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4:龍撃の学院
440:烏天狗(ホシガミー)、胆力とは
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「ソレでは伯爵さま。子細につきましては、リオレイニアさんを通して頂けますでしょうか?」
錫杖から降りる、烏天狗。
ガムラン町で烏天狗や天狗が受けた大工仕事なんかは、報酬から手直しの手配に至るまで、彼女任せにしちまった。
申し訳ないとは思うが、他に適任が居ない。
「そうじゃなー、彼女に任せておけば……問題はあるまいが」
そう言って伯爵が、懐から取りだしたのは横長の箱。
それに付いた出っ張りを、ポコポコポコンと押していく、ラウラル伯爵。
「大隊がだいたいコレくらいで、総兵力が単純計算でコレくらい……」
時折、計算結果をこっちに見せながら――
わりと的確な強化修繕費用を、見積もってきた。
ふぉん♪
『ホシガミー>シガミーさん』
『シガミー>どうした?』
『ホシガミー>例の計算機、算木代わりになる薄型の魔法具を、
伯爵さま、ならびに参謀の方へ進呈しても?』
『シガミー>そりゃ良いな。迅雷、すぐ作れるか?』
『>ふむ、造作も無いわい』
薄板を二枚、取り出す天狗。
「リオレイニアさーん! お手伝いして欲しいことがー、あるんだけどー?」
叫ぶおれ。あわてて、駆け下りてくる給仕服。
おい。いつも苦労をさせちまってるんだぜ。
これ以上、彼女の仕事を増やしてくれるなよ?
ふぉん♪
『ホシガミー>大丈夫です。むしろ、いろいろと改革していく上での、
第一歩はここからです。くすくす?』
一行文字だってのに、笑ってねぇのがわかる。
悪さをするわけじゃねーんだが、時折、本当に時折、星神さまは人……神が悪いときがあるからなぁ。
隊列の間を縫うように――カカカン、カカカン、カカン!
靴音を響かせ、近づく白い影。
「ラウラルさま、ご無沙汰しておりました」
やや遠閒まで駆けよった給仕服が、膝をつき首を深く垂れた。
「ふむ、ひさしいな。リオレイニア♪」
伯爵の声音は忠臣へと言うよりも、家族への暖かい言葉に聞こえる。
「それで用とは何でしょうか、カラテェー君?」
やや不安げな眼差しを、こっちへ向けてくる。
「伯爵さまと参謀の方に、これの使い方を説明してほしいんだけど? お願いできるかな?」
自分の懐から取りだした計算魔法具を、リオレイニアへ手渡す烏天狗。
声を変える顔布ごしとはいえ、男の童の声にしか聞こえねぇ。
「カカッ――――つきましては、お館さま。こちらを献上させて頂きたく、存じますじゃ」
膝をつき、両手で板を差し出す天狗。
日の本の天狗はたとえ殿さま相手でも、絶対に首を垂れたりはしない。
「はてこれは、どういった物なのかな?」
受け取った板を、近くに居た参謀とやらに手渡す伯爵。
「僭越ながら、ご説明させて頂きます」
おずおずと歩みでる、リオレイニア。
その所作も顔(簡易魔眼殺し装着)も、美の権化でしかない。
歩み寄られた兵士たちが、ズザザッと飛び退いた。
§
「これは素晴らしい! のうシュトレンよ♪」
もともと難しい物でもないので、5分程度でレクチャーは
終了。
「はいラウラルさま。じつに理にかなった、魔法具です」
はしゃぐ伯爵と、参謀氏。
「ではカラテェー。この後は、どうしたらよいでしょうか?」
リオレイニアが、そのまま場を取り仕切ってくれるようだ。
すっげー助かる。
短く生えた顎に、手をのばす殿様。
計算魔法具を手帳に、挟んだりしてる参謀氏。
錫杖を手に立ちあがる、烏天狗。
そのまま錫杖の上に飛び乗り、頭ひとつ高い所から――
師である天狗と同じ、一つ目が書かれた顔布で周囲を見わたす。
「そうですね……アーティファクトじゃなくて、希少な素材も使ってない装備品は――この場で、修繕と強化をしちゃった方が早いかも」
星神が、そんなことを言う。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ええーーーーっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
一斉に向けられる、兜面。
それでも星神は、怯むことなく――「クカカカッ♪」
星神さまの胆力は……リカルル並みじゃね?
