363 / 740
3:ダンジョンクローラーになろう
363:龍脈の回廊、おにぎりはご主人さま?
しおりを挟む
「わしゃぁ、レイド村村長のナッツバーですじゃ。へへははぁー!」
三度目の、へへははぁー。
集会所に集まったレイド村村民は、総人口100人にも満たなかった。
ソレに対して随分と立派な、広い建物。
作りとしてはガムラン町や城塞都市オルァグラムの、ギルド会館並み。
「ようやく、ご老人が出てきた……ひそひそ」
ぺらぺらのゴザのような座布団に座る、ニゲル青年。
ソレを取り囲むのは、それほど歳の違わない若者ばかり。
「ニャンみゃ、にゃがにゃぁー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>ニャンが抜けてるもの♪』
「調子に乗るなよ、おにぎり……ひそひそ……集会所って言ってたけど、コンサートが出来るイベントホール並みじゃんか――ニャン♪」
「いま、戦えない老人と女子供は、隣町へ避難してましてのう」
「避難――ニャン?」
「そうですじゃ。こちらを、ご覧ください」
ぱさり。
広げられたのは、ちょっと長めの紙。
「これ、何て書いてあるんだい……ひそひそ?」
彼は会話こそ普通に出来ているが――この世界の文字の読み書きには、苦労しているらしい。
「にゃやにゃごにゃぁーにゃる、みゃごにゃぁー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>千年に一度の大々々チャンスって、書いてあるもの♪』
「千年に一度の、大チャンスぅ!?」
青年の目が点になる。
「はい、それについては私が、ご説明させて頂きますわ。御使いのお猫さまにお付きの方、どうぞこちらへ」
自分の座布団を持った神官女性が、壁沿いのテーブルまで歩いて行く。
「お、お付きの方ぁー!?」
頭に猫耳を付けた、覇気の無い青年。
その印象は、どこからどう見ても――
〝お猫さまのお付き〟に相応しい。
「にゃみゃご、みゃにゃにゃみゃごぉー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>ニゲル君、まあ頑張りたまえだもの♪』
御使いさまが従者の肩を、ぽきゅと叩く。
「ぐっ、下手に訂正すると……ひそひそ……また猫の魔物扱いに戻りかねないから、このままいくけど……あとで覚えてろよ、おにぎり」
青年の顔が、ピクリと引きつる。
村人全員が揃った会合は一瞬で終わり、若い衆たちはゾロゾロと外へ出て行く。
テーブルには村長ナッツバーに神官女性、御使いのお猫さまとその従者だけがのこった。
「申し遅れましたが、私は隣町の教会から派遣された神官ナーフ・アリゲッタです」
組んだ手を鼻に押し当てる様は、敬虔で礼儀正しいが――
猫と青年を馬鹿にしているようにしかみえない。
「ど、どうも。西……ニゲルです」
うしろ頭を掻きながら答える、御使いの従者。
「ニシニーゲルさん?」
小首をかしげる神官ナーフ。
「いや、ただのニゲルです。こっちはおにぎり」
猫の従者が、主人である猫を指さす。
「おにぎりさま…………なんて神々しいお名前なの――へひょう♪」
黄緑色の猫の魔物は――決して神々しいようには見えない。
神官女性の方がよぽど、イオノファラー関係者らしい――
組んだ手を鼻に押し当てすぎて、鼻声になっているが。
「神々しくはないよね……ひそひそ」
青年は、〝彼女が付けている片眼鏡は、きっと色眼鏡に違いない〟とでも言いたそうな、あきれ顔をしている。
「みゃにゃやごにゃ、みゃにゃにゃごぉー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おにぎりはおにぎりだもの。こっちはニゲルだもの♪』
お猫さまが首から下げた板を見て、彼は何かを思い出したようだ。
ゴソゴソと取り出したのは、外していた耳栓。
きゅきゅと両耳にはめると――目尻まで伸びた棒の先がチカチカと、青年の瞳を照らした。
この耳栓は、この世界の読み書きが苦手な彼のため、シガミーが作った翻訳機だ。
「えっと、なになに……?」
テーブルに置かれた『千年に一度の大々々チャンス!』の続きを読んでいく。
「コレより千年の間に……十匹の変異種が……レイド村に押しよせるぅ――!?」
異世界からの召喚者であるニゲルでも、変異種の脅威には敏感だ。
『変な魔物にピンときたらソレは――
変異種【バリアント】かも知れません!
