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3:ダンジョンクローラーになろう

321:惑星ヒース神(シガミー)、化け猫ジュークボックス

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「まったく、シガミーがあんな調子ちょうしなのに……今度こんどなにはじめたんだい?」
 仁王立におうだちのコッヘル夫人ふじん
 通称木つうしょうきさじ食堂しょくどうの、女将おかみである。
 いつもの前掛まえかけはなく、落ちついたよそおい。
 こしに下げた大量たいりょうの、収納魔法具しゅうのうまほうぐ
 そのかずを見るなら、食材しょくざいの買い付けのかえりなのかも知れない。

「待ってたのよぉう、女将おかみさぁん♪ ソレなぁんだけぇどぉさぁ
 いつもと変わらぬ、丸茸まるきのこのような姿すがたかたち形。
 美を体現たいげんはしないが、れっきとした美の女神めがみである。
 本来ほんらい姿すがたうつし身は、女神像めがみぞう瓜二うりふたつではあるのだが。

「コッヘル夫人ふジん、こンにちわ。昨日さくジつはナしシたモの完成かンせいしタので、取り付ケさせていタだいてオりま
 女神めがみ眷属けんぞくである空飛ぶ棒アーティファクトが、木さじ食堂しょくどう一角いっかく陣取じんどっている。
 細腕ほそうでを伸ばし焼窯やきがま暖炉だんろのようなものを、かべに取り付けているようだ。

「あら女将おかみさぁん、お邪魔じゃまさせてぇいただぁいてぇまぁすぅわぁあぁ。ご機嫌きげんわぁいかがぁ?」
 辺境最大へんきょうさいだい伯爵領はくしゃくりょう名代みょうだい
 巨大きょだい魔法杖まほうつえたずさえている以外いがいは――
 まるで町娘まちむすめにしか見えない、外見がいけんかつ軽装けいそう
 そばに護衛ごえいや、お付きのもの姿すがたは見えない。

「あのう、リカルルおじょうさまは、コチラにいらしていませんかぁー?」
 仕立したての良い給仕服きゅうじふく利発りはつそうな顔立かおだち。
 開いたドアから店内を、のぞき込んでいる。
「リカルルちゃぁん、おはなしがぁ有るのらぁーん?」
 仕立したてての良いドレス、眼鏡めがねかおに張りつけている。
 こしのベルトには、子馬こうまのような人形にんぎょう五匹ごひきほど、ぶら下げられていた。

「なんだいなんだい、アンタたち。ルリーロさまだけじゃなくて、王女おうじょさままでいらしてるってのに、おちゃのひとつもお出ししないで! ――ニゲルッ!」
 大柄おおがら女将おかみが、ツカツカと店内てんない横切よこぎる。
 収納魔法具しゅうのうまほうぐ炊事台すいじだいほうり出し、かべに掛かっていた前掛まえかけを手に取った。

「はぁーい、なんですかー?」
 とみせ裏手うらてからかおを出した、たよりなさそうな青年せいねんに向かって――
人数分にんずうぶん、おちゃをお出ししなっ! 茶葉ちゃばはソッそう一番良いちばんいいのを使つかうんだよっ!」

「えぇー、ぼくもう仕込しこみが終わったから、饅頭屋まんじゅうやのほうに行かなきゃなんないんだけどぉー?」
 カッ――いつもの前掛まえかけをした、女将おかみ眼光がんこうはするどく。
 にらみつけられた青年せいねんは、飛んできた木さじをうしろあたまで受けながら――
 良い茶葉ちゃばで、おちゃを入れはじめた。

「どうぞ、ソッちゃですが」
 カウンターにならべられた、人数分にんずうぶんののカップ。

「あ、ありがとうございますら――――」
 我先われさきにと湯気ゆげの立つカップに、飛びつく第一王女だいいちおうじょ
 彼女かのじょがかおを上げたときには――

 青年せいねん姿すがた厨房ちゅうぼうにはなく、しろいエプロンだけが――ぱさりとのこされた。

「それぇじゃぁぁー、おつぅかぁれぇーさぁまぁでぇしぃたぁぁぁー!」
 覇気はきのないなさけないこえが、店内てんない木霊こだまする。

「ぴゃっ、ぴゃららぁあぁん!」
 涙目なみだめのラプトル王女殿下おうじょでんか

「ファ、ファイトですよっ! 王女おうじょさまっ!」
 はげましのメイド。
「ぐすん……ありがとう、タター」
 はげまされの第一王女ゴーレムつかい
 彼女かのじょがぶら下げているのは、一般的いっぱんてききらわれているゴーレムで。
 店員てんいん青年かれは、ことさらひどくソレを、忌みきらっているのだ。

「ふぅ、まったく逃げあしだけは、ガムランいちなんだからまったくっ!」
 かみをくくり、火掻ひかぼうを手にする女将おかみ

「あのーぅ、女将おかみさぁーん。それでぇー、この機械きかいなんだけどさぁー
「いいよいいよ、なんだか知らないけど勝手かってに置いとっとくれ。使つかかたはあとでニゲルにでも聞くからさ」
 火掻ひかぼうまき器用きように、かまどほうり込んでいく。
 「ひのたま」――ぼごぉうわ♪

「デは、そのヨうにいたしましょう、イオノファラ
「そーねぇん。それじゃ、場所ばしょおぉーお借ぁりぃしますねぇー
 空飛そらとぼうがちいさなぼうを、設置せっちしたばかりの焼窯やきがまのような機械ものに、差し込む。

