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3:ダンジョンクローラーになろう
373:龍脈の回廊、女将と果実と鉄棍と見えない敵
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「これが、シガミーだって!?」
奥の厨房から駆けつけたのは、木さじ食堂の女将。
応接室中央、ニゲルと対峙する〝巨大プラモ〟を指さす手が震えている。
「なぁんかねぇー、そーらしーのよねぇーん?」
映像を見あげる、女神御神体。
「はい、間違いありませんわ、くすくす?」
頭の立木が引っ込んで、すっかり身軽に戻った少女カヤノヒメ。
含みのある笑いも復活。
「けど、一体どうするおつもりですの?」
少女の肩をつかみ、真剣な面持ちの家主。
「どうするの、とは?」
首を傾げる星神の少女。
「ひそひそ……アナタが借りている、シガミーの体のことですわ」
声をひそめ、問いただす。
「そうだね、どーせみんなカヤノヒメには女神さまに似た力があるって、気づいてるんだし――この際、はっきりしてもらおうじゃぁないかい?」
腰に手を当て、静かに息を吐く、コッヘル夫人。
面倒見の良い彼女は、猪蟹屋二号店で働くカヤノヒメのもとへ――
足繁く通っていた経緯がある。
つまりは、お行儀の悪いシガミーのことも、目のまえに居る品行方正なカヤノヒメのことも――
同じくらいに、心配しているのだ。
「そのことでしたら、どうとでもなりますわ。こうして〝神木の果実〟も余分に手に入りましたし、うふふ♪」
少女の手には、ふたつの――生毛が生えた奇怪な果実。
「あらそれぇー、あのときの桃ぉー? すっごくおいしそうねぇー♪」
などと大口を開き、目を輝かせる御神体。
それを横からギュッと捕まえる、伯爵夫人。
「イオノファラーさま、お戯れお? ――こぉん♪」
ぼぉぼぉぼぉぼぉぼぅわっ♪
青白い炎が発火し、テーブルの周囲を漂う。
シガミーが抱える問題を、解決する糸口らしい果物を――
食べられては大変と、威嚇しているのだ。
普段は女神と似たような口調で、ふざけ気味の彼女が――
酷く真剣な顔をしていた。
§
「シガミィーなのかぁーい!? 僕だよぉー、ニゲルだよぉー!」
なんか頭から動物の耳を生やしたヤツが、語りかけてくる。
死神ってのは何だったか。
今の今まで覚えてたんだが、この鎧を動かす度に――ど忘れしちまうぜ!
それと「逃げる」ってのわぁ、何だ?
じっと見てたら――キュキュィィー♪
その顔が大写しになった。
「なンでぇいなんでぇい、ソの時化タ面ァ――ニャン?」
なんとも覇気のねぇ野郎だが――
お前さまも、化け猫なのか?
おれもついさっきまで、化け猫の姿形をしてたんだが――
そう考えた途端に――
目のまえに線が引かれ、甲冑姿の武者が描かれた。
この絵の見方は知ってる。
おれが化け猫の時分には、ちゃんと化け猫の絵が見えてた。
「するってぇーと――ニャン?」
どうもおれは今、鎧を着込んで――いくさにでも出かける所だったらしい。
あたりを見わたせば――森の中。
ここはどこだぜ?
さっきまで居た部屋の中でも、洞窟の中でも、白い地面が続く場所でもなけりゃ、月があった暗い場所でもねぇ。
フォォォォォ――――――サワサワササッ。
風が吹いて――木が揺れる。
重く硬い鎧に包まれた体が――
かってに靡く。
体を風に任せる立ち方は――
誰かにならった、気がするな。
それは――
おれの師匠みてぇなやつから教わった――んじゃぁねぇな。
どうにも、考えがまとまらねぇ。
頭をよぎるのは――草原。
さびた剣に――鬼。
鬼の一本角が光って――金剛力を使う光景。
思い出さねぇといけねぇことが思い出せなくて、どうでも良いことばかりが頭の中を流れていく。
ゴゴゴォォン!
