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1:輪廻転生、おいでませガムラン町
100:烏天狗(シガミー)、たまご運搬クエスト開始
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「作りおきのプディングを、ぜ・ん・ぶ食べちゃうなんて――――ルコラコルラコントゥル! 今日という今日は、ゆるぅしぃまぁせぇん~かぁらぁねぇぇぇぇっ!」
ルコラ少年の迫真の演技が、渓谷に木霊する。
ルコルは城塞都市で、〝かぁふぇ〟という茶店を営んでいるらしい。
まだ子供なのに大したヤツだと思ったけど、コッチも猪蟹屋をやってるし――大したことではないのかもしれない。
音もなく街道をはしる――椅子。
まるで馬のように駆ける姿は、不気味だけど――――馬より早かった。
これなら、ふたりの用事を済ませても、朝までにガムラン町にもどれそうだ。
「店の品物を食べちゃった、ルコルがわるいよね?」
「いかにもコォォン♪」
ぼく――烏天狗を肩車した狐耳少年が、なぜか得意げだ。
釣り合いがわるいはずの椅子は、倒れもせずに進んでいく。
給仕係の女の子に怒られる――店主。
レイダの顔が思い浮かんだ。
「どこも、店の内情はおんなじだなぁ」
「なんかいったコォン?」
「なんでもない、なんでもない。たまごが取れる場所は、渓谷の外れにあるのかい?」
「そだよ。このまま進むと、沼地との境に小さな森がある。そこに卵がよく取れるとうわさの巣があるコォン」
ばさり――取り出されたのは、巻いた紙。
ぶわっさっ――――あああっ!
風に飛ばされうしろに飛んでいく、広げられた紙。
ヴッ――――じゃりぃん♪
ぱさり。
とっさに出した錫杖で、飛んだ紙をからめとる。
「はい」
「あ、ありがとう――カラテェ。あぶないところだったコォン♪」
コッチを見上げようとする狐耳。
「あわあわ、落ちる落ちる。前を向いてて、前を――」
長手甲も高下駄もない今の烏天狗姿じゃ、投げ出されたらケガくらいしそうだ。
「ごめんごめん。こんどは飛ばされないように――そぉっとコォン」
広げられた紙を、灯りの魔法が照らす。
紙にはモコモコした何かが描かれていて、そのウチの何カ所かに、印がつけられている。
「大卵が取れるのは、この三カ所だコォン」
「この地図は、確かなのかい?」
「1パケタもした情報コォン。まちがいないコォン♪」
「値段は関係ないとおもうけど――少なくともさっきの一個は取れたってことだね」
「そう、大事なのはソコだコォン♪」
スタァン――――不意に椅子がとびあがる!
はしる椅子は、縦に揺れることなく、地をすべるように移動できる。
「うわっとととっ!?」
はずむ狐耳――投げ出される烏天狗。
「あっぶねぇ――――!?」
馬車の轍の深くなった所が、一瞬足下に見えた。
カッシャン――――スポン!
出しっぱなしだった、錫杖の先。
鉄輪を椅子の背もたれに、引っかけた。
「だっ、だいじょうぶコォン!?」
「だいじょうぶだよ、このまま進んでいーよ」
魔法の杖のあまりの速度で、はためく旗のようにぶら下がる烏天狗。
顔が空を向いてるから、夜雲が晴れてほしが瞬いているのが見えた。
星を見上げるたびに、ついつい形を確認してしまう。
この星の形は、日の本では見たことがないものだ。
「クケェェェェェェ――――ッ」
渓谷の上空を、首が二本ある大鷲が、飛んでる。
あれは、ぼくたちをつかんでいたのとは別のヤツだ。
「(どう迅雷? 金剛力をはやくなおす目処は、付きそうかい?)」
「(いいえ、SDKの複製はやはり不可能な――)」
「む、暗殺者の気配コォン!? くおりゃぁー」
ぶら下がったまま狐耳をふりむくと、またもや手刀が炸裂していた。
「(確実に私の念話に反応しています)」
姫さんとおなじだ。
狐耳がピクピク動いているから、度を超えて耳が良いのかもしれない。
「(貴族は暗殺対象になりやすいので、アーティファクトの特殊な作用に対する、何らかの防衛術を収得している可能性があります)」
けれど〝先制攻撃〟で繰り出された手刀では、遠くてぼくに届かない。
「くぉりゃぁー」
なにもない背後をしきりに手刀する、お貴族さま。
ひかり輝いたときの威力は、とんでもなかったけど――当たらなければ効果を発揮しない種類のスキルらしい。
「(狐耳の種族のまえでは、迅雷からの念話は止めよう。かわいそうだし)」
「――はイ、シガみー。耳栓経由に切りかエました。8秒後に渓谷を抜けマす――」
「(じゃ、そろそろ始めようか。金剛力じゃないふつうの手甲と下駄は、出せるかい?)」
「――はイ、可能でス。あ――」
がらん、ごろろろっ――――
金剛力でもある迅雷の機械腕は、品切れ中だ。
魔法の杖ですっ飛んでるさなかに物を出せば、とうぜんその場に取りのこされる。
「(しかたないなぁ――)」
迅雷は、神々の知恵をもつ凄い棒だけど――ときどき間の抜けたことをする。
すぽん――――錫杖をねじって、背もたれに引っかかった鉄輪をはずす。
ずざざざぁぁぁぁ――――痛ってぇぇっ――――ごろごろごろろろぉぉぉぉっ!