お近くのギルド会館までご連絡を。』
全ギルド支部に張られたチラシと同じ物が――この集会所の壁にも多数貼られている。
「はい。〝約束された厄災〟として、近隣の村々に語り継がれてきました」
深刻な神官ナーフ。その顔は青ざめていて、手先が震えていた。
「いつ起こるかわからんがぁぁ、ひとたび始まればぁそれわぁぁ、立て続けに起こるといわれておりまぁすぅじゃぁぁぁぁ――!」
迫真なレイド村村長。その顔は苦渋にゆがみつつも、血気盛んな様子。
「これは、その順番を記した古文書の複製です」
神官の手が、猫と青年の方に長紙を差しだす。
「ええっと、小鳥、蜥蜴、蝙蝠、兎、亀、鷲、牛、猪に……あれ、滲んじゃってる」
古文書には色々な動物の名が連ねられ、その横に絵が描き添えられていたが――
「みゃにゃがぁみゃやー?」
ふぉん♪
『おにぎり>この先が、読めないもの?』
最後の方は滲んでて、判別できない。
「先の角ウサギ戦から急に大型化して、ありとあらゆる建物の屋根に穴を開けていきましてなぁ――」
村長が、天井を仰ぎ見た。
天井には、小さくない穴があいていた。
「あー、雨に濡れて文字が滲んでしまったと――ニャン♪」
青年がソレは大変ですねと、大天井の惨状を確認していると――
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
たとえるなら、ボス戦まえの――嫌なイントロ。
「この着信はっ!? ちょっと失礼しますね♪」
そそくさと距離を取る、猫の従者。
プッ――♪
「はい、もしもし! 西計ですけどぉ――――!」
通話の向こうから、聞こえてきたのは――
「――だからもしもしって、なんですの?」
内耳をくすぐる、軽やかで横柄な艶やかさ。
それは思い人からの、ラブコールではない。
おにぎり追跡隊隊長からの緊急連絡である。
ーーー
レイド/複数のHDDへ並列的に書き込むための保守機構。またはMMORPGなどで複数のパーティ連合により巨大ボス戦に挑むこと。
ナーフ/ゲームシステムのアップデートにおける、弱体化要素のこと。基本的にプレイヤーからは歓迎されない。
三度目の、へへははぁー。
集会所に集まったレイド村村民は、総人口100人にも満たなかった。
ソレに対して随分と立派な、広い建物。
作りとしてはガムラン町や城塞都市オルァグラムの、ギルド会館並み。
「ようやく、ご老人が出てきた……ひそひそ」
ぺらぺらのゴザのような座布団に座る、ニゲル青年。
ソレを取り囲むのは、それほど歳の違わない若者ばかり。
「ニャンみゃ、にゃがにゃぁー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>ニャンが抜けてるもの♪』
「調子に乗るなよ、おにぎり……ひそひそ……集会所って言ってたけど、コンサートが出来るイベントホール並みじゃんか――ニャン♪」
「いま、戦えない老人と女子供は、隣町へ避難してましてのう」
「避難――ニャン?」
「そうですじゃ。こちらを、ご覧ください」
ぱさり。
広げられたのは、ちょっと長めの紙。
「これ、何て書いてあるんだい……ひそひそ?」
彼は会話こそ普通に出来ているが――この世界の文字の読み書きには、苦労しているらしい。
「にゃやにゃごにゃぁーにゃる、みゃごにゃぁー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>千年に一度の大々々チャンスって、書いてあるもの♪』
「千年に一度の、大チャンスぅ!?」
青年の目が点になる。
「はい、それについては私が、ご説明させて頂きますわ。御使いのお猫さまにお付きの方、どうぞこちらへ」
自分の座布団を持った神官女性が、壁沿いのテーブルまで歩いて行く。
「お、お付きの方ぁー!?」
頭に猫耳を付けた、覇気の無い青年。
その印象は、どこからどう見ても――
〝お猫さまのお付き〟に相応しい。
「にゃみゃご、みゃにゃにゃみゃごぉー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>ニゲル君、まあ頑張りたまえだもの♪』
御使いさまが従者の肩を、ぽきゅと叩く。
「ぐっ、下手に訂正すると……ひそひそ……また猫の魔物扱いに戻りかねないから、このままいくけど……あとで覚えてろよ、おにぎり」
