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3:ダンジョンクローラーになろう
369:龍脈の回廊、レイド村の変異種を倒してください
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床に落ちたケースの中。
布にくるまれていた何かは、厚みを無くし――
映像空間に溶け込んだ。
「ニゲル店長さん、聞こえますかー? こふぉこふゅん♪」
ぼっごふぁぁぁん、ぼっごぼごっふぁぁぁん♪♪
咲き乱れるのは、花の暴力。
ガッチャリ! ガラガラガララララッ!
開かれる、オルコトリアが開けた縦穴。
ぽいぽいぽいぽぽい――♪
コントゥル家執事と侍女隊が、一抱えはある花を――
次々と投げ捨てていく。
クルクルと回転し、暗闇へ落ちていく花――
幽玄の光景に目を奪われる者は――居ない。
「どなたか、中二階の倉庫から道具を――」
「三班から四班まで一列に並び、花をリレーしてください」
花の湧く速度と、片付ける人員が、拮抗しているのだ。
「ちょっと、レーニア……酷いじゃないの!」
突き飛ばされたリカルルが、むくりと起きあがる。
「申し訳ありません、遠距離魔法かアーティファクトによる……狙撃かと思いましたもので」
突き飛ばしたリオレイニアも、むくりと起きあがった。
ふぉふぉふぉふぉぉぉぉんっ♪
埋もれる花々に見え隠れするのは、映像空間に染みだした一差しの色。
分け身の分け身、まさに枝葉の枝葉である――偶然の産物。
一時的に顕現した御神体の複製体。
水に垂らした墨汁のように、青地の作業エリアに広がる――仮想化御神体。
ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉおおおぉおぉぉぉぉぉぉん♪
それは、積み重ねられた演算式を包みこむ。
うねりは寄り合わされ光の線となり、演算を加速する起爆剤となった。
仮想化シシガニャンを取り囲む、まだ☑マークのついていない〝変異種記号〟が――ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽここん♪
一瞬で〝複合〟された。
すべての線が、一体の〝変異種記号〟へ接続され――
ふぉふぉふぉおん♪
『Please Destroy the variant of the RAID village.』
一枚の〝行動を促すダイアログ〟をはじき出した。
「――カヤノヒメちゃんだよねー、聞こえてるよー。こっちには、サメが出たよーぅ!」
腰が引けた声。映像がなくても、その覇気のなさに拍車が掛かっているのがわかる。
「そのサメを斬ってくださいませ。こふぉん♪」
「――えぇーっ! そんなこと言ったって、サメ怖いじゃんか! 空飛ぶしさぁー!」
サメが怖いと泣き言を言う、ニゲル店長。
店長というのは猪蟹屋二号店の雇われのことで。
カヤノヒメは数日、店員カヤノヒメニャンとして勤務している。
「――グウッギャゥゥゥォォォォォォォウッ――――ゴボボボドバッシャァァン――――ぎゃぁぁぁっ!」
阿鼻叫喚の、レイド村音声。
「レーニア……いえ、リオレイニアさん?」
ぱたぱたとドレスを払う。
「なんでしょう、お嬢さま?」
ぱたぱたと給仕服を払う。
「サメって……何だったかしら?」
足下に転がってきた花を靴先で蹴り、手に取る家主――ぽふん♪
「サメ……たしか、風雨に棲まう、獰猛な魚だったと記憶していますが」
主人から受け取った大きく丸い花を、手近な同僚へパス――ぽふん♪
「――ニゲルさん。そのサメがシガミーさんを呼び戻すための、最後のパーツです。お願いいたします、こひゅこふぅん♪」
ぱぁぁぁ、ぼっぼっがぁぁん!
