滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

２７５：ダンジョンクローラー（シガミー御一行様）、史上最美味クッキング

「したごしらえは、終わりましたかしらぁー？」
　パタパタパタ、鼻緒はなおのねぇ草履ぞうり。

「おう、この山やまで最後さいごだぜ」
　石突いしづきを切った白しろっぽい茸きのこを、半分はんぶんにして鉄鉢てつばちへ入れた。

「こうしてると、シガミーが初はじめて食堂しょくどうに来たときを思おもい出すよ」
　皮かわを剥いた芋いもを、かるく放ほうって鉄籠てつかごに投げ入れる。

「あらん？　お二人ふたりとも見事みごとな手際てぎわですわね♪」
　しゃらあしゃらした格好かっこうに、リオレイニアのと同おなじ前掛まえかけ。

　青年ニゲルの手つきは、堂どうに入ったものだったが――
　姫ひめさんが身を屈かがめて、手元てもとをのぞき込んだ途端とたん。

　グサリッ――――「痛いてっ!?」
「うっぎゃっ!?　何なにしてるのっ、ニゲルってばっ！　シガミー、傷薬きずぐすりは有る？」
　パタパタパタ。
「おうよ！　おれぁ、薬草師やくそうしだからな！」
　蘇生薬エリクサーに回復薬ポーションに、多種多様たしゅたような治療系新薬ちりょうけいしんやく。
　久々ひさびさの本職・・としての、ご用命ようめいだ。
　ひっくり返かえした鉄籠てつかごの上うえに、ごっちゃりと並ならべてやった。

「あーもぉー、レーニアー？」
　おれとレイダが三人さんにんずつ入はいりそうな特大とくだいの鉄鍋てつなべを、ゴロンゴロンと転ころがしてた給仕服レーニアが――こちらを向いた。

　鉄鍋てつなべをエクレアに任まかせて、駆けよる白仮面の女リオレーニア。

「……何なにをしているのですか？」
　自分じぶんの腰こしのベルトからポーションを出そうとして、指ゆびから血を垂らしている青年せいねん。
　事態じたいをちゃんと把握はあくした、元もとヴォルトカッター兼給仕長けんきゅうじちょうは――
　おれが並ならべた中なかから、ふたつの小瓶こびんを手に取った。

「シガミー、この回復薬ポーション（小しょう）と栄養薬えいようやく（黄色きいろ）を頂いただいてもよろしいですか？」
「勿論もちろんだぜ♪」
　やや心配しんぱいな様子ようすの姫さんリカルルを、尻しりで退どかした給仕服リオが――
「どうぞ飲んでください。それと、お疲つかれのようですのでコチラも」
　顎あごをつかまれ、流ながし込まれる。

「むぐ――ごくん。甘苦あまにがっ――!?」
　シュワワ――指ゆびの血が、光ひかりの霧きりになって消える。
「さ、これでもう安心あんしんです――お嬢じょうさま、お下がりください♪」
　さいごにペチリとニゲルの額ひたいをひっぱたく――家事並かじならびに生活魔法せいかつまほうの達人たつじん。

「痛いった!?　リオレイニアさん、今いまのなんだい？　必要ひつようないでしょ！」
　下したに落ちた血は当然とうぜんそのままなので、リオが雑巾ぞうきんで拭ぬぐった。
「気付きつけがわりです。なんでしたらもう一回いっかい、して差しあげましょうか？」
　持ちあげた平手ひらてで、追い払はらわれる青年せいねん。

　ニゲルに、かける言葉ことばもねぇ。
　おい、こりゃ無理むりじゃねぇーのか？
　あの城壁リオレイニアを乗りこえて、ニゲルが姫ひめさんにたどり着くのは――至難しなんの業わざだろ。

　ふぉん♪
『イオノ＞前途多難にも程が、まさに岩壁ね』
　ふぉん♪
『＞トッカータ大陸における恋愛観や結婚観の、
　　さらなる調査が必要かも知れません』

「お姫ひめちゃぁん！　陣頭指揮じんとうしきを近ちかくで見たいから、肩かたに乗・せ・てぇー♡」
　テーブルの上うえの肉にくの様子ようすを見てた、御神体いおのはらがリカルルを呼びつけた。

　　　§

　あとは料理りょうりするだけになった、茸きのこや野菜やさいの山やま。
　それは、木さじ食堂しょくどうの１日分にちぶんの仕込しこみみくらいに積みあがっている。

　そういや〝おにぎり〟の野郎やろうは、女将おかみさんの迷惑めいわくになってねぇだろな。
　ふぉん♪
『＞ガムラン町から出かける前、
　　口頭による品質評価をいたしましたが、
　　八歳児程度の受け答えが出来ていました』