「えっと、レア度が高い装備をまとめて修理するなら、職人としてどこかに所属してないと駄目なんだよね? 確認してもらえるかい、リオレイニアさん?」
すぽん♪
錫杖を仕舞い、スタンと落ちた。
すっとメイドへ差し出されたのは、木製の薄板。
『カラステング LV:14
防具鍛冶職人★★★★ /上級修復/体力増強/上級鑑定
追加スキル/上級解体/伝説の職人/薬草採取/収穫量倍化/植物図鑑
――所属:カフェノーナノルン』
それは、おれの冒険者カード(烏天狗仕様)だった。
「あら、ルコラコルさまの喫茶店? そういえばカラテェー君は、ルコラコルさまたちと仲良くしていましたねーぇ?」
冒険者カードをしげしげと見つめる、メイドの眼鏡が光った。
「そういうことは先に言って欲しかったですね、うふふふ?」
そんな声が聞こえてくるようだ。
魔眼殺しの下の目を見なくても、ソレくらいはわかる。
「はい。ちゃんと城塞都市オルァグラムに、臨時鍛冶職人として届けは出してあるよ」
よくもまぁ、次から次へと動じねぇもんだぜ。
嘘を付いてるわけじゃねぇとは言え、やっぱりこの胆力は普通じゃない。
「ふぅ。ここ猪蟹屋予定地は私有地ですので、届け出は厳密には必要ありませんが、ルコラコルさまへは私が後日、話を通しておきましょう」
すっと薄板を、返してくれる。
「はい、ありがとうございます――」
それで、一体どうするんだ!?
安物の剣や甲冑を、この場で直すったって――そう簡単にいくかよ!
「つきましては、コレを使います」
茅の姫は、おれの体を介して――ヴッ♪
小さな箱を――ぽこん♪
なんだぜ、この箱?
見覚えがあるような、無いような?
チカチカチカッ♪
うん? なんか光ってる。
こりゃ、アイテムID#を控えておける――ブックマーク記号だな。
ふぉふぉん――チカチカチカ♪
『双王の鎖箱【亡】☆:0/1
詳細不明だが、希代の役立たず(アーティファクト)。
装備条件/LV100』
思い出したぞ、この鎖で巻かれた小箱。
これは、城塞都市でもらったゴミじゃなくて……使い道が一切わからなないアーティファクトだ。
LV100つまり、カンストしないと使えない無用の長物。
「これは、ぼくたちが使う修験の技と、伝説の職人スキルを一度に扱うための――アーティファクトに御座います」
え、初耳なんだが?
「つきましては。貴人であるあなた方を驚かせてしまうので、アーティファクトの遠距離感知が可能な方々には――退席して頂きたいのですが?」
ばかやろう。
いきなり殿さんや姫さんに、「出て行け」なんて言うやつがあるかぁ!
「生意気ですわね、カラテェー?」
ひぃ、背筋が凍るかと思ったぜ。
姫さんがいつの間にか、烏天狗と天狗の間に立ってやがる。
「もちろん我慢してもらえるなら、見ていてもかまわないよ? リカルルさま♪」
しかも、おれと同じ物を見て、同じ気配を感じていたはずの星神には――
お狐さまの居場所が、わかっていたらしいぜ。
声を掛けられるよりもまえに、その腰に抱きついていたからな。
なでなでなでなで――言葉とは裏腹に、姫さんは可愛らしい物や子供が大好きだ。
やめろ熱い!
頭巾を撫でるんじゃねぇやい!
「うむ、先ほどカラテェーが使おうとしたその小箱は、古い時代のアーティファクトなのじゃな?」
伯爵は「では、致し方有るまい」と、娘を肩の上に座らせ――
何名かの将校らしき人物を伴い、階段を登っていってしまった。
くるりと身をひるがえすと、{Disconnect>対話型セッション終了}
おれは体の自由を、取りもどした。
ふぉふぉん♪
『シガミー>ば、ばかやろう!
もっと言い方を考えろ、生きた心地がしなかったぞ!』
しかし、どうする?
見わたす限りの甲冑に盾、槍に剣に弓。
おれはLV100だが、そんな〝無用の長物〟の使い方なんぞ、さっぱりわからんぞ?
ふぉん♪
『ホシガミー>心配いりません。
あの箱は使いません。
私も使い方などわかりませんし』
はぁ!? 大嘘じゃねーか!
じゃぁ、この大軍勢相手に一体どう落としまえを、付けようってぇんだぁ?
身が竦むぞ、こらぁ! どーすんだ、茅の姫よぉう!?
「(やることはかんたんですわ、くすくすくすす?)」
頭の中に届く念話。
お前さま、どこに居やがる?