そうだった、金剛力がないぼくは――LVがあるだけの子供だった。
底上げされる体力には、限界がある。ケガはしなかったけど。
「――注意力が足りませンね、シガミー。気をつケてください――」
うにゅぬぅ――金剛力にたよりきったままだと、命にかかわる。
ルコラ少年の迫真の演技が、渓谷に木霊する。
ルコルは城塞都市で、〝かぁふぇ〟という茶店を営んでいるらしい。
まだ子供なのに大したヤツだと思ったけど、コッチも猪蟹屋をやってるし――大したことではないのかもしれない。
音もなく街道をはしる――椅子。
まるで馬のように駆ける姿は、不気味だけど――――馬より早かった。
これなら、ふたりの用事を済ませても、朝までにガムラン町にもどれそうだ。
「店の品物を食べちゃった、ルコルがわるいよね?」
「いかにもコォォン♪」
ぼく――烏天狗を肩車した狐耳少年が、なぜか得意げだ。
釣り合いがわるいはずの椅子は、倒れもせずに進んでいく。
給仕係の女の子に怒られる――店主。
レイダの顔が思い浮かんだ。
「どこも、店の内情はおんなじだなぁ」
「なんかいったコォン?」
「なんでもない、なんでもない。たまごが取れる場所は、渓谷の外れにあるのかい?」
「そだよ。このまま進むと、沼地との境に小さな森がある。そこに卵がよく取れるとうわさの巣があるコォン」
ばさり――取り出されたのは、巻いた紙。
ぶわっさっ――――あああっ!
風に飛ばされうしろに飛んでいく、広げられた紙。
ヴッ――――じゃりぃん♪
ぱさり。
とっさに出した錫杖で、飛んだ紙をからめとる。
「はい」
「あ、ありがとう――カラテェ。あぶないところだったコォン♪」
コッチを見上げようとする狐耳。
「あわあわ、落ちる落ちる。前を向いてて、前を――」
長手甲も高下駄もない今の烏天狗姿じゃ、投げ出されたらケガくらいしそうだ。
「ごめんごめん。こんどは飛ばされないように――そぉっとコォン」
広げられた紙を、灯りの魔法が照らす。
紙にはモコモコした何かが描かれていて、そのウチの何カ所かに、印がつけられている。
「大卵が取れるのは、この三カ所だコォン」
「この地図は、確かなのかい?」
「1パケタもした情報コォン。まちがいないコォン♪」
「値段は関係ないとおもうけど――少なくともさっきの一個は取れたってことだね」
「そう、大事なのはソコだコォン♪」
スタァン――――不意に椅子がとびあがる!
はしる椅子は、縦に揺れることなく、地をすべるように移動できる。
「うわっとととっ!?」
はずむ狐耳――投げ出される烏天狗。
「あっぶねぇ――――!?」
馬車の轍の深くなった所が、一瞬足下に見えた。
カッシャン――――スポン!
出しっぱなしだった、錫杖の先。
鉄輪を椅子の背もたれに、引っかけた。
「だっ、だいじょうぶコォン!?」
「だいじょうぶだよ、このまま進んでいーよ」
魔法の杖のあまりの速度で、はためく旗のようにぶら下がる烏天狗。
顔が空を向いてるから、夜雲が晴れてほしが瞬いているのが見えた。
星を見上げるたびに、ついつい形を確認してしまう。
この星の形は、日の本では見たことがないものだ。
「クケェェェェェェ――――ッ」
渓谷の上空を、首が二本ある大鷲が、飛んでる。
あれは、ぼくたちをつかんでいたのとは別のヤツだ。
「(どう迅雷? 金剛力をはやくなおす目処は、付きそうかい?)」
「(いいえ、SDKの複製はやはり不可能な――)」
「む、暗殺者の気配コォン!? くおりゃぁー」
ぶら下がったまま狐耳をふりむくと、またもや手刀が炸裂していた。
「(確実に私の念話に反応しています)」
姫さんとおなじだ。
狐耳がピクピク動いているから、度を超えて耳が良いのかもしれない。
「(貴族は暗殺対象になりやすいので、アーティファクトの特殊な作用に対する、何らかの防衛術を収得している可能性があります)」
けれど〝先制攻撃〟で繰り出された手刀では、遠くてぼくに届かない。
「くぉりゃぁー」
なにもない背後をしきりに手刀する、お貴族さま。
ひかり輝いたときの威力は、とんでもなかったけど――当たらなければ効果を発揮しない種類のスキルらしい。
「(狐耳の種族のまえでは、迅雷からの念話は止めよう。かわいそうだし)」
「――はイ、シガみー。耳栓経由に切りかエました。8秒後に渓谷を抜けマす――」
「(じゃ、そろそろ始めようか。金剛力じゃないふつうの手甲と下駄は、出せるかい?)」
「――はイ、可能でス。あ――」
がらん、ごろろろっ――――
金剛力でもある迅雷の機械腕は、品切れ中だ。
魔法の杖ですっ飛んでるさなかに物を出せば、とうぜんその場に取りのこされる。
「(しかたないなぁ――)」
迅雷は、神々の知恵をもつ凄い棒だけど――ときどき間の抜けたことをする。
すぽん――――錫杖をねじって、背もたれに引っかかった鉄輪をはずす。
ずざざざぁぁぁぁ――――痛ってぇぇっ――――ごろごろごろろろぉぉぉぉっ!
そうだった、金剛力がないぼくは――LVがあるだけの子供だった。
底上げされる体力には、限界がある。ケガはしなかったけど。
「――注意力が足りませンね、シガミー。気をつケてください――」
うにゅぬぅ――金剛力にたよりきったままだと、命にかかわる。
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