青年の顔が、ピクリと引きつる。
村人全員が揃った会合は一瞬で終わり、若い衆たちはゾロゾロと外へ出て行く。
テーブルには村長ナッツバーに神官女性、御使いのお猫さまとその従者だけがのこった。
「申し遅れましたが、私は隣町の教会から派遣された神官ナーフ・アリゲッタです」
組んだ手を鼻に押し当てる様は、敬虔で礼儀正しいが――
猫と青年を馬鹿にしているようにしかみえない。
「ど、どうも。西……ニゲルです」
うしろ頭を掻きながら答える、御使いの従者。
「ニシニーゲルさん?」
小首をかしげる神官ナーフ。
「いや、ただのニゲルです。こっちはおにぎり」
猫の従者が、主人である猫を指さす。
「おにぎりさま…………なんて神々しいお名前なの――へひょう♪」
黄緑色の猫の魔物は――決して神々しいようには見えない。
神官女性の方がよぽど、イオノファラー関係者らしい――
組んだ手を鼻に押し当てすぎて、鼻声になっているが。
「神々しくはないよね……ひそひそ」
青年は、〝彼女が付けている片眼鏡は、きっと色眼鏡に違いない〟とでも言いたそうな、あきれ顔をしている。
「みゃにゃやごにゃ、みゃにゃにゃごぉー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おにぎりはおにぎりだもの。こっちはニゲルだもの♪』
お猫さまが首から下げた板を見て、彼は何かを思い出したようだ。
ゴソゴソと取り出したのは、外していた耳栓。
きゅきゅと両耳にはめると――目尻まで伸びた棒の先がチカチカと、青年の瞳を照らした。
この耳栓は、この世界の読み書きが苦手な彼のため、シガミーが作った翻訳機だ。
「えっと、なになに……?」
テーブルに置かれた『千年に一度の大々々チャンス!』の続きを読んでいく。
「コレより千年の間に……十匹の変異種が……レイド村に押しよせるぅ――!?」
異世界からの召喚者であるニゲルでも、変異種の脅威には敏感だ。
『変な魔物にピンときたらソレは――
変異種【バリアント】かも知れません!
お近くのギルド会館までご連絡を。』
全ギルド支部に張られたチラシと同じ物が――この集会所の壁にも多数貼られている。
「はい。〝約束された厄災〟として、近隣の村々に語り継がれてきました」
深刻な神官ナーフ。その顔は青ざめていて、手先が震えていた。
「いつ起こるかわからんがぁぁ、ひとたび始まればぁそれわぁぁ、立て続けに起こるといわれておりまぁすぅじゃぁぁぁぁ――!」
迫真なレイド村村長。その顔は苦渋にゆがみつつも、血気盛んな様子。
「これは、その順番を記した古文書の複製です」
神官の手が、猫と青年の方に長紙を差しだす。
「ええっと、小鳥、蜥蜴、蝙蝠、兎、亀、鷲、牛、猪に……あれ、滲んじゃってる」
古文書には色々な動物の名が連ねられ、その横に絵が描き添えられていたが――
「みゃにゃがぁみゃやー?」
ふぉん♪
『おにぎり>この先が、読めないもの?』
最後の方は滲んでて、判別できない。
「先の角ウサギ戦から急に大型化して、ありとあらゆる建物の屋根に穴を開けていきましてなぁ――」
村長が、天井を仰ぎ見た。
天井には、小さくない穴があいていた。
「あー、雨に濡れて文字が滲んでしまったと――ニャン♪」
青年がソレは大変ですねと、大天井の惨状を確認していると――
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
たとえるなら、ボス戦まえの――嫌なイントロ。
「この着信はっ!? ちょっと失礼しますね♪」
そそくさと距離を取る、猫の従者。
プッ――♪
「はい、もしもし! 西計ですけどぉ――――!」
通話の向こうから、聞こえてきたのは――
「――だからもしもしって、なんですの?」
内耳をくすぐる、軽やかで横柄な艶やかさ。
それは思い人からの、ラブコールではない。
おにぎり追跡隊隊長からの緊急連絡である。
ーーー
レイド/複数のHDDへ並列的に書き込むための保守機構。またはMMORPGなどで複数のパーティ連合により巨大ボス戦に挑むこと。
ナーフ/ゲームシステムのアップデートにおける、弱体化要素のこと。基本的にプレイヤーからは歓迎されない。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる