滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

４５７：央都観光ツアー、天狗勢の根城と央都猪蟹屋と

「わっ!?　なんかが崖がけを登のぼってくるぞ!?」
　誰だれかのそんな声こえに、逃げまどう人々ひとびと。

「みなさーん、心配しんぱいいりませーん。年ねんに数回すうかい、崖がけを登のぼってくる物好ものきな魔物まものがいまーす！」
　ヤーベルト先生せんせいが、背負せおってきた魔法杖つえを一本取いっぽんとりだした。

「（迅雷ジンライいそいで、上がってこい！）」
　まったく、厄介やっかいな魔物やつも居たもんだぜ。

　ガチャガチャガチャガチャッ――ズザザザザッ♪
　長槍ながやりや鎖くさりを手にした衛兵えいへいたちが、集結しゅうけつした。

　おれは、長窓ながまどの端はしから下したを見た。
　すごい勢いきおいで黒くろいのが、駆け上がってきてる。

　長窓ながまどの鉄柵てっさくの、向こう側・・・・。
　ズザザザザァァァァッ――ガッシャガッシャ！
　垂直すいちょくに切り立つ城壁じょうへきを歩あるく、黒くろづくめの老人ろうじんが登場とうじょうした。

「カカカッ――――おのれちょこざいな！　わが修験しゅげんの技わざに敵かなうと思おもうてかぁぁっ！・」
　その正体しょうたいはＩＮＴタレットめがみのけんぞく迅雷ジンライが、扮装ふんそうする〝裏天狗うらてんぐ〟だ。
　黒くろい頭巾ずきんには、目の絵＜◎＞が描いてあって――
　正直しょうじき、魔物まものの１００倍ばいは怪あやしい。

「（おい、あんまり調子ちょうしに乗るなよ？　下手へたなことして、「棲んじゃ駄目だめ」とか言われても面倒めんどうだから――？）」
『▲▲▲ピピピッ♪』――壁向かべむこうに、裏天狗ジンライ以外いがいの動体検知うごくけはい。

　ギュギャギュギギギギギッ――――――――!!
　ギュギチギチリッ――――ピピピピッ♪
　怪音かいおんが黒くろい人影ひとかげを捕らえ・・・――――ボッゴガァァァァァァァンッ!!!
　
　壁穴かべあなから湧き出た、足あしの長ながい蟹カニみたいな奴やつに――
　裏天狗ジンライが、吹き飛ばされた。

　蟹かにみたいなのは、角張かくばってはいるものの――
　以前いぜんのように、尖りきった・・・・・自己主張かたちはしておらず――
　逃げ出す人ひとは、ひとりもいなかった。
　おれの〝軍用全天球ぐんようパノラマレンズ〟が、ちゃんと仕事しごとをしている。
　実じつに気分きぶんが良い――カカッ♪

「（おい、平気へいきかぁ？）」
　ふぉふぉん♪
『＞はい、問題ありません』

　爆発ばくはつする拳こぶしの直撃ちょくげきを喰らった修験者てんぐが、ぶわさり♪
　黒くろい隠れ蓑ローブをひろげ――風かぜに舞う。

「クカカカカカカカカッ――――リオレイニア殿どのぉー、お館やかたさまへは「週明しゅうあけけには、全すべての修理しゅうりを終わらせもうす」と、お伝つたえ願ねがえますかのぉーぅ？・」
　天狗役ジンライがそんな業務連絡しごとのはなしをするもんだから、居あわせた衛兵えいへいたちが戸惑とまどっている。

「はぁーい！　コントゥル辺境伯へんきょうはくさまへの伝言でんごんたしかに、承うけたまわりましたぁー！」
　辺境伯コントゥルの名を聞いた途端とたんに、衛兵えいへいたちの緊張きんちょうの糸いとが切れる。
　ふっとんだ壁かべを見れば蟹ゴーレムが呑気のんきにも、拭き掃除・・・・を始はじめた。
　壁かべを登のぼってくる魔物まものを撃退げきたいすることが、目的もくてきらしいなー。

