滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ

文字の大きさ
上 下
72 / 741
1:輪廻転生、おいでませガムラン町

72:天狗(シガミー)、バリアントはっけん

しおりを挟む
サインを書いた後、少し話をして冬哉が俺と同い年だと分かった。そして心臓に病を抱えていてずっと入院生活をしているということも聞いた。

そんな冬哉を励ましたくて、足が完治したあとも病院に通い続けた。病室でお互いのことを話すうちに、冬哉がピアニストになりたいという夢を抱いていることを教えてくれた。

俺がサインしたあの楽譜は、彼にとって大切なものだったのだ。ピアノを弾きたくて常に楽譜を見て頭の中でメロディーを奏でているのだと、笑いながら話してくれたことがある。

そんな冬哉に俺は、『退院したらピアノを披露してほしい』とお願いしたのだった。

それから一年が経ち俺たちはなんでも話せる親友となり、冬哉は俺のことを『サト』と呼ぶようになっていた。

性格は真逆で考え方もまったく違う。それでも一緒にいて心から楽しいと思える存在。彼は誰よりも、自転車でてっぺんを取りたいという俺の夢を応援してくれた。

その頃、一時退院した冬哉が自宅に招待してくれて、リビングの隣室にあったプレイルームへと連れて行かれた。そこには大きなグランドピアノがあって椅子に腰を下ろした冬哉が鍵盤にゆっくりと指をかけた。

あの日の俺のお願いを彼は覚えていてくれたのだ。

~~♪♪~~♪♪~~
~♪♪~~♪♪~~

嬉しそうに音を奏でる冬哉を見ていたら、なんだか感極まり視界が滲んだ。

このとき冬哉が弾いてくれたのが、リストの『愛の夢』だった。

壮大に、なおかつ感情豊かにそのすべてのメロディーを弾き終えると冬哉は満足げに笑ってみせた。そして、窓の方に目を向けてからこの曲にまつわるエピソードを語りだした。

それはショパンとリストの切なくも温かい話。

陽気なリストがサトで、寡黙なショパンが自分だと言って少し切なげに笑った。

冬哉が『リストのように華やかで、誰もが憧れる強いロードレーサーになってね』と言ってくれたので、俺も冬哉に『ショパンのような天才ピアニストになれよ』と言い返したけれど、彼はどこか困ったように笑ってみせた。

あとで知ったが、ショパンはその才能を惜しまれながら病に倒れ、若くして死んだそうだ。

冬哉は自分がもう長くは生きられないのだと心のどこかで悟っていたのかもしれない。

中学に上がる頃には、会話もできないほどに冬哉の病状は悪化した。

そして中学二年の夏。

彼が十四回目の誕生日を迎え数日が過ぎた頃、冬哉は安らかな顔をして天国へと旅立った。

それはあまりに残酷な別れで、そこから俺は心にぽっかりと穴が開いたまま、日々を過ごしていくことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...