「（八歳児はっさいじか――なら大丈夫だいじょうぶだと……良いな）」
　今いまから作つくるうまいらしい飯めしを、女将おかみさんの分ぶんも持って帰かえってやろう。

　さて、大机おおづくえ六むっつ分ぶんにもなった食材しょくざいの山やま。
　かまどが五いつつに、鍛冶工房かじこうぼうにあるような大竈おおかまどがひとつ。

「イオノファラーさま、ほんとうに私わたくしが取り仕切しきってよろしいんですの？　こんなおとぎ話ばなし……にすら出て来ない・・・・・……貴重きちょうな食材しょくざいですのに？」
「いーのいーの♪　あたくしさまも天狗てんぐも、お姫ひめちゃんのお料理りょうりにわぁー、一目置いちもくおいてるのよょぉん♪」

　ココは〝かりゅうのねどこ〟地下三階ちかさんかい。
　仮かりの根城ねじろにしちゃ、かなり立派りっぱな部屋へや。
　広ひろいし明あかるいし、土間どまも走はしり回まわれるくらいあるから、こうして全員で・・・飯めしの支度したくも出来できる。

「そうですねー、とても良い花嫁修業はなよめしゅぎょうになると思おもいますよ――お嬢じょうさま？　うふふ？」
　白しろい仮面かめんが黒板レシピを眺ながめ、冷ややかな声こえを発はっした。
　お嬢じょうさまの口元くちもとが、かすかに引きつる。
　料理りょうりや家事かじの一切合切いっさいがっさいを、叩き込んだ者・・・・・・としての矜持きょうじか、それ以上いじょうの口出くちだしはなかった。

「は、はははははははははははぁーなぁーよぉめぇー!?」
　どうにもリオレイニアとニゲルは、ウマが合わない。
「ニゲル、〝は〟が多おおいよ？」
　天狗ワシと鬼娘オルコトリアみたいな関係かんけいなのかもなー。

　ちなみにひとりで洞窟ダンジョンを抜け出したのがバレて、リオレイニアにえらく怒られた。
　折檻せっかんこそされなかったが超怖ちょうこわくて――死を覚悟かくごしたほどだ。

　そして、２号店ごうてんを任まかされていたニゲル店長てんちょうも、おなじく怒おこられた。
　小ちいせぇ魔法杖まほうつえで、チクチクと突き刺されてなー。

　店番みせばんを代わってくれたらしい、ルコルとニャミカにも――今いまから作つくる飯めしを持って帰かえって食わせてやろう。
　もちろん本店ほんてんの、猫頭青年ネコアタマにもだ。

「よぉっし！　気合きあいを入れて、うまい飯めしを作つくらねぇとなっ♪」
　立ちあがると――

「にゃみゃが、にゃがにゃ？」
　私わたしは何なにをすれば、イーの？
　と猫レイダが寄ってきた。
　ココは冷つめてぇ魔法まほうが効いてるから、とても快適かいてきだけど。

　それでも――Ａ級冒険者きゅうぼうけんしゃが決死けっしの覚悟かくごで挑いどむ、難関なんかんクエストの最中さいちゅうだ。
　しかも――未知みちの魔物まものミノタウロースが出没しゅつぼつした、危険きけんなダンジョンの最奥さいおくの奥おく。
　これ以上いじょう、新あたしい魔物まものは出ねぇが、隠れてたやつ・・・・・・が出てこないわけじゃねぇらしくて。

「その猫手ねこてじゃ、芋いもひとつうまくつかめねぇんじゃ？」
　〝極所作業用きょくしょさぎょうよう汎用強化服はんようきょうかふくシシガニャン〟。
　コレさえ着ていてくれたら、レイダは何なにがあっても無事ぶじだ。
「（迅雷ジンライ、コッチは飯作めしづくりに本腰ほんごしを入れるから、レイダのことを頼たのむぞ）」

「――はイ。お任まかせ下くダサい。ですが一応いちおウオ伝つタえしておきまスと、私たタしが付いテいれば生身以上なまみイじょうのマニピュレートが可能かノう……器用きヨうさヲ発揮はッきできマす・――」

「にゃがにゃが、にゃやーん♪」
　ううん。なんか迅雷ジンライがうまく持たせてくれる・・・・・・・らしいから、何なんでも出来できる――にゃぁぁご♪

　飯めしの支度したくでうるせえ中なかでも、耳栓越みみせんごしの声こえならちゃんと聞き取れる。
　けどなんか――「ウケウケウケケケケッ――ぐひひひへへへっ♪」
　美の女神いおのはらのいつもの奇声きせいとか、最近覚さいきんおぼえた下卑げびた笑わらいとか。
　しまいには――

