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3:ダンジョンクローラーになろう

532:龍脈の回廊、ヘェイ(饅頭)♪

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「こいつぁ! 饅頭型まんじゅうがた魔物まものだっ!」
 ドッゴゴォォォン――――!
 鉄塊てっかい一振ひとふりで壊滅かいめつする、猪蟹屋ししがにや

 椅子いすテーブル、ショーケース、たな
 まどガラスが割れ、すべてがひっくりかえった。

「っきゃぁぁぁっ!?」
 メイドとおにおさな少女しょうじょをつかんで、距離きょりを取った。

 トットン、トトン――♪
 チョロチョロと逃げまわる饅頭まんじゅう
 饅頭それは、なにおもったのか――果敢かかんにも。

 ストトトトトン、タタチテテ――♪
 鉄塊てっかいかまえる膂力の塊ノヴァドへと、向かっていく。

 トトットトトントタトットントトン♪
 トトットトトントタトットントトン♪

 工房長こうぼうちょう足下あしもとで、奇怪きかいうごきを見せる饅頭まんじゅう
 その足音あしおと(?)が、おなじリズムをきざんだ。

 トトットトトントタトットントトン♪
 トトットトトントタトットントトン♪

「ぎゃっ!? 気持きもわるい!」
 メイドリオレイニア背中うしろかくれてしまう、子供レイダ

 トトットトトントタトットントトン♪
 トトットトトントタトットントトン♪

「そうですね、まるで精神作用系せいしんさようけいスキルを使つかわれているような――不信感ふしんかんがあります。気をつけてください!」
 レイダをかばうメイド。

 トトットトトントタトットントトン♪
「おい、ちょっとまてっ――こいつぁ♪」

 トトットトトントタトットントトン♪
 饅頭まんじゅうの、ちいさな歩幅ほはば

 トトットトトントタトットントトン♪
 ソレを真似まね小柄ノヴァド

 トトットトトントタトットントトン♪
 トトットトトントタトットントトン♪
 二つの足音が――重なる。

「ぎゃっ、ノヴァドが乗っ取られた・・・・・・!」
 背後はいご二人ふたりをかばうように、身を乗りだしていたおにが――逃げだす。

「いま、解呪かいじゅのアミュレットを――」
 ポケットをさぐるメイド。
 解呪かいじゅとは言うが、以前いぜんひどのろわれたアイテムに遭遇そうぐうしたとき、彼女メイドはソレを使つかっていない。

 用心ようじんのためにあたらしく用意よういしたものか、もしくは――
 効果こうかつよくなく、強力きょうりょくのろいには効果こうかがないものなのだろう。
 それはぬのしばりつけられた、ブローチのようなもので――
 見方みかたによっては、勲章くんしょうのようにもみえた、

「こねこが――いっぴき、キャッツニューワールド、ヘェイ♪」
 どこか、聞きおぼえのある旋律せんりつ
 いぶしぎんかがやきをはなつ、工房長こうぼうちょうこえが――たからかに。

「――!?」
 メイドは解呪かいじゅのアミュレットを、投げるのを止めた。

「ぅにゃんにゃん爪研《つめと》ぎ、ぅにゃにゃん――っ切りさけぇ~~♪」
 威風堂々いふうどうどうとした爪研つめとぎポーズに、ねこパンチ!
 ガムラン屈指くっし鍛冶方かじかたひきいる小柄こがらおとこが、ワンフレーズをしっかりとうたい上げた。

工房長ノヴァド、そのうたは――!」
 逃げたおにが舞いもどった。
 このうた鍛冶工房近かじこうぼうちかくをとおりがかったことのあるガムラン町民ちょうみんなら、かならず聞いたことがある。

 ましてや毎晩まいばんのように食堂しょくどうで、飲んだくれてる彼女おにには――
「――うまいさけ入荷しはいったら、いっつも聞かされるヤツ!」
 ノヴァド十八番おはこには、聞きなじみがあるのだろう。

「そうだ、イオノファラーさまのうただ♪」
 トトットトトン――ぴたり。
 饅頭まもの呪いの舞いうごきが止まった。
「いまだっ!」
 しのび寄っていた子供レイダが飛びつく。

「まてレイダ! その饅頭まんじゅうは食っちゃいかん!」
「そうですよ、落ちたものくちにしてはいけません!」
「ちがう、そうじゃねぇリオレイニア……いや、落ちたもんたしかに食っちゃいかんぞ? けどちがう――」

 ジタバタと藻掻もが饅頭まんじゅう両手りょうてでつかみ――たからかに持ちあげてみせる子供こども
「やったっ、つかまえた♪」
 ほめて欲しいのだろう――それはまるで〝聖剣ヴォルトを抜いた勇者ゆうしゃ〟がごとく。

 勇者こどもなにかに気づき、持ち上げた聖剣まんじゅうあらためる。
「あれ、この手に持ったかんじ……最近さいきんどっかで――!?」

 椅子いす蹴上けあがり、テーブルのうえ饅頭それはなつ。
 そして、宙に浮いた饅頭を・・・・・・・・両手りょうてでべりべりと――引き剥がした。

   §

「イオノファラーさま。本日ほんじつのお料理りょうりの、お味見あじみをおねがいできますか
 おさな少女しょうじょが、献立表こんだれひょうを手にやってきた。
 ここはしんぎるどギルド会館かいかん最上階ペントハウス
 ガムランちょうおさめる辺境額へんきょうはくコントゥル家の住居じゅうきょである。
 まだ日はたかいが、建物たてものかげが伸びる時分じぶん

