滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

１：輪廻転生、おいでませガムラン町

８９：猪蟹屋店主（シガミー）、鬼と妖怪と卵酒

「っぁーーーー（どうしようもねぇ）！」
　こりゃあ、だめだ。迅雷ジンライが戻もどってこねえかぎり、この場をおさめる策さくがひとつも思おもいつかねぇ。

　ふぉふぉん♪
　なんかでた。
『最優先項目：自己診断モード継続中　終了までの時間／未定』
　わからんが、まだおわらねぇのが、わかる。
　そこをなんとか、切りあげろって言ってんだよ！

　ふぉふぉん♪
『最優先項目２：〝事象ライブラリ〟更新終了まで――強化学習による事象ライブラリの最適化が完了しました。
　＞２時間５９分（５７分の短縮）
　＞２時間２分』
　わからんが、すこしはやくなったか。
　そこをなんとか、切りあげろってんだよ！

　ふぉふぉん♪
『最優先項目３：〝女神格納現象〟解析終了まで――解析項目に修正あり。
　＞〝女神格納現象〟に関連する事態を観測。
　＞３時間２９分（３時間１５分の短縮）
　＞１４分』
　わからんが、こいつはほとんど終わってるな！
「（もう、それ終わりにしろよ！　この場を、どーにかおさめてくれぇっ！）」

　　　§

「――誰だれだ!?　答こたえろ！」
　鬼娘オルコが反射的はんしゃてきに抜いたのは……冒険者用ぼうけんしゃようの装備そうびとしちゃ短みじかい代物しろもの。

　料理りょうりか藪やぶを切りひらくときにでも、使つかうやつか。
　今日きょうは、いつもの大剣たいけんはおろか、小剣しょうけんのひとつも持ってねぇみてぇだ。

「そ、その口調くちょう――――ま、まさか、ひょっとして――――本物の・・・イオノファラーさまですかっ？」
　仮面かめんごしでもわかる、恐怖きょうふにゆがむ顔かお。
　そりゃあ、あれだけ面妖めんような顔かおあわせを……忘わすれることは、ねぇだろうからなー。

「なっ――本物の・・・イオノファラーってどういうことだ、リオレイニア!?」
　一本角オルコが仮面リオを見おろし――仮面リオがおれを見つめた。

「そだよー。イオノファラーちゃんだおー。頭がたかいおー？」
　えいえいおぉー♪　とおおきく上下左右じょうげさゆうにからだを振る、白しろい天狗てんぐ。

「ま、まちがいなく、イオノファラーさまですが……そのお姿すがたは一体いったいどうなさったのですか――もう、どう説明せつめいすれば、良いのか……」
　うぐぐ、五百乃大角いおのはらのやつめ。
　あのそつの無い彼女リオを、ここまで困こまらせやがって。

　おろおろするリオレイニア。
　おれ達こっちと白天狗めがみを交互こうごに睨にらむオルコトリア。
　ふたりに――言ってやる。

「その白しろい天狗てんぐは、美の女神びのめがみであるところの、五百乃大角いおのはらさまでまちがいねぇ――残念ざんねんながらなっ！」

「そうよ、このあたくしさまが、あ・の、イオノファラーでまちがいないわよん――――いま残念ざんねんって言った？　言っちゃった!?」

　おれをかかえる、仕立ての良い給仕服リオレイニア・サキラテ。
　痛いてぇ首くびをまわして、顔かおを見る。

　挙動不審あやしげな白しろい天狗てんぐの一挙手一投足あやしいうごきに、目をはなせずにいる。
　アレだけ抱きつかれたり、ほおずりされたりしてたからな。警戒けいかいするのは当たり前まえだ。

