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4:龍撃の学院
437:修験者天狗(ジンライ)、ご令嬢をもてなす
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「〝リ〟がひとつ、多いですわよ? それで、こんな路地裏でどうされたのですか?」
やや派手なドレスも、ここ央都の景色には、よく溶け込んでいる。
「実はのう、こやつらを猪蟹屋の根城まで連れ帰ろうとしたのじゃが……まるで言うことを聞いてはくれぬでのぉ――」
バカッァン!
そんな物音を、見あげる二人。
窓を開け、見知った派手な淑女に――「みゃにゃぎゃぁー♪」と。
のんきに手を振る、件の片割れ。
「あー、状況はわかりましたわ。ひとまずは人払いをいたしましょうか――――ココォォン♪」
ぼぼぼぼおごごごごおぉぉぉぉおゎあっぁぁぁぁ――――――――♪
うなる殺意は、立ちならぶ高層建築物を越えて、なお吹き上がる。
陽光に消されぬ暗い炎が、立ちのぼってから程なく。
縦長の旗を掲げ、騎馬隊がやってきた。
その数は、十二騎。
入り組んだ町中で運用するには、やや多いその数に――
ひとり気配を殺す――INTタレットにして修験者・天狗。
「そんなに身がまえなくても、大丈夫ですわ――」
タンタンタタン♪
「にゃにゃみゃぎゃー♪」
ぽっきゅぽきゅぽきゅ♪
「――彼らは全員、コントゥル家の私兵ですので♪」
猫の魔物の手を引き、階段を降りてくる淑女。
「おい、あの旗。ガムラン辺境伯の……」
「ってことは、また王女さまがらみか?」
「おい、いこうぜ」
「そうね。あまり長居をすると、ゴーレムが湧くかも」
物見遊山の市民たちは、何かを勝手に納得し――
みんな居なくなってしまった。
「お嬢さま。我々はいかがいたしましょうか?」
隊長らしき騎兵から、女性の声。
「そーねー。レーニアは、まだ学院に?」
猫の魔物と手をつなぐ、主君をまえにして――
「はい――通常でしたら出てくるまで、あと二時間ほど掛かります」
一切ひるまず動じない彼女は、とても優秀な騎士なのだろう。
「そう。では皆は、通常の巡回路へ戻ってください」
ぱかぱかぱからら♪
突然現れた騎馬隊は、突然走り去った。
当然ながら、ぽきゅぽきゅなどしていない。
「にゃみゃがぁぁ――――♪」
威風堂々とした爪音に、感化されたのか――
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃんっ――――♪」
黄緑色の上に黄緑色が、颯爽と跨がった。
ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「にゃにゃみゃぁ――♪」
ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「ひっひひひぃぃん――?」
人気のなくなった路地裏を、闊歩してみせる騎馬兵一式。
「ぷふふふふうふっ、くすくすくすくすすすすっ♪」
その間抜けさは、如何ほどのものか。
先ほどの騎兵との落差は――淑女の頬を緩ませる。
「まったく変わりませんのね、アナタたちは♪ 私もその猪蟹屋の根城とやらに用事があって来ましたのよ――あらっ?」
猫騎士にひょいと、つまみ上げられるコントゥル家ご令嬢。
ぽっきゅらぽっきゅら、ぽっきゅらら――――きゃぁぁぁぁっ!
間抜けた爪音は、一瞬で姿を消した。
「ぬぅ、ぬかったわ! あやつら見てくれと中身が、まるで別物じゃと言うことを忘れとったわい!」
リカルル姫をさらった、間抜けた黄緑色。
それが駆けていった方角へ――どごごぉぉぉぉん!