「侍女隊前へー!」とうとう、雪かきのような道具を持ち出した。
捨てられていく、綺麗な花。
この様子では、オルコトリア謹製ダストシュートも、すぐに満杯になるだろう。
「すぅうぅぅぅぅぅ――――!」
手持ち無沙汰で焦れていた所に、ニゲルの為体。
水を得た最凶が、おおきく息を吸い込んだ。
§
「まったく何奴も此奴も、慌てふためきやがって――ニャ♪」
どうもおれぁ、正面しか見られねぇらしい。
向こうの声は聞こえるがコッチの声は、まるで届かねぇし。
ただ、大きな部屋の中を隅々まで見わたせるのが、救いだった。
ふぉん♪
『>第八階層クリア』
んぁ? 何か出た。
隅に見えてた地図の一番上のが――パリンと割れた。
ふぉふぉふぉぉん♪
『>鷲の脚爪スキルを収得。SPの消費はありません』
何だか、さっぱりわからねぇ。
ふぉふぉん♪
『>第七階層クリア。
大蝙蝠の毒針スキルを習得。SPの消費はありません』
また、何か出たぞ。
ふぉふぉん♪
『>第六階層クリア――』
次々と割れる地図。
ふぉふぉん♪
『>第五階層クリア――』
重なった地図の、上半分が――
「消えて無くなっちまった――ニャァ!?」
そもそもこの地図は、さっきまでいた洞窟のだ。
さっぱり訳がわからん。
§
「――くぉらぁ――――ニィゲェルゥゥゥゥゥッ!!」
青年の思い人である、ご令嬢の声が――
カナル型耳栓の高性能ドライバーユニットから、迸った。
「わひゃぁ!? り、リカルルさまぁー!?」
とっさに耳栓(翻訳機)の上から耳を押さえ――飛び跳ねるニゲル青年!
「――シガミー追跡部隊隊長として、ガムラン代表として、ギルド受付として、友人として、淑女として、人として――命令いたしますわぁ!」
ビリビリビリビリッ――あまりの大音響に、耳栓をはずすニゲル。
「――そのお魚、見事切り捨てて見せなさいなっ!」
漏れ聞こえてきたのは、そんな言葉。
「ええええぇぇー!? でもさアイツさっ、ものっすごい厳つい顔してるんだよねぇー!」
物陰から上空を見つめる瞳が、怯えにゆがむ。
「――なんですか、そんな程度。レーニアが本気で怒ったときなんて――」
「――おじょうさま――?」
ご令嬢の、小さな悲鳴。
「くっそぉー!! せめてあのサメを倒してから、破裂すれば良かったのに! おにぎりのヤツ!」
青年は背負った収納魔法具箱を、ガチャリと担ぎなおした。
布にくるまれていた何かは、厚みを無くし――
映像空間に溶け込んだ。
「ニゲル店長さん、聞こえますかー? こふぉこふゅん♪」
ぼっごふぁぁぁん、ぼっごぼごっふぁぁぁん♪♪
咲き乱れるのは、花の暴力。
ガッチャリ! ガラガラガララララッ!
開かれる、オルコトリアが開けた縦穴。
ぽいぽいぽいぽぽい――♪
コントゥル家執事と侍女隊が、一抱えはある花を――
次々と投げ捨てていく。
クルクルと回転し、暗闇へ落ちていく花――
幽玄の光景に目を奪われる者は――居ない。
「どなたか、中二階の倉庫から道具を――」
「三班から四班まで一列に並び、花をリレーしてください」
花の湧く速度と、片付ける人員が、拮抗しているのだ。
「ちょっと、レーニア……酷いじゃないの!」
突き飛ばされたリカルルが、むくりと起きあがる。
「申し訳ありません、遠距離魔法かアーティファクトによる……狙撃かと思いましたもので」
突き飛ばしたリオレイニアも、むくりと起きあがった。
ふぉふぉふぉふぉぉぉぉんっ♪
埋もれる花々に見え隠れするのは、映像空間に染みだした一差しの色。
分け身の分け身、まさに枝葉の枝葉である――偶然の産物。
一時的に顕現した御神体の複製体。
水に垂らした墨汁のように、青地の作業エリアに広がる――仮想化御神体。
ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉおおおぉおぉぉぉぉぉぉん♪
それは、積み重ねられた演算式を包みこむ。
うねりは寄り合わされ光の線となり、演算を加速する起爆剤となった。
仮想化シシガニャンを取り囲む、まだ☑マークのついていない〝変異種記号〟が――ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽここん♪