　もんだいはこっちだ・・・・。
「はぁぁぁぁっ!?　はっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――!?」
　しきりに、さけぶ鬼娘オルコ。
「鬼娘おにっこちゃんだぁー♪　でゅふふへっ、シガミーこの娘こもすっごく綺麗きれいねぇーーーーっ、え？　……ガシリ、ガシリ……何なあにこれ――楽しいっ！」
　白天狗いおのはらが、突き出されたオルコの手とか短剣たんけんをつかんで、ふりまわし始はじめた。

「ぎゃぁぁぁぁっ!?　は、はぁなぁせぇぇぇぇぇぇっ――――!?」
　しきりに、さけぶ鬼娘オルコ――ごきり――骨ほねが鳴る。
　彼女おにの二にの腕うでが、はち切れそうになった。

「うきゃぁぁぁっ!?　ウケケケケケケケケケケケケェッ――――!?」
　おまえほんとは白天狗めがみ……っていうか妖怪ようかいだろ、その鳴き声こえはよぉ。

　鬼おにの怪力かいりきあいてに正面から・・・・――裏天狗うらてんぐの細ほそい金剛力こんごうりきで立ち合ってる。
　折れる骨ほねがねえからか？　あれ中身なかみはジンライ鋼こうでつないだ、ただの木だぜ。

「こりゃ、だめだな」
　おれはあきらめた。
「ええ、だめですね、もう」
　同意どういするリオ。

　普段ふだんあれだけ冷静れいせいで（リオレイニアとやり合うときだけはすこしムキになるが）、分をわきまえた冒険者ぼうけんしゃのオルコトリアでさえこうなんのか――五百乃大角いおのはらと顔かおをつきあわせると。

　今回こんかいは現あらわれた格好かっこうが白い天狗めちゃくちゃだから、受け入れるのは難むずしいだろう。
　普段ふだんの人ひとの格好かっこうなら下っ腹はらが出てるにしても、まがりなりにも美の女神めがみだから――――見た目でかなり信しんじてもらえたんだがなぁ……。

「しかたねぇな。落ちついてから鬼娘オルコに話はなしを聞いてもらおう」
　本当ほんとうに世の中なかってぇのは、来世らいせでも――うまくいかねぇもんだぜ。
　こうなるとやっぱり、レイダに打ち明けるのは、もうすこし様子ようすをみねぇとまずいかもしれねえ。

「ぎゃぁぁぁぁっ!?　は、はぁなぁせぇぇぇぇぇぇっ――――!?」
「うきゃぁぁぁっ!?　ウケケケケケケケケケケケケェッ――――!?」
　鬼おにと妖怪ようかいの組み手は、そのあと五分ごふんくらいつづいた。

　　　§

「ちょっと、シガミー。ほ、本当ほんとうなの？　こ、この真っ白い・・・・テェーングのお爺じいちゃんみたいなぁのぉがぁー、イオノファラーさまっていうのぉわぁーー？」

「本ほん――――」
　白天狗いおのはらがなんか言おうとしたから――――「（たのむ、少すこしの間あいだだけ、だまってじっとしててくれ――あとで、うまいもんを食わせてやるから）」――――と丁重ていちょうに、神かみにねがった。

「（えっ!?　おいしい物ものっ――じゃあ、だまる！　じっとしてる！）」
　内緒話みつだんがうるせえけど、ストンと椅子いすに腰掛こしかけてくれた。

　まずは、この場をおさめて、あの白しろい天狗てんぐを、どうにかしねぇとな。
　リオの膝ひざのうえに座すわる。せなかから体からだをかかえてもらって――ぴきぱき――い、痛いてえけど、このままじゃ埒らちがあかねえから我慢がまんだ。

　オルコトリアの目をみる。
　瞳ひとみが針はりみたいに、ほそくなってる。
　姫さんリカルルのとは別べつの、なんかが宿やどってんのかもしれん。

「そうだ、こいつは正真正銘しょうしんしょうめい、五百乃大角いおのはらだぜ――時々ときどきこうして下界げかいに、お忍しのびで遊あそびに来る本物ほんものの神かみさんだ」