黒づくめの老人も、姿を消した。
§
「はぁはぁはぁ――ふぅぃ。よる年並みには、勝てんのぉ――ふぅぃ」
肩で息をする、ご老体。
その実、ほぼ無尽蔵の四肢を持つ、空飛ぶINTタレット迅雷は――思案に暮れていた。
「くすくすくす――――ご謙遜を。なにせアナタは、あのオルコトリアを剣の腕で説き伏せたのですから」
フカフカの長椅子へ、背中をあずける伯爵令嬢。
そこは応接室とは、名ばかりの――
荷物が煩雑に置かれた、ただの隙間だった。
「ううぅむ。それはちぃと、間違った話が伝わっておるようじゃのう。そもそも鬼娘と戦ったのは、そこに居るおにぎりじゃて」
猪蟹屋四号店(仮)兼、猪蟹屋関係者の住居内部。
清掃はされていたが、整頓はされていないようだ。
「にゃみぎゃぁー?」
積まれた木箱のどこかから、声が聞こえた。
「ひっひぃん?」
潜んでいるつもりなのかも知れないが――
黄緑色の長首は、普通に見えている。
「ソレについては色々と、問いただしたい所でもあるのですけれど……央都はすこし蒸しますわね~」
はたはたと、掌で扇いでみせる。
「それなら、地下は涼しいかも知れぬぞ……行ってみるか? 冷やす魔法具箱は好きに使えと言われておるから、なにか冷たいものでも――」
がしり――「(手甲をつかまれたわい)」
「テェーングさまっ、地下への階段はどちらですのっ!?」
その瞳には例の殺気が、ありありと宿っていた。
しかし、この場合の獲物は〝冷たいもの〟であって――
「(儂ではない……と思う)」
なぜなら彼女は、朗らかに笑っている。
§
「しかし、神域で作った、あの冷てぇ菓子わぁ猪蟹屋で出しても良さそうじゃねぇかぁ?」
「それにしても神域で作りました、あの冷や菓子はお店でお出ししても、およろしいのではないかしら? ――さんはい♪」
正しく言い直され――ぴしゃり♪
初心者用魔法杖で肩を叩かれる。
こいつぁ、前世を思い出すぜ。
「そっれにしてもよぉうぅ――」
くい――――ぴしゃり♪
ついつい首を倒して、肩を空けちまった。
「神域で作りましたる、冷えた菓子わぁよぉ――」
もっとも彼女にとって、初心者用魔法杖は――――ぴしゃり♪」
「猪蟹屋で出しても、良いだろうがよぜわ、がはははっ――」
坊主にとっての、警覚策励と同義だぜ――――ぴしゃり♪
躾としちゃ、なんら間違っちゃいねぇのだが。
「そぅ小せぇもんでチクチクされても、気合いが入らねぇ。担任教師が忘れてった、この〝呪い棒〟で叩いてくれた方がよっぽど座禅……修行の役に立つぜ?」
ごとん♪
リオレイニアの生活魔法を、不発にした――呪いの魔法杖。
「ひぃえぇっ――!? こ、こんな棍棒で、小さな女の子を叩くことなんて出来るはずもありませんっ!」
狼狽える、マナー講師。
「はぁ? 朧月寺では、こんな感じの棒を使ってたがなぁ」
平たくて長すぎず、実にちょうど良いぞ。
「「「「「「「「ひぃぃぃぃっ――――シガミーの故郷って、怖っ!」」」」」」」」
今日もそれなりの人数が、のこってやがる。
ほとんどは、リオレイニア……いや美の女神の生まれ変わりと噂される――イオレイニア先生、目当てだろうが。
「けど、レーニアおばさん」
「おばさんではありませんが、何ですかヴィヴィー?」
「あの冷たくて甘いお菓子は、リカルルさまには、食べさせない方が良いと思うの」
「あー、ソレは……たしかに」
眉間を押さえ、考え込むマナー講師。
「菓子くれぇ、食わせてやったら良いじゃんか? 姫さんは甘いもんに、目がねぇじゃねぇかよ?」
何でそんな意地悪を、言うんだぜ?
§
「わっ、わなわなわな――――!?」
ひと口、飲むなり体を震わせる。
その殺気が膨れあがり、両の瞳に集約していく。
「や、やはり口には、合わんかったかのぅ?」
収納魔法に入れて置いた――
例の新開発の、〝アイスクリーム〟という菓子。
シガミーが切りわけた、端の部分。
ぜんぶを集めてもここにいる人数分には、なりそうもなかったので――
ギュギュッゥウゥゥゥゥンッ――――♪
牛の乳でかさ増しして――機械腕で満遍なく、かき混ぜた。
儂は生活魔法を使えないので、溶けてしまったソレをそのまま。
飲み物代わりに、お出ししたのじゃが。
「わっ、私決めましたわっ――――♪」
叫ぶ伯爵令嬢。
「なっ、何をじゃあ?」
狼狽える天狗。
「ごぎゅごぎゅ、ぷはぁ、冷たいっ♪ 私も、ここに住みますわぁぁぁぁっ――――!」
ぬぅ? もてなすことは、出来たようじゃが。
「にゃみゃがぁー♪」
「ひっひひひひぃぃぃん?」
まてまて、主らにもくれてやるわい。
猫には持ち手が付いた杯。
馬には木箱に置いた平皿。
令嬢と猫と馬は、実にうまそうに飲んでおる。
儂は飲み食いはせぬが、それらしく見せねば――怪しまれよう。
「では儂も一献。ごくごくごくり――ぷはぁ♪」
なるほどのう。この冷たい喉ごしには――
ひとつ、感じ入るところがあった。
やや派手なドレスも、ここ央都の景色には、よく溶け込んでいる。
「実はのう、こやつらを猪蟹屋の根城まで連れ帰ろうとしたのじゃが……まるで言うことを聞いてはくれぬでのぉ――」
バカッァン!