五百乃大角が中継しなけりゃ、念話は目が届く範囲でしか使えねぇはず。
ズザザザッ――道を空けてくれた兵卒に、会釈をして現れたのは――
シガミーの姿と瓜二つ、もちろん星神さまだった。
さっき、伯爵たちに計算機を渡して時間稼ぎをしていたのは――
こうして直接こっちへ、来るつもりだったからか。
錫杖から降りる、烏天狗。
ガムラン町で烏天狗や天狗が受けた大工仕事なんかは、報酬から手直しの手配に至るまで、彼女任せにしちまった。
申し訳ないとは思うが、他に適任が居ない。
「そうじゃなー、彼女に任せておけば……問題はあるまいが」
そう言って伯爵が、懐から取りだしたのは横長の箱。
それに付いた出っ張りを、ポコポコポコンと押していく、ラウラル伯爵。
「大隊がだいたいコレくらいで、総兵力が単純計算でコレくらい……」
時折、計算結果をこっちに見せながら――
わりと的確な強化修繕費用を、見積もってきた。
ふぉん♪
『ホシガミー>シガミーさん』
『シガミー>どうした?』
『ホシガミー>例の計算機、算木代わりになる薄型の魔法具を、
伯爵さま、ならびに参謀の方へ進呈しても?』
『シガミー>そりゃ良いな。迅雷、すぐ作れるか?』
『>ふむ、造作も無いわい』
薄板を二枚、取り出す天狗。
「リオレイニアさーん! お手伝いして欲しいことがー、あるんだけどー?」
叫ぶおれ。あわてて、駆け下りてくる給仕服。
おい。いつも苦労をさせちまってるんだぜ。
これ以上、彼女の仕事を増やしてくれるなよ?
ふぉん♪
『ホシガミー>大丈夫です。むしろ、いろいろと改革していく上での、
第一歩はここからです。くすくす?』
一行文字だってのに、笑ってねぇのがわかる。
悪さをするわけじゃねーんだが、時折、本当に時折、星神さまは人……神が悪いときがあるからなぁ。
隊列の間を縫うように――カカカン、カカカン、カカン!
靴音を響かせ、近づく白い影。
「ラウラルさま、ご無沙汰しておりました」
やや遠閒まで駆けよった給仕服が、膝をつき首を深く垂れた。
「ふむ、ひさしいな。リオレイニア♪」
伯爵の声音は忠臣へと言うよりも、家族への暖かい言葉に聞こえる。
「それで用とは何でしょうか、カラテェー君?」
やや不安げな眼差しを、こっちへ向けてくる。
「伯爵さまと参謀の方に、これの使い方を説明してほしいんだけど? お願いできるかな?」
自分の懐から取りだした計算魔法具を、リオレイニアへ手渡す烏天狗。
声を変える顔布ごしとはいえ、男の童の声にしか聞こえねぇ。
「カカッ――――つきましては、お館さま。こちらを献上させて頂きたく、存じますじゃ」
膝をつき、両手で板を差し出す天狗。
日の本の天狗はたとえ殿さま相手でも、絶対に首を垂れたりはしない。
「はてこれは、どういった物なのかな?」
受け取った板を、近くに居た参謀とやらに手渡す伯爵。
「僭越ながら、ご説明させて頂きます」
おずおずと歩みでる、リオレイニア。
その所作も顔(簡易魔眼殺し装着)も、美の権化でしかない。
歩み寄られた兵士たちが、ズザザッと飛び退いた。
§
「これは素晴らしい! のうシュトレンよ♪」
もともと難しい物でもないので、5分程度でレクチャーは
終了。
「はいラウラルさま。じつに理にかなった、魔法具です」
はしゃぐ伯爵と、参謀氏。
「ではカラテェー。この後は、どうしたらよいでしょうか?」
リオレイニアが、そのまま場を取り仕切ってくれるようだ。
すっげー助かる。
短く生えた顎に、手をのばす殿様。
計算魔法具を手帳に、挟んだりしてる参謀氏。
錫杖を手に立ちあがる、烏天狗。
そのまま錫杖の上に飛び乗り、頭ひとつ高い所から――
師である天狗と同じ、一つ目が書かれた顔布で周囲を見わたす。
「そうですね……アーティファクトじゃなくて、希少な素材も使ってない装備品は――この場で、修繕と強化をしちゃった方が早いかも」
星神が、そんなことを言う。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ええーーーーっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
一斉に向けられる、兜面。
それでも星神は、怯むことなく――「クカカカッ♪」
星神さまの胆力は……リカルル並みじゃね?