 ガッチャリッ――――ピピピチィー♪
 とりさえずり――ガッシャン!
 焼窯やきがまからたいらなねこかおが――

 がちゃがちゃがちゃ!
 まるあたま左右さゆうに着いたちいさなねこの手が――

 がっしゃん――ピロロロロッ♪
 最後さいごねこみみが、飛びだした。

「まるで……信楽焼しがらきやきたぬきみたいねぇ――
 取り付けが完了かんりょうした、ねこのような置物おきもの

「シガラキヤキのタヌキってぇ、なんですかぁ? イオノファラーさま?」
 タターと呼ばれた、給仕服メイドがたずねる。
「えっとねー、みみがまぁるくてぇ目のまわりがくろどう……種族しゅぞく真似まねつくった……ええとぉ

「ギルド一階いっかイ設置せっチシた自動発券じどうはっケん魔法具まほうぐのヨうなモのとオかんガくダ

「コォン!? 甲賀こうがの焼きものって言うのわぁなんだかぁ、わぁかぁらぁなぁいぃけぇどぉ――――化け狸むじなぁてぇ言わはれましたらぁ、なにやらぁ――いけすかん気ぃもぉーしてきますなぁ――ケッタケタケタケタケタケタタァァッ!?」
 ヴヴォン――♪
 巨大きょだい魔法杖まほうつえが、うなりをあげた。

「待って待ってぇん! いまのわぁー、言葉ことばあやですぅーっ! たぬきもぉーむじなぁもぉー、ココにわぁ居ませぇん! これはネコチャン! \ネコチャーン♪/」
 つきひかり双眸そうぼうにたたえ、きばをむき出しにする――伯爵夫人ルリーロ
 必死ひっしになだめる、美の女神イオノファラー御神体ごしんたい

 にゃみゃぁぁぁぁごぉ♪
 店内てんないとどろく、年老としおいたねこのようなダミごえ
 ネコチャンなる道具・・・・・・・・・は、その準備じゅんびを終えたようだ。

「ネコチャーン!? かわいいっ!」
 ごどん――――正気しょうきもどった妖狐ばけぎつねが、魔法杖つえかべに立てかける。

「ふぅー、あっぶねぇー! そういえばさ……ひそひそ……この世界せかいにわさ、猫っているの・・・・・・? えっと、こんなやつ
 給仕きゅうじ少女しょうじょに、黒板くろいたをみせる御神体ごしんたい

「あら、かわいらしいですねぇー♡ 居ますよぉう、かずはものすごくすくなくて、聖獣せいじゅうとか神獣しんじゅうとか呼ばれてます」
 黒板くろいた釘付くぎづけの、少女しょうじょタター。

「そりゃぁ、居るか。一度いちどぉー、見てみたいわねぇーん
 黒板くろいたを取りかえす御神体めがみ
 うつし出されているのは、灰色はいいろベースの黒縞模様くろしまもよう
 ぞくに言うサバトラ柄・・・・・ねこだ。そのくびには、あお首輪くびわが巻かれている。

   §

「おかねを入れて……カッシャン♪ ここのいろあかくなったら、このボタンを押せば良いのですらぁん?」
「そぅわよ、簡単かんたんでしょ
 ねこ置物おきもののような機械きかい
 そのうえに乗せられた御神体イオノファラーは、プレイヤーであるラプトル王女おうじょ操作方法うごかしかた指図しおしえている。

緑色みどりいろのままですらぁん?」
 ねこ置物おきものかお黒板くろいたのようにうつし出された画面がめん
「そしてケットーシィが、ずーっとはしっていますらん――よこに」

「ソのとキハ、しバらく待つ――」
 ヴォォン――♪

 ふぉふぉふぉん♪
『PLAYING――――01/こねこのラプソディ』

「ヴォーンォ♪ ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォッ――――――――!!!」
 食堂しょくどう突如鳴とつじょなひびく、魔物まもの咆哮ほうこう

「ヴォヴォーゥン♪ こねこがいっぴき、キャッツ、ニュー、ワールドぉ、ヘェイ♪」
「「「「イオノファラーさまのこえ!?」」」」

「こりゃぁ、やかましくて食堂ウチには……置けないねぇー!」
 とこえを張り上げる女将おかみ
「えぇー? ひとがぁーたくさぁん居てぇーくれるからぁ、食堂ココならうってつけなのよぉねぇぇーん!?
 落胆らくたん女神めがみ

 だがこの美の女神めがみの、どこか調子外ちょうしはずれな歌声こえは――――小柄こがら屈強くっきょうおとこたちを呼びよせた・・・・・

「「「「「「「「「――ぅにゃんにゃん爪研《つめと》ぎ、ぅにゃにゃん――――っ切りさけぇ~~♪」」」」」」」」
 ドカドカとなだれ込む、鍛冶工房かじこうぼう総員そういん

「なんだいアンタたち、まだみせは開けてないよ!?」
「ガハハハハハッ、そういうな女将おかみよぅ――――おれたちは、またこのうたが聴けてうれしいんだぜっ♪」
 ドカリとテーブルに着く、鍛冶工房かじこうぼう総員そういん

「「「「「「「工房長こうぼうちょう――ここは、シガミーの透明とうめいさけと、オスーシ・・・・をひとつ♪」」」」」」」
「そぅだな、女将おかみシガミーの酒・・・・・・と、オスーシをじゃんじゃん持ってきてくれっ♪」

「イオノファラーさま……このうるさい置物おきもの――――なかなか良いじゃぁないかぃ♪」
 難色なんしょくしめしていた食堂店主おかみさん意見いけんが、180度かわった。
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