そんな物音を、見あげる二人。
窓を開け、見知った派手な淑女に――「みゃにゃぎゃぁー♪」と。
のんきに手を振る、件の片割れ。
「あー、状況はわかりましたわ。ひとまずは人払いをいたしましょうか――――ココォォン♪」
ぼぼぼぼおごごごごおぉぉぉぉおゎあっぁぁぁぁ――――――――♪
うなる殺意は、立ちならぶ高層建築物を越えて、なお吹き上がる。
陽光に消されぬ暗い炎が、立ちのぼってから程なく。
縦長の旗を掲げ、騎馬隊がやってきた。
その数は、十二騎。
入り組んだ町中で運用するには、やや多いその数に――
ひとり気配を殺す――INTタレットにして修験者・天狗。
「そんなに身がまえなくても、大丈夫ですわ――」
タンタンタタン♪
「にゃにゃみゃぎゃー♪」
ぽっきゅぽきゅぽきゅ♪
「――彼らは全員、コントゥル家の私兵ですので♪」
猫の魔物の手を引き、階段を降りてくる淑女。
「おい、あの旗。ガムラン辺境伯の……」
「ってことは、また王女さまがらみか?」
「おい、いこうぜ」
「そうね。あまり長居をすると、ゴーレムが湧くかも」
物見遊山の市民たちは、何かを勝手に納得し――
みんな居なくなってしまった。
「お嬢さま。我々はいかがいたしましょうか?」
隊長らしき騎兵から、女性の声。
「そーねー。レーニアは、まだ学院に?」
猫の魔物と手をつなぐ、主君をまえにして――
「はい――通常でしたら出てくるまで、あと二時間ほど掛かります」
一切ひるまず動じない彼女は、とても優秀な騎士なのだろう。
「そう。では皆は、通常の巡回路へ戻ってください」
ぱかぱかぱからら♪
突然現れた騎馬隊は、突然走り去った。
当然ながら、ぽきゅぽきゅなどしていない。
「にゃみゃがぁぁ――――♪」
威風堂々とした爪音に、感化されたのか――
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃんっ――――♪」
黄緑色の上に黄緑色が、颯爽と跨がった。
ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「にゃにゃみゃぁ――♪」
ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「ひっひひひぃぃん――?」
人気のなくなった路地裏を、闊歩してみせる騎馬兵一式。
「ぷふふふふうふっ、くすくすくすくすすすすっ♪」
その間抜けさは、如何ほどのものか。
先ほどの騎兵との落差は――淑女の頬を緩ませる。
「まったく変わりませんのね、アナタたちは♪ 私もその猪蟹屋の根城とやらに用事があって来ましたのよ――あらっ?」
猫騎士にひょいと、つまみ上げられるコントゥル家ご令嬢。
ぽっきゅらぽっきゅら、ぽっきゅらら――――きゃぁぁぁぁっ!
間抜けた爪音は、一瞬で姿を消した。
「ぬぅ、ぬかったわ! あやつら見てくれと中身が、まるで別物じゃと言うことを忘れとったわい!」
リカルル姫をさらった、間抜けた黄緑色。
それが駆けていった方角へ――どごごぉぉぉぉん!