吹く風に、身を任せてたら。
手にした棒が、近くの木にぶつかった。
大木よか太さがある、白金の棒。
この鋼の色にも、見覚えがあるぞ。
握った感じわぁ、まるで――おれが使ってた錫杖だ。
ピピピピピ、ピピピピピプゥ――――――――♪
耳元で聞こえる、鳥の甲高い鳴き声。
ふぉん♪
『▼▼▼』
正面に赤い、三角印があらわれた。
こいつぁ、何かがこっちへ向かって来てるって合図だ。
どうしてだかわからねぇが、わかるもんは仕方がねぇ。
正面には、すこし開けた地面しかない。
何も居ねぇが、何か来てる。
探すな!
首を振る暇で、気配を殴れ!
ブゥウゥゥゥッォォオォォンッ――――――――!
ばきばきばきばきばきぃぃぃぃっ!
手近な大木を、なぎ倒し――――ガッギュギィィンッ!!
何かを弾いた!
「ッチィィィィイィィイイイェェェェェェェェェイイイィィィイッ――――!!!」
誰かが発した〝発〟。
おれは棒に感じた衝撃を頼りに――鉄棍を投げ捨てた!
ザッギィィィィィィィィイィン――――――ギャキギャキギャキキュキャッ!
良質の鉄製。
とんでもねぇ太さの、硬ぇ柱を――
「あっぶねぇー――ニャァ!?」
幹竹割りにしたのは――
さっきまで間合いの、外に居たはずの――
「ニゲェルゥー、てめぇ! すこしは手加減しろってぇんだぜ――ニャン♪」
また口をついて出た、言葉。
そうだ、こいつぁ――たしかニゲルだ。
あたりをもう一度探すが、その姿はどこにもない。
おれの中の別のおれが、見えねぇ敵を危険視してやがる。
おれは腰を落とし――ガッキュゥゥンッ!
親指で大刀を――ガチリと開けた。
奥の厨房から駆けつけたのは、木さじ食堂の女将。
応接室中央、ニゲルと対峙する〝巨大プラモ〟を指さす手が震えている。
「なぁんかねぇー、そーらしーのよねぇーん?」
映像を見あげる、女神御神体。
「はい、間違いありませんわ、くすくす?」
頭の立木が引っ込んで、すっかり身軽に戻った少女カヤノヒメ。
含みのある笑いも復活。
「けど、一体どうするおつもりですの?」
少女の肩をつかみ、真剣な面持ちの家主。
「どうするの、とは?」
首を傾げる星神の少女。
「ひそひそ……アナタが借りている、シガミーの体のことですわ」
声をひそめ、問いただす。
「そうだね、どーせみんなカヤノヒメには女神さまに似た力があるって、気づいてるんだし――この際、はっきりしてもらおうじゃぁないかい?」
腰に手を当て、静かに息を吐く、コッヘル夫人。
面倒見の良い彼女は、猪蟹屋二号店で働くカヤノヒメのもとへ――
足繁く通っていた経緯がある。
つまりは、お行儀の悪いシガミーのことも、目のまえに居る品行方正なカヤノヒメのことも――
同じくらいに、心配しているのだ。
「そのことでしたら、どうとでもなりますわ。こうして〝神木の果実〟も余分に手に入りましたし、うふふ♪」
少女の手には、ふたつの――生毛が生えた奇怪な果実。
「あらそれぇー、あのときの桃ぉー? すっごくおいしそうねぇー♪」
などと大口を開き、目を輝かせる御神体。
それを横からギュッと捕まえる、伯爵夫人。
「イオノファラーさま、お戯れお? ――こぉん♪」
ぼぉぼぉぼぉぼぉぼぅわっ♪
青白い炎が発火し、テーブルの周囲を漂う。
シガミーが抱える問題を、解決する糸口らしい果物を――
食べられては大変と、威嚇しているのだ。
普段は女神と似たような口調で、ふざけ気味の彼女が――
酷く真剣な顔をしていた。
§
「シガミィーなのかぁーい!? 僕だよぉー、ニゲルだよぉー!」
なんか頭から動物の耳を生やしたヤツが、語りかけてくる。
死神ってのは何だったか。
今の今まで覚えてたんだが、この鎧を動かす度に――ど忘れしちまうぜ!