「もーすもーす、ござる」
　うるせえし、ござるは言ってねぇ。

「なぁ、迅雷ジンライ？」
「まっタくです、シガミ・ー」
　おれの後うしろ髪がみを留める独古杵ジンライは、もちろん偽物ダミーだが――
　しゃべれるし、なんなら空中ちゅうを飛べる。

　これならおれと迅雷ジンライが、天狗てんぐや烏天狗からすてんぐの正体しょうたいと――
　気づく奴やつは、そう居ないだろうよ。

　天狗ジンライは断崖だんがいに開いた洞窟どうくつに、すぃぃと飛びこんだ。

　　　§

「こらこらこら、おまえらなんで全員付ぜんいんついてきてやがるんだぜ？」
　うぞぞろ、がやわや――ずざざぁっ！
　振り向けばピタリと止まる、学院生徒がくいんせいとたちの行進れつ。

　行く道みちの先さき。角かどを曲がれば猪蟹屋わがやって所ところまで来て、ようやく気づいた。
　城壁じょうへきの物見台ものみだいへ続つづく階段かいだんをおりて、すぐ解散かいさんしたはずだろうが。

「こほん。だって私わたしたちだってシガミーちゃんのお家うちに、お呼ばれしたいですものっ！」
　何なんだとぅ!?
　誰だれだっけこいつ。

　ふぉん♪
『人物ＤＢ＞初等魔導学院１年Ａ組
　　　　　　ビステッカ・アリゲッタ』
　わからん。みんな同おなじ制服せいふくを着とるし。

　ふぉん♪
『＞ヴィヴィー嬢のうしろの席に座ることが多い、女子生徒です。
　　本日の昼食会で、イオノファラーと互角の食事をしました』

「あぁ、五百乃大角いおのはらの早食はやぐいに、三皿目まで・・・・・食らいついてた奴やつかっ！」
「きゃぁ、覚おぼえていてくれたなんて、光栄こうえいですわっ♪」
　ふふんと、鼻はなを持ちあげる女子生徒ビステッカ。

　大食おおぐらいの割わりに、ものすごく体からだが細ほそいから覚おぼえてたぜ。
　ふぉん♪
『＞今の今まで、忘れていたのでは？』
　ちゃんと思おもい出したんだから、良いだろうが！

「おい……ひそひそ……今日きょうの店みせの仕事しごとは、何なにが残のこってる？」
　道端に屈みこむ、おれ。
「はイ……ひソひそ……店内てンないノ改装かいソうト、食事しょクじが出来デきるテーブル席スペースにつイての協議キょうぎ。そレと・――」
　おれの髪かみを留める独古杵ジンライは、偽物ダミーだ。
　本物ほんものとは、まだ合流ごうりゅうしてない。

「央都猪蟹屋おうとししがにや開店かいてんに必要ひつような……ひそひそ……関係各所かんけいかくしょへの届とどけ出と、ギルド支部出張所しぶしゅっちょうじょの台座だいざについての各種登録かくしゅとうろくと、あとは大通おおどおりまでの案内板作成あんないばんさくせいくらいでしょうか？」
　屈かがみこんだおれに身を寄せ、小ちいさな魔法杖まほうつえで地面じめんに絵を描く見習い先生リオレイニア。
　この串揚くしあげみたいな形かたちの、『△○□ーらくがき』は何なんでぇい？

　ふぉん♪
『＞大通りの方向を示す、道路標識のようです』
　この張られた板に、道の名前とかを書くのか？
　ふぉん♪
『＞そのようです』

「ふぅん、美の魔神先生まじんせんせいがシガミーちゃんちで働はたらいてるっていうのは、ほんとーなのね♪　うらやましいっ！」
　気づけば件くだんの大食い嬢ビステッカが、レイダやタターに混じって膝ひざをつき合わせていた。
「美の……魔神まじん？」
　やや青あおい顔かおで首くびをかしげる、見習みならい先生せんせい。
　〝美の女神イオノファラー〟と〝美の権化みりょうのしんがん〟と〝魔神まじんの再来さいらい〟が、混ざってやがるな。

「まぁな。リオ……レーニア先生せんせいは、わが冒険者ぼうけんしゃパーティー〝シガミー御一行様ごいっこうさま〟の一員メンバーだからな♪」
　ちょっとだけ、鼻はなが高たかくないこともなくもない。