黒づくめの老人も、姿を消した。
§
「はぁはぁはぁ――ふぅぃ。よる年並みには、勝てんのぉ――ふぅぃ」
肩で息をする、ご老体。
その実、ほぼ無尽蔵の四肢を持つ、空飛ぶINTタレット迅雷は――思案に暮れていた。
「くすくすくす――――ご謙遜を。なにせアナタは、あのオルコトリアを剣の腕で説き伏せたのですから」
フカフカの長椅子へ、背中をあずける伯爵令嬢。
そこは応接室とは、名ばかりの――
荷物が煩雑に置かれた、ただの隙間だった。
「ううぅむ。それはちぃと、間違った話が伝わっておるようじゃのう。そもそも鬼娘と戦ったのは、そこに居るおにぎりじゃて」
猪蟹屋四号店(仮)兼、猪蟹屋関係者の住居内部。
清掃はされていたが、整頓はされていないようだ。
「にゃみぎゃぁー?」
積まれた木箱のどこかから、声が聞こえた。
「ひっひぃん?」
潜んでいるつもりなのかも知れないが――
黄緑色の長首は、普通に見えている。
「ソレについては色々と、問いただしたい所でもあるのですけれど……央都はすこし蒸しますわね~」
はたはたと、掌で扇いでみせる。
「それなら、地下は涼しいかも知れぬぞ……行ってみるか? 冷やす魔法具箱は好きに使えと言われておるから、なにか冷たいものでも――」
がしり――「(手甲をつかまれたわい)」
「テェーングさまっ、地下への階段はどちらですのっ!?」
その瞳には例の殺気が、ありありと宿っていた。
しかし、この場合の獲物は〝冷たいもの〟であって――
「(儂ではない……と思う)」
なぜなら彼女は、朗らかに笑っている。
§
「しかし、神域で作った、あの冷てぇ菓子わぁ猪蟹屋で出しても良さそうじゃねぇかぁ?」
「それにしても神域で作りました、あの冷や菓子はお店でお出ししても、およろしいのではないかしら? ――さんはい♪」
正しく言い直され――ぴしゃり♪
初心者用魔法杖で肩を叩かれる。
こいつぁ、前世を思い出すぜ。
「そっれにしてもよぉうぅ――」
くい――――ぴしゃり♪
ついつい首を倒して、肩を空けちまった。
「神域で作りましたる、冷えた菓子わぁよぉ――」
もっとも彼女にとって、初心者用魔法杖は――――ぴしゃり♪」
「猪蟹屋で出しても、良いだろうがよぜわ、がはははっ――」
坊主にとっての、警覚策励と同義だぜ――――ぴしゃり♪
躾としちゃ、なんら間違っちゃいねぇのだが。
「そぅ小せぇもんでチクチクされても、気合いが入らねぇ。担任教師が忘れてった、この〝呪い棒〟で叩いてくれた方がよっぽど座禅……修行の役に立つぜ?」
ごとん♪
リオレイニアの生活魔法を、不発にした――呪いの魔法杖。
「ひぃえぇっ――!? こ、こんな棍棒で、小さな女の子を叩くことなんて出来るはずもありませんっ!」
狼狽える、マナー講師。
「はぁ? 朧月寺では、こんな感じの棒を使ってたがなぁ」
平たくて長すぎず、実にちょうど良いぞ。
「「「「「「「「ひぃぃぃぃっ――――シガミーの故郷って、怖っ!」」」」」」」」
今日もそれなりの人数が、のこってやがる。
ほとんどは、リオレイニア……いや美の女神の生まれ変わりと噂される――イオレイニア先生、目当てだろうが。
「けど、レーニアおばさん」
「おばさんではありませんが、何ですかヴィヴィー?」
「あの冷たくて甘いお菓子は、リカルルさまには、食べさせない方が良いと思うの」
「あー、ソレは……たしかに」
眉間を押さえ、考え込むマナー講師。
「菓子くれぇ、食わせてやったら良いじゃんか? 姫さんは甘いもんに、目がねぇじゃねぇかよ?」
何でそんな意地悪を、言うんだぜ?
§
「わっ、わなわなわな――――!?」
ひと口、飲むなり体を震わせる。
その殺気が膨れあがり、両の瞳に集約していく。
「や、やはり口には、合わんかったかのぅ?」
収納魔法に入れて置いた――
例の新開発の、〝アイスクリーム〟という菓子。
シガミーが切りわけた、端の部分。
ぜんぶを集めてもここにいる人数分には、なりそうもなかったので――
ギュギュッゥウゥゥゥゥンッ――――♪
牛の乳でかさ増しして――機械腕で満遍なく、かき混ぜた。
儂は生活魔法を使えないので、溶けてしまったソレをそのまま。
飲み物代わりに、お出ししたのじゃが。
「わっ、私決めましたわっ――――♪」
叫ぶ伯爵令嬢。
「なっ、何をじゃあ?」
狼狽える天狗。
「ごぎゅごぎゅ、ぷはぁ、冷たいっ♪ 私も、ここに住みますわぁぁぁぁっ――――!」
ぬぅ? もてなすことは、出来たようじゃが。
「にゃみゃがぁー♪」
「ひっひひひひぃぃぃん?」
まてまて、主らにもくれてやるわい。
猫には持ち手が付いた杯。
馬には木箱に置いた平皿。
令嬢と猫と馬は、実にうまそうに飲んでおる。
儂は飲み食いはせぬが、それらしく見せねば――怪しまれよう。
「では儂も一献。ごくごくごくり――ぷはぁ♪」
なるほどのう。この冷たい喉ごしには――
ひとつ、感じ入るところがあった。
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