それと「逃げる」ってのわぁ、何だ?
じっと見てたら――キュキュィィー♪
その顔が大写しになった。
「なンでぇいなんでぇい、ソの時化タ面ァ――ニャン?」
なんとも覇気のねぇ野郎だが――
お前さまも、化け猫なのか?
おれもついさっきまで、化け猫の姿形をしてたんだが――
そう考えた途端に――
目のまえに線が引かれ、甲冑姿の武者が描かれた。
この絵の見方は知ってる。
おれが化け猫の時分には、ちゃんと化け猫の絵が見えてた。
「するってぇーと――ニャン?」
どうもおれは今、鎧を着込んで――いくさにでも出かける所だったらしい。
あたりを見わたせば――森の中。
ここはどこだぜ?
さっきまで居た部屋の中でも、洞窟の中でも、白い地面が続く場所でもなけりゃ、月があった暗い場所でもねぇ。
フォォォォォ――――――サワサワササッ。
風が吹いて――木が揺れる。
重く硬い鎧に包まれた体が――
かってに靡く。
体を風に任せる立ち方は――
誰かにならった、気がするな。
それは――
おれの師匠みてぇなやつから教わった――んじゃぁねぇな。
どうにも、考えがまとまらねぇ。
頭をよぎるのは――草原。
さびた剣に――鬼。
鬼の一本角が光って――金剛力を使う光景。
思い出さねぇといけねぇことが思い出せなくて、どうでも良いことばかりが頭の中を流れていく。
ゴゴゴォォン!
吹く風に、身を任せてたら。
手にした棒が、近くの木にぶつかった。
大木よか太さがある、白金の棒。
この鋼の色にも、見覚えがあるぞ。
握った感じわぁ、まるで――おれが使ってた錫杖だ。
ピピピピピ、ピピピピピプゥ――――――――♪
耳元で聞こえる、鳥の甲高い鳴き声。
ふぉん♪
『▼▼▼』
正面に赤い、三角印があらわれた。
こいつぁ、何かがこっちへ向かって来てるって合図だ。
どうしてだかわからねぇが、わかるもんは仕方がねぇ。
正面には、すこし開けた地面しかない。
何も居ねぇが、何か来てる。
探すな!
首を振る暇で、気配を殴れ!
ブゥウゥゥゥッォォオォォンッ――――――――!
ばきばきばきばきばきぃぃぃぃっ!
手近な大木を、なぎ倒し――――ガッギュギィィンッ!!
何かを弾いた!
「ッチィィィィイィィイイイェェェェェェェェェイイイィィィイッ――――!!!」
誰かが発した〝発〟。
おれは棒に感じた衝撃を頼りに――鉄棍を投げ捨てた!
ザッギィィィィィィィィイィン――――――ギャキギャキギャキキュキャッ!
良質の鉄製。
とんでもねぇ太さの、硬ぇ柱を――
「あっぶねぇー――ニャァ!?」
幹竹割りにしたのは――
さっきまで間合いの、外に居たはずの――
「ニゲェルゥー、てめぇ! すこしは手加減しろってぇんだぜ――ニャン♪」
また口をついて出た、言葉。
そうだ、こいつぁ――たしかニゲルだ。
あたりをもう一度探すが、その姿はどこにもない。
おれの中の別のおれが、見えねぇ敵を危険視してやがる。
おれは腰を落とし――ガッキュゥゥンッ!
親指で大刀を――ガチリと開けた。
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