「こ、これがぁーー!?　うーそーだーぁー！」
　そう言われても――本当ほんとうのことだから、信しんじてもらうしかねぇ。
　興奮こうふんするあまりに、一本角つのの先さきが青白あおじろく光ひかってる――怖こえぇ！

　なんかいい手はねぇか？
　一切合切投いっさいがっさいなげすてて、別べつの町まちでやりなおすには――ガムラン町ちょうは面白おもしろすぎる。
　迅雷の飯カミナリの件もあるしな。

　本当の姿ほんにんは下っ腹はらこそ出ちゃいるが、まあ器量良きりょうよしの部類ぶるいに入はいるし、実際じっさいにアイツは神々かみがみの力ちからや知恵ちえを持ってる。
　正体しょうたいがばれても怪あやしまれても、町まちの連中れんちゅうから粗末そまつに、扱あつわれることはねえだろう。

　この際さい、〝裏天狗うらてんぐ（五百乃大角いおのはら入りの白しろいヤツ）〟と〝おれや天狗てんぐ〟のつながりを隠かくせりゃ、あとはどうでも良い。

　なんかいい手は――――あるよ？

「（んあ？）」
　いい手、あるよ――あ、けど黙だまってないと、ごちそうが出てこなくなっちゃうふふっ♪
　机テーブルをみると白装束うらてんぐは、きちんと座すわってる。

「（なんだ、言ってみろ？）」
　けどけどー、お口くちにチャック――いいから、この場をどうにかできたら――〝ムシュル貝がいのドラゴーラ焼き〟を腹一杯食はらいっぱいくわせてやる。

　ふーんだ、そんなこと言っても騙だまされないのが――あたしのジャスティス♪
　なに言ってるかわからんが、やかましぃ――いいから、どうにかしてみろ。
　万まんが一いち、うまくいったらめっけもんだ。

　ほんとぉにぃー？
　おれに二言にごんはねぇ――いま猪蟹屋ししがにやのうりあげは、上々じょうじょうだから平気へいきだ。

　ガチャンッ――立ちあがる、白しろい天狗てんぐ。

「あー、あー。犯人はんにんに次ぐ、犯人はんにんに次ぐ。あたぁくし－わぁー、女神めがみであーるぞよ。眷属けんぞくである迅雷ジンライからぁー、シガミーの筋肉痛きんにくつうのの薬くすりを作つくってくれるよう頼たのまれましたので、こうして化けて……いえ、天狗テェーングのからだをお借りして、お出ましになられました・と・さ――プークスクス♪」
　ヴッ――ことん。

　早口はやくちで、なに言ったかわからんけど、〝天狗てんぐの体からだを借りた〟ってのが聞こえた。
　それは意外いがいと、うまい話はなしかも知んねぇ。
「テェーングの、お爺じいちゃんの体からだを……借りたぁ？」
　オルコトリアの瞳ひとみが、元もとにもどった。
　ひとまず、納得なっとくしてくれた気がしないでもねぇ。

　けど、そりゃなんだ？
　白天狗いおのはらが机テーブルに、置いたのは瓶びんだ。
　びーどろの瓶びんの中なかには、黄色きいろっぽいのが並々なみなみと注そそがれてる。

「そりゃ、なんでぇい？」
　聞いてやる。

「ご家庭かていで簡単かんたんにつくれるアレよアレ――なんだっけ、消炎鎮痛剤えんしょうちんつうざい？　まあ、ふつうの卵酒たまござけなんだけどさ。あっためて飲んでね、どうぞおだいじに？」
　ギュキッ、ガシャン、ギュギン♪
　椅子いすに座すわって腕うでを組む、白しろい天狗てんぐ。

「この痛いてぇのに、マジ・・で効くのか？」
　ギュギギッ――――ガシィン！
　突き出した真っ白しろい拳こぶし。
　親指おやゆびが立てられ――ギュインと真下ましたを向いた。