一瞬で〝複合〟された。
すべての線が、一体の〝変異種記号〟へ接続され――
ふぉふぉふぉおん♪
『Please Destroy the variant of the RAID village.』
一枚の〝行動を促すダイアログ〟をはじき出した。
「――カヤノヒメちゃんだよねー、聞こえてるよー。こっちには、サメが出たよーぅ!」
腰が引けた声。映像がなくても、その覇気のなさに拍車が掛かっているのがわかる。
「そのサメを斬ってくださいませ。こふぉん♪」
「――えぇーっ! そんなこと言ったって、サメ怖いじゃんか! 空飛ぶしさぁー!」
サメが怖いと泣き言を言う、ニゲル店長。
店長というのは猪蟹屋二号店の雇われのことで。
カヤノヒメは数日、店員カヤノヒメニャンとして勤務している。
「――グウッギャゥゥゥォォォォォォォウッ――――ゴボボボドバッシャァァン――――ぎゃぁぁぁっ!」
阿鼻叫喚の、レイド村音声。
「レーニア……いえ、リオレイニアさん?」
ぱたぱたとドレスを払う。
「なんでしょう、お嬢さま?」
ぱたぱたと給仕服を払う。
「サメって……何だったかしら?」
足下に転がってきた花を靴先で蹴り、手に取る家主――ぽふん♪
「サメ……たしか、風雨に棲まう、獰猛な魚だったと記憶していますが」
主人から受け取った大きく丸い花を、手近な同僚へパス――ぽふん♪
「――ニゲルさん。そのサメがシガミーさんを呼び戻すための、最後のパーツです。お願いいたします、こひゅこふぅん♪」
ぱぁぁぁ、ぼっぼっがぁぁん!
「侍女隊前へー!」とうとう、雪かきのような道具を持ち出した。
捨てられていく、綺麗な花。
この様子では、オルコトリア謹製ダストシュートも、すぐに満杯になるだろう。
「すぅうぅぅぅぅぅ――――!」
手持ち無沙汰で焦れていた所に、ニゲルの為体。
水を得た最凶が、おおきく息を吸い込んだ。
§
「まったく何奴も此奴も、慌てふためきやがって――ニャ♪」
どうもおれぁ、正面しか見られねぇらしい。
向こうの声は聞こえるがコッチの声は、まるで届かねぇし。
ただ、大きな部屋の中を隅々まで見わたせるのが、救いだった。
ふぉん♪
『>第八階層クリア』
んぁ? 何か出た。
隅に見えてた地図の一番上のが――パリンと割れた。
ふぉふぉふぉぉん♪
『>鷲の脚爪スキルを収得。SPの消費はありません』
何だか、さっぱりわからねぇ。
ふぉふぉん♪
『>第七階層クリア。
大蝙蝠の毒針スキルを習得。SPの消費はありません』
また、何か出たぞ。
ふぉふぉん♪
『>第六階層クリア――』
次々と割れる地図。
ふぉふぉん♪
『>第五階層クリア――』
重なった地図の、上半分が――
「消えて無くなっちまった――ニャァ!?」
そもそもこの地図は、さっきまでいた洞窟のだ。
さっぱり訳がわからん。
§
「――くぉらぁ――――ニィゲェルゥゥゥゥゥッ!!」
青年の思い人である、ご令嬢の声が――
カナル型耳栓の高性能ドライバーユニットから、迸った。
「わひゃぁ!? り、リカルルさまぁー!?」
とっさに耳栓(翻訳機)の上から耳を押さえ――飛び跳ねるニゲル青年!
「――シガミー追跡部隊隊長として、ガムラン代表として、ギルド受付として、友人として、淑女として、人として――命令いたしますわぁ!」
ビリビリビリビリッ――あまりの大音響に、耳栓をはずすニゲル。
「――そのお魚、見事切り捨てて見せなさいなっ!」
漏れ聞こえてきたのは、そんな言葉。
「ええええぇぇー!? でもさアイツさっ、ものっすごい厳つい顔してるんだよねぇー!」
物陰から上空を見つめる瞳が、怯えにゆがむ。
「――なんですか、そんな程度。レーニアが本気で怒ったときなんて――」
「――おじょうさま――?」
ご令嬢の、小さな悲鳴。
「くっそぉー!! せめてあのサメを倒してから、破裂すれば良かったのに! おにぎりのヤツ!」
青年は背負った収納魔法具箱を、ガチャリと担ぎなおした。
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