「〽大おおきな角持つのもつミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」
　炎の魔術師フォカチャが――とつぜん歌うたを口くちずさんだりしてな。
　うるせえったらねぇ。

「〽谷たにから轟とどろくその咆哮こえはー、あなたの心こころを震ふるわせるーぅ♪」
　どっぽどっぱと巨大鍋きょだいなべに注そそぎこまれる――おれの澄み酒ざけ！
　酒瓶さかびんを逆さかさにする料理番リカルル――どぽぽぽぱ！
　もったいねぇ――！

「〽三歩さんぽ、八歩はちほ、十歩じゅっぽごと、地が揺れ空割そらわり追ってくるーぅ♪」
　薬味やくみと、香かおりがする葉っぱを入れていく――フッカ。

「よし、コッチも始はじめるか！」
　ミノタウの肉にくを切って塩しおを振り、油あぶらで炒いためる。
「〽角つのは突き刺さる、角つのは突き刺さるーぅ♪」
　なんて口くちずさみながら、甲冑かっちゅうを脱いで身軽みがるになったエクレアが、饂飩粉うどんこをまぶしてくれる。

「〽走はしって、走はしって、できるだけ速はーやくーぅ♪」
　牛うしの乳ちちで作つくった……固かたまった油豆腐あぶらどうふとか言うのを入れて。
「〽でないと、ミノタウロースに突かれますーぅ♪」
　姫ひめさんがうたいながら、炒いため終わった手鍋てなべの肉のくを巨大鍋きょだいなべに入れろという――手振てぶり。
　だから、このミノタウの歌うたは何なんなんだぜ？

「〽隠かくれて、隠かくれて、音おとを立てないでーぇ♪」
　弱火よわびでじっくり。
「〽折れない角つのは鋭するどく、その目はアナタを見逃みのがさなーぃ♪」

　今度こんどは、下したごしらえした具材ぐざいを、手鍋てなべで炒いためていく。
　焼やきき色いろが付いたら、みずのたま――からの赤あかく熟じゅくした野菜やさいの実を――

「〽みんな灰色はいいろの角つのに、きをつけてーぇ♪」
　ぐちゃ、びちゃ、べちょっ！
　潰つぶして手鍋てなべに入れる。

「〽森もりの木陰こかげ、谷たにの底そこ、お城しろの中庭なかにわ、湖みずうみの底そこーぉ♪」
　ぐちゃ、びちゃ、べちょっ！
　もうひとつ、入れる。

「〽ギルドの鉄塔てっとう、魔城まじょうの頂いただきーぃ♪」
　ぐちゃ、びちゃ、べちょっ！
　まだ足りねぇのか？

「〽ドコまでも届とどくぞ追ってくるぞ、灰色はいいろの角つのが追ってくるーぅ」
　肩かたに五百乃大角いおのはらを乗せた料理番リカルルが、訝いぶかしむような目で辺あたりをうかがっている。
　なんだ？

「〽大おおきな角持つのもつミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」
　今は黒くないエクレアが、背中せなかから取り出したのは、見たことがある大おおきな木さじ。
　それ、女将おかみさんのだろ？
　借りてきたのか？

「「〽大おおきな角持つのもつミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」」
　気配けはいを感かんじて振りむいたら、やっぱり木さじを構かまえた給仕服リオレイニアが。

「「「〽大おおきな角持つのもつミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」」」
　魔術師フッカも魔法杖つえを木さじに、持ちかえた。

「「「「〽大おおきな角持つのもつミノタウロースにー、あーぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」」」――みゃぁ♪」
　最後さいごに猫の魔物シシガニャンすがたのレイダまでが、木さじを天高てんたかく振りあげた。

　大鍋おおなべを取りかこむ、みんな。
　突き込まれた、四本よんほんの木さじ。

　グルグルグルグルと、鍋なべの周まわりを回まわり出した。
　どーなってる？
　ついて行けねぇ。

　ガムラン町ちょうか冒険者ぼうけんしゃの風習ふうしゅうなんだろう。
　ニゲルも口くちをパカリと開けて、途方とほうに暮れてた。
　それでも、姫ひめさんが振る剣けんに合わせて――「〽ミノタウロースに……♪」
　歌うたい出したときには、本当ほんとうに掛け値無ねなしに――惚れ込んでる・・・・・・のがわかった。

　そんなわけで料理りょうりの仕上しあげは、兎に角かくやかましくてなぁ――――「ぁぁーぁーぁあー気をつけてぇえぇー♪」

　ふぉん♪
『イオノ＞気をつけてー♪』
　ふぉん♪
『＞気をつけてー♪』

　ギョロリッ――――!?
　火龍かりゅうの間まから、巨大きょだいな眼がコッチを見ていたけど。
　さすがに歌うたに混ざっては、来なかった。