「うぅーん。自分じぶんのぉ歓迎会かんげいかいのためのぉー手配てはいおぉー、完璧かんぺきにこなすぅってのぉもぉー随分ずいぶんとぉ-へんかんじぃだぁけぇどぉさぁ――ありがとぉうねぇー、たすかるぅわぁ――じゅるり
 うやうやしく持ち上げられた――御神体イオノファラー

 ガムラン饅頭まんじゅうなら一個分いっこぶん
 日本にほんにおける饅頭まんじゅう概念がいねんからすれば、その全長おおきさふたぶん
 それがクロスの掛けられたテーブルへと、はこばれていく。

 ソコは完璧かんぺきにセッティングされた会食会場かいしょくかいじょう
 たまたま手がいた数名すうめいもよおされる、予行演習テストの稽古《リハーサル》。

 明日あすの、一応いちおう正式せいしき会談かいだんでもある、王族おうぞくまねいた晩餐会ばんさんかい
 その予行演習よこうえんしゅうでもある、〝カヤノヒメさま歓迎会かんげいかい〟ならびに〝オルコトリア残念会ざんねんかい〟。
 その試食しちょくを兼ねた、ややおそめの昼食ちゅうしょくである。

 テーブルセッティングを見て、期待きたいはらをへこませる御神体ごしんたい
「イオノファラーさま?」
 そんな手負ておいいのけもののような状態ありさまの、美の女神イオノファラーこえを掛けた強者つわものは――
 受付嬢うけつけじょう制服せいふくに身をつつんでいた。

 彼女かのじょ最近さいきんガムランちょうへやってきた、アンナ・トルティーヤ。
 央都おうと冒険者ぼうけんしゃギルドで受付嬢うけつけじょうつとめた、やり手らしい。

 つまるところが、黒騎士くろきしエクレアの花嫁よめである。

「なにかしらぁ? いまあたくしさまわぁ、お品書きメニューをチェックするのにぃ、おいそしいのですぅけれどぉん
 女神メガミかお献立表こんだてひょうに、張りついたままだ。

「えーっとその、イオノファラーさまは大変たいへん大食おおぐら……健啖家けんたんかとうかがっておりますけれど――」
 言いよどむ、花嫁アンナ
剣単価けんたんかぁ――
 気のない、返事へんじ

 ヴォヴォヴォヴォォォオォン♪
 いつもの三倍さんばいくらい、複雑ふくざつ機動きどう

「イオノファラー、健啖家けんたんかとは胃腸いちょう丈夫じょうぶで好ききらいをせず、なんでもよく食べる人物じんぶつのことで
 飛んできた眷属ジンライが、補足ほそくする。

「あら、お褒めにあずかり光栄こうえいですわん
 メニューからかおをあげ、かるく一礼いちれいする美の女神イオノファラー
「イオノファラー、けっして褒め言葉ことばでは無いか
 ヴォヴォォン♪
 またどこかへ飛んで行ってしまう、INTTRTインテリジェンス・T01タレット

「それでぇ、なぁにぃー?」
 かおをあげたついでに、はなしをうながす女神めがみ御神体ごしんたい
「はいその、食器しょっきがすこしおおすぎはいたしませんかと思いまして。二人分ふたりぶんずつ御座ございますよ?」
 受付嬢うけつけじょう制服せいふくは、職員しょくいん制服せいふくをアレンジすることがおおい。
 彼女かのじょのそれは『資材管理しざいかんり』と書かれた腕章わんしょうと、襟元えりもとおおきなリボンがちがっていた。

「あー、いいのいいの。わけあって、あたくしさまはいまお二人様だから・・・・・・・
 ペチリとたたいたしたぱら。その魅惑みわくのフォルムは、シガミーが製作せいさくしたものだ。

 ドン、ドサドサ――カチャカチャカチャンッ!
 せわしなく配膳はいぜんされていく料理りょうり

「え゛っ、道理どうりでそのおなかっ――!?」
 両手りょうてくちに添え、高揚こうようする受付嬢しんこんほやほや
 そのひとみうつるのは――料理りょうり余念よねんのない丸茸まるきのこではないだろう。

「あっはははははっはははははっ♪ ちがちがう、おなかは食べ過ぎ! 二人前ににんまえってのは、なんでだったっけ、シガ……カヤノヒメさまぁー?」
 手ずから配膳はいぜんする、木さじ食堂女将しょくどうおかみよこやり。
 話自体はなしじたい興味きょうみはないらしく、スタスタと厨房ちゅうぼうもどっていく。

「くすくすくす、イオノファラーさまには、人捜ひとさがしの術式じゅつしき手伝てつだっていただいていまして、そのために必要ひつよう供物くもつであるとおかんがえくださいませ、くすくす
 おさな少女しょうじょが、金糸きんしかみをなびかせ、やはり厨房ちゅうぼうへ去っていく。

人捜ひとさがし? それはどなたの?」
 めでたいはなしではないと知っても、まだかおあか受付嬢アンナ
 照れかくしのように、はなしつづける。

「そうわねぇー……気は良いけど乱暴らんぼうでがさつで――目をはなすとなにかをつくって売りはじめたりする――金髪きんぱつさらさらでぇ、見た目だけわぁーものすごくぅかぁわぁいぃらぁしぃいぃー――おんなの子かしらねぇーん
 ちいさな丸茸まるきのこは、大扉おおとびらの向こうへ消えていく少女カヤノヒメ背中せなかを見た。
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