滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

３３９：龍脈の回廊、おにぎり追跡本部

「おにぎりもシガミーモ不在ふザいなノで、手間取てマどりマしたが――ギルド屋舎おくシゃノ修復しゅうフくなラびに点検てんケんガ、終了しゅウりょうしマした・」
「暗くらくなる前まえにすんで、助たすかったわねぇん・」
　女神めがみと眷属けんぞくが夕焼ゆうやけの町並まちなみを、見下みおろしている。

　ここはギルド屋舎おくしゃ最上階さいじょうかいの、コントゥル家邸宅けていたく。
　リカルルやコントゥル家関係者けかんけいしゃが、住む場所ばしょだ。
　それなりの数になる護衛ごえいや使用人しようにんは、元もとからガムラン町ちょうにあった邸宅ていたくにも分かれて暮らしている。

　大穴おおあなは、綺麗きれいな曲面きょくめんの壁かべでふさがれ、風雨ふううにさらされる心配しんぱいは無い。
　それでも、散らかった室内しつないを片付かたづけるのに、大勢おうぜいの人員じんいんが働はたらいている。
　その中なかには鳥とりの仮面かめんを付けた、元侍女長リオレイニアの姿すがた；もあった。

「お邪魔じゃまするよっ――シガミーが見つかったって、本当ほんとうなのかいっ!?」
　大おおきく開けたままの玄関げんかんドアから、駆け込んできたのは――恰幅かっぷくの良い女性じょせい。
　そうとう慌あわてていたのか――エプロン姿すがたのまま、巨大きょだいな木さじをたずさえている。

　木さじ食堂しょくどうの愛称あいしょうで親したしまれる、隠かくれた名店めいてんのオーナーシェフ。
　元宮廷もときゅうてい料理人りょうりにんにして、投げ・・木さじと古代魔法ピクトグラムの使つかい手。
　サボる従業員じゅうぎょういんの後頭部こうとうぶめがけ、自在じざいに飛んでいく大おおきな木さじ。
　その追尾能力ついびのうりょくから、逃げられる者ものはいない。

「あら女将おかみさん。あなたも、いらしたのですわね」
　自分じぶんもたった今いま、到着とうちゃくしたばかりの――コントゥル辺境伯へんきょうはく家長女けちょうじょ、リカルル・リ・コントゥル。
　最上階ペントハウスへの階段かいだんルートは全部ぜんぶで三みっつあり、見知みしらぬ者ものは途中とちゅうで護衛ごえいに止められる。
　家主リカルルが小脇こわきに抱かかえていた板いたを、開けたままの玄関げんかんドアに立てかけた。
『おにぎり追跡本部』
　板いたには、そんな文字もじが書かれている。

「ようコそ。コッヘル夫人ふジん。現在げんザい、状況じょうきょウヲ確認中かくにんチゅうデすが、シガミーノ痕跡こンせきヲ察知サっちしタおにぎりが、行動こうドうヲ開始かいシしていまス・」
　女神めがみの眷属けんぞくであるＩＮＴタレットアーティファクト迅雷ジンライが、不規則イレギュラーな機動マニューバで飛来するでむかえる。

　コッヘル夫人ふじんとは女将おかみ、トゥナ・コッヘルの愛称あいしょうだ。
　コッヘル商会しょうかいを営いとなむ家系かけいであり――
　その商会しょうかいには、高位こういの魔術師まじゅつしが多数在籍たすうざいせきしている。
　かの悪名高あくみょうだかき吸血鬼きゅうけつき令嬢れいじょうを改宗かいしゅうさせ――
　数々かずかずの大事業だいじぎょうや救世きゅうせいをおこなったことは――
　あまり知られていない。

「おにぎりの行ゆく先さきに、シガミーが居るんだね？」
　握にぎりしめられた木さじが、みしりと音おとを立てる。

「ソレはまだ、わかりませんけれど、ひとまずお入はいりになって――たまたま居あわせたニゲルが、おにぎりを追跡中ついせきちゅうとの報告ほうこくが入はいった所ところですわ！」
　勝手知かってしったる自分じぶんの家いえ――ズカズカと入はいっていく伯爵令嬢リカルル。
　ゴツン――「ぴゃぎゃ!?・」
　なにかを・・・・踏んで転ころびそうになる、お嬢じょうさまを――

「お嬢じょうさま、お怪我けがは？」
　華麗かれいにお助たすけする――白しろい鳥とり。

　目元めもとを白しろい鳥とりの仮面かめんで隠かくした侍女じじょは、元もとコントゥル家侍女長けじじょちょうにしてお嬢じょうさまの幼おさななじみ。
　ガムラン最強さいきょう冒険者ぼうけんしゃパーティー『聖剣切りの閃光ヴォルトカッター』の元もとメンバーでもあり、生活魔法せいかつまほうと魔法杖まほうつえを華麗かれいに操あやつる、ガムラン町ちょうの財政ざいせいにも精通せいつうする才女さいじょである。
　現在げんざいは新興しんこう冒険者ぼうけんしゃパーティー『シガミー御一行様』ならびに、飲食いんしょくチェーン『猪蟹屋ししがにや』所属しょぞく。

「あっぶなっ――レーニア!?　ココになにか・・・落ちてましたわよ、スグに片付かたづけて！」
　仮面の侍女リオレイニアが、まくれ上がってしまったお嬢じょうさまのドレスを、そつなく直なおしてから――
　玄関先げんかんさきに散らばる、小物入こものいれや本ほんを片付かたづけ始はじめる。