　わぁー、きゃぁぁっ♪
　がやがやがやがや、がやがやがやわや。
　うるせぇ。

「まったく、しゃぁねぇなぁー。リオ……レーニア先生せんせい、コイツら全員ぜんいん、店みせの地下ちかに呼んでも良いか？」
　そう言って立ちあがり、子供たちがきどもをざっと数かぞえた。
　ふぉん♪
『＞ヤーベルト教員を入れて、総勢３９名です』

「はい、ご随意ずいいに♪　すこし時間じかんを空けてから猪蟹屋ししがにやへ向かいましょうか？」
　立ちあがるリオレイニア。
「いや、大丈夫だいじょうぶだ。けど、これに名簿リストを作つくってくれないか？」
　もはや使つかいいなれたであろう、黒板タブレットを渡わたす。

「はい、ソレではリストを作成次第さくせいしだい、みんなを連れて戻もどりますね♪」
　みなさぁーん、集あつまってくださぁーい！

　喧騒けんそうの中なか――ズザッ！
　おれはその場を、人知ひとしれず離はなれる。

「迅雷ジンライ、明後日開店あさってかいてんの為ために必要ひつようなな仕込しこみから、すこし回まわせるか？」
　スタタァン――――♪
「はイ、全まっタク問題もんだイありマせん。昼食後ちゅうしょクごニ分かれたバかりですが、茅野姫カヤノヒメヲ呼びまスか？・」
　そうしてくれ。

　ガチャッ――――カラララララン♪
　猪蟹屋わがやへ飛びこむ。

「お帰かえりなさいませ、シガミーさん？・」
　呼ぶまでもなかった・・・・・・・・・ぜ。
　おれの二年後にねんごくらいの姿形からだをした奴やつが、いつもの猫ねこの耳みみを頭あたまに乗せ、出迎でむえてくれた。

「居たのか、助たすかる！　今いまから子供たちがきどもが、遊あそびに来ることになっちまってよぉ。悪わりぃんだがぁ、手伝てつだってくれんかぁ？」
　まだ飯めしも食ったばかりだし、茶ちゃと何なんか。
　ちょっとした菓子かしでも――

「五百乃大角いおのはらぁ――！」
「ウケケケケッ、何なにするのぉ？　おいしくて面白おもしろいことぉ？・」
　冷てぇ菓子アイスクリームを作つくったときに、もうひとつ。
　「神々かみがみの間あいだで、大人気だいにんきの菓子かしがある」って言ってただろっ？

「なんだっけ？　おいしいお菓子かしぃー？　プリンかなぁ――作つくってくれるのっ!?・」
　材料ざいりょうは――解析指南なにがいる？。
　ふぉふぉん♪
『解析指南＞カスタードプディング――――――――』
　なるほどな。
　アイスと材料ざいりょうは、そう変わらんのか。
　菓子かしは、それでいこう。

　けど、サキラテ家なら、いざ知らず――
　猪蟹屋うちに、子供こどもが暇ひまをつぶせる物ものなんてない。
　出し物もんかぁー。
　子供こどもが〝居合い〟を見ても、喜よろこぶとは思おもえんし。
　なんか、ねぇかなぁ？

　考かんがえつつも大慌おおあわてで、子供こどもたち向けのテーブルと椅子いすの形かたちを――
　絵で板エディタから選択せんｔくする。

「こんにちわ、シガミー・ガムランさん」
「おう、らっしゃい！　こんちわだぜ♪」
　おれは、地下ちかへ続つづく扉ドアを開――

　誰だれだ今いまのっ!?　それに〝シガミー・ガムラン・・・・〟って何なんだぜ!?
　土間エントランスへ、駆け戻もどると――

　ふぉん♪
『人物ＤＢ＞タウリン・ハラヘリアル
　　　　　　ラスクトール自治領冒険者ギルド支部職員』

「あぁー、廊下の突き当たりの・・・・・・・・・っ、おっちゃんだぜ！」
「はい、久ひさしぶりですね」
　会ってから、まだ一週間いっしゅうかんも過ぎてねぇけどな。