「えっと、レア度が高い装備をまとめて修理するなら、職人としてどこかに所属してないと駄目なんだよね? 確認してもらえるかい、リオレイニアさん?」
すぽん♪
錫杖を仕舞い、スタンと落ちた。
すっとメイドへ差し出されたのは、木製の薄板。
『カラステング LV:14
防具鍛冶職人★★★★ /上級修復/体力増強/上級鑑定
追加スキル/上級解体/伝説の職人/薬草採取/収穫量倍化/植物図鑑
――所属:カフェノーナノルン』
それは、おれの冒険者カード(烏天狗仕様)だった。
「あら、ルコラコルさまの喫茶店? そういえばカラテェー君は、ルコラコルさまたちと仲良くしていましたねーぇ?」
冒険者カードをしげしげと見つめる、メイドの眼鏡が光った。
「そういうことは先に言って欲しかったですね、うふふふ?」
そんな声が聞こえてくるようだ。
魔眼殺しの下の目を見なくても、ソレくらいはわかる。
「はい。ちゃんと城塞都市オルァグラムに、臨時鍛冶職人として届けは出してあるよ」
よくもまぁ、次から次へと動じねぇもんだぜ。
嘘を付いてるわけじゃねぇとは言え、やっぱりこの胆力は普通じゃない。
「ふぅ。ここ猪蟹屋予定地は私有地ですので、届け出は厳密には必要ありませんが、ルコラコルさまへは私が後日、話を通しておきましょう」
すっと薄板を、返してくれる。
「はい、ありがとうございます――」
それで、一体どうするんだ!?
安物の剣や甲冑を、この場で直すったって――そう簡単にいくかよ!
「つきましては、コレを使います」
茅の姫は、おれの体を介して――ヴッ♪
小さな箱を――ぽこん♪
なんだぜ、この箱?
見覚えがあるような、無いような?
チカチカチカッ♪
うん? なんか光ってる。
こりゃ、アイテムID#を控えておける――ブックマーク記号だな。
ふぉふぉん――チカチカチカ♪
『双王の鎖箱【亡】☆:0/1
詳細不明だが、希代の役立たず(アーティファクト)。
装備条件/LV100』
思い出したぞ、この鎖で巻かれた小箱。
これは、城塞都市でもらったゴミじゃなくて……使い道が一切わからなないアーティファクトだ。
LV100つまり、カンストしないと使えない無用の長物。
「これは、ぼくたちが使う修験の技と、伝説の職人スキルを一度に扱うための――アーティファクトに御座います」
え、初耳なんだが?
「つきましては。貴人であるあなた方を驚かせてしまうので、アーティファクトの遠距離感知が可能な方々には――退席して頂きたいのですが?」
ばかやろう。
いきなり殿さんや姫さんに、「出て行け」なんて言うやつがあるかぁ!
「生意気ですわね、カラテェー?」
ひぃ、背筋が凍るかと思ったぜ。
姫さんがいつの間にか、烏天狗と天狗の間に立ってやがる。
「もちろん我慢してもらえるなら、見ていてもかまわないよ? リカルルさま♪」
しかも、おれと同じ物を見て、同じ気配を感じていたはずの星神には――
お狐さまの居場所が、わかっていたらしいぜ。
声を掛けられるよりもまえに、その腰に抱きついていたからな。
なでなでなでなで――言葉とは裏腹に、姫さんは可愛らしい物や子供が大好きだ。
やめろ熱い!
頭巾を撫でるんじゃねぇやい!
「うむ、先ほどカラテェーが使おうとしたその小箱は、古い時代のアーティファクトなのじゃな?」
伯爵は「では、致し方有るまい」と、娘を肩の上に座らせ――
何名かの将校らしき人物を伴い、階段を登っていってしまった。
くるりと身をひるがえすと、{Disconnect>対話型セッション終了}
おれは体の自由を、取りもどした。
ふぉふぉん♪
『シガミー>ば、ばかやろう!
もっと言い方を考えろ、生きた心地がしなかったぞ!』
しかし、どうする?
見わたす限りの甲冑に盾、槍に剣に弓。
おれはLV100だが、そんな〝無用の長物〟の使い方なんぞ、さっぱりわからんぞ?
ふぉん♪
『ホシガミー>心配いりません。
あの箱は使いません。
私も使い方などわかりませんし』
はぁ!? 大嘘じゃねーか!
じゃぁ、この大軍勢相手に一体どう落としまえを、付けようってぇんだぁ?
身が竦むぞ、こらぁ! どーすんだ、茅の姫よぉう!?
「(やることはかんたんですわ、くすくすくすす?)」
頭の中に届く念話。
お前さま、どこに居やがる?
五百乃大角が中継しなけりゃ、念話は目が届く範囲でしか使えねぇはず。
ズザザザッ――道を空けてくれた兵卒に、会釈をして現れたのは――
シガミーの姿と瓜二つ、もちろん星神さまだった。
さっき、伯爵たちに計算機を渡して時間稼ぎをしていたのは――
こうして直接こっちへ、来るつもりだったからか。
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トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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