「ニゲルひとりで、大丈夫だいじょうぶかねぇ――おや女神イオノファラーさま」
　広間ひろまへ通とおされたコッヘル夫人ふじんが、テーブルの上うえをうごくものに近寄ちかよる。

「おかみさん、ごめんなさい。おにぎりも借りっ放ぱなしなのに、ニゲルまで追っかけて行っちゃったら――仕出しだしとか仕込しこみとか、大変たいへんでしょ？・」
　大おおきな頭あたまをテーブルに付ければ――ごろぉりん♪
　とうぜん前転ぜんてんする。

「え、ウチの食道しょくどうかい？　あははっ、ぜんぜん平気へいきだぁね♪」
　根菜こんさいの皮かわむきをするときのような、手慣てなれた手つきで拾ひろいあげる。

「なら良かったわぁ。迅雷ジンライ、おにぎりからのぉ応答おうとうわぁ？・」
「まダ、ありマせん。ニゲルと連絡れんらクヲ取れレば、状況じょうキょうモわかるのですが・」

「女将おかみさんさぁ、ちょっと聞くけどさぁ？　急いそぎのときってさ、この世界せかいの人ひとたちわぁ、どうしてるのぉさ？」
　艶つややかな顔かおのまえまで、持ちあげられた根菜メガミが尋たずねた。

「そりゃ、人ひとを走はしらせるさね。変異種バリアントが出て、その討伐隊とうばつたいを募つのるときなんかには、冒険者ぼうけんしゃカードの〝緊急きんきゅうのお知らせ〟も使つかったりするけどね」

「あー、緊急時きんきゅうじ連絡網れんらくもうねー。あとはぁ、御姫おひめちゃん……リカルルちゃんの通信機つうしんきくらいかぁ……ちょっとまってぇ、つ・う・し・んー・きぃー？　なぁーんかひっかかるわねぇん？・」
　あたまを抱かかえ、身もだえる根菜こんさいを――不気味ぶきみに感かんじたのか、女将おかみがそっとテーブルに根菜メガミを放したリリース。

「イオノファラー。ニゲルのスマホノ複製ふくせイハ、お持ちですヨね？・」
「あー、どうしたっけ？　パーツ取りするのにコピーさせてもらったぁついでにぃー、割れた画面がめんを直なおして返かえしてあげたんじゃなかったっけ――？・」

　通常つうじょうの運動うんどうエネルギー兵器へいきでは破壊はかいできないとされる（例外れいがいあり）、疑似ぎじアーティファクト。
　その御神体ごしんたいの体からだを包つつむローブのような服ふくは、一体成形いったいせいけいされており可動部分かどうぶぶんは一切無いっさいない。
　ローブの腰こしのあたりをゴソゴソとまさぐり（手足てあしにも可動部分かどうぶぶんはない）、隠かくしポケットから取りだされたのは――

　根菜こんさいの身長しんちょうよりも、すこし大おおきな――
　神々かみがみや眷属けんぞくが用もちいる、いつもの黒板くろいたよりは厚あつみがある――真っ青さおな板いた。
　その縁ふちを、ちいさな手で押す――ヴォゥンパッ♪
　起動音きどうおんと共ともに、スタート画面がめんが表示ひょうじされる。

　青板あおいたに飛び乗った根菜めがみが、数字すうじのゼロの上うえで――
　四回よんかい飛び跳ねると――ヒュパ♪
「でたわよっ、ホーム画面がめん！・」

「設定せっテいかラＷＩＦＩワイファイヲえらび、スマホ間かンノＷＩＦＩワイファイダイレクト通信つウしんのピアデバイス欄ラんかラ――女神像めがミぞう通信網ネットワークヲ選択せンたくしてくダさい・」

「えぇー、そんなのあったっけぇー…………あった！　けど押せないよぉ？・」
　細こまやかな操作そうさをするため、迅雷ジンライの細腕ほそうでに抱かかえられる御神体メガミ。
　指示しじされた項目こうもくはグレーアウトしており、押せなかった。

「緊急きんきゅうです、ＳＰしんりょくを使用しようしてください・」
「はぁーい、神力課金しんりょくかきんっとぉ――わっ!?　６８ＭＳＰメガミスキルポイントも取られたっ！・」

　ぽーふぉん♪
　波打なみうつ四角しかくい枠わくの形かたちが、上隅うえすみに表示ひょうじされ――

「こレで、スマホ間接続かンせつぞくにヨる通話つウわが可能かノうになりまシた・」
　ゴトン――テーブルに落ち、横たわる迅雷ジンライ。
　神力課金ＭＳＰのしようには、神力でんりょくも使つかわれるのかも知れない。

「ほぉんとぉーぅ？　けどさこれさぁ、うぷぷっ♪　近年きんねんまれにぃ見るほどおぉー、面白おもしろぉい状況じょうきょうじゃぁなぁぁいぃ――ウケケケケケウケケッ♪」

「まえにシガミーがこぼしてたけど……本当ほんとうに、神かみさまたちのやってることは、さっぱり訳わけがわからないねぇー」
　首くびを振るコッヘル夫人ふじんの、ボバボーンとした豊満ほうまんで潤沢じゅんたくな体つき・・・が、プルリと揺れた。