃ、こんな面白は要らんだろ。
気づきゃ日が、大分傾いてた。
没頭して子馬を看てたら、もう夕方近いじゃんか。
ふぉルるォらレぃ!
ふォるるぉられィ!
フぉるルぉラれぃ!
とつぜん母屋から響く、聞きなれねぇ音!
首にさげた冒険者カードからも、聞こえてきた。
「冒険者カードヲ使っタ、緊急時連絡網でス」
一斉に自分のカードを確かめる、冒険者たち。
「こりゃ、変異種でも出やがったか!?」
銀の板の表側。名前が書いてねえ方。
ギルドの紋章の下には、こんな文字が浮かびあがっていた。
『緊急のお知らせ
旧パラベラム冒険者専用訓練ダンジョンより、緊急コールが発せられました。』
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