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1:輪廻転生、おいでませガムラン町
64:シガミー(元破戒僧)、救出クエスト開始
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「緊急コールも、伝令もまだない!」
ギルドの制服を着たヤツが、大声を張りあげる。
魔物境界線の手前。
先鋒の砦に到着すると、よこすはずの連絡がねえらしい。
がやがやがや、どやどやどや、ざわざわざわ。
ここは冒険者ギルド一階。
「レイダ、上いくぞ!」
どたどた、はい、ちょいとごめんなすってよ!
ごめんなさぁい、とおりま――むぎゅ!
冒険者の群れに飲みこまれたレイダを、つかんで引っぱりだした。
がやどやざわわ、がやどやざわわ。
一度に集まると、冒険者ってのはこんなに沢山いたんだな。
こりゃだめだ。
「つかまってろ!」
柱を蹴あがり、灯りの魔法具にとびつく。
レイダを背中にぶら下げたおれは――よっはっとぉっ!
むぎゅ、むぎゅ、どかり――すたっ!
うぉ!? きゃぁ!? 痛って――!
「ガキども、なにしやがるっ!?」
できるだけ背負ってる物や、肩なんかを踏んだつもりだったが。
あまりにもちょうど良い高さにあったもんだから、おっさんの頭を踏んづけちまった。
「わりい! おれは『猪蟹屋』のシガミーだ。店にきたら負けてやるから、勘弁してくれ~!」
ごめぇんなさぁいぃ――――
「ししがにゃー?」
「ししがにゃーって、あの……」
「リオレイニアが店番してる……」
レイダの叫び声が喧噪に、かき消された。
おれたちは掲示板よこの、ドアに掛けこむ。
「まてこらぁ――いねえ!?」
どこいったぁ――!?
なんか聞こえるが、いまはそれどころじゃねえ!
§
「迅雷――レイダの重ぇ尻」――ごちん!
痛ってーな、頭を殴るんじゃねー!
「――ご立派様」――ごちん!
……さっきの冒険者のお怒りは、ごもっともだぜ。
もし来たときゃ盛大に、もてなしてやらねえと。
リオに茶菓子も、だしてもらおう。
「よっと――――!」
冒険者ギルドの建物は、通路がひろく作られてる。
けどそれは、冒険者のでけぇ盾や武器を、通すためだ。
せまく急な階段を、一気にのぼっていくが――
ブブブブッキャチャギシシッ――カチャキャチャギュシリ!?
背負ってたレイダごと巻きついちまったから、金剛力が全力を出せねえ!
「迅雷――これでどうだ!?」
レイダの尻をつかんで、持ちあげる。
「っきゃふぁ~~!?」
「な、なんて声、出しやがんだ! ええい――」
両手でしっかりつかんで、ひきよせた。
「っにぅ~~!?」
カチャキャチャギュシリ――ギュシリッキャチャカチャキャチャ――ぱしゃん!
よし入った(レイダの尻が)!
――――ストトォン!
「もーばか! シガミーのばかーっ!!」
うるっせー!
遭難はわかったときに、すぐ動かねえと、まず助からねえもんだ。
「がまんしてくれっ!」
キュキュギシッ――――ストトォン!
キュキュギシッ――――ストトォン!
キュキュギシッ――――ストトォン!
最上階まで来たぞ――避雷針交換でとおりなれた道だ――足は止めない。
空中《ちゅう》でドアを開け、うしろ手に閉じ、足をつく。
長いはしごを一歩でとびあがると、避雷針交換のための足場がある。
ひらいた出入り口から外を、眺めていたのは――――
「おとうさん!?」
「ギルド長!?」
「(考えることは、同じようですね)」
§
「姫さんに、なんかあったのか?」
あいた窓の向こう。
とおくの稜線の、すこし下のあたり。
なんかの建物らしいのが、米粒よりも小さく見えている。
このからだは、目までいいぜ。
もとから悪くはなかったが、まえより遠くまで見通せる。
「まだわかりませんが、魔物のうごきに急激な変化があったのは、まちがいないでしょう」
眼鏡の〝摘み〟が――うごいてねえ。
「シガミィー」
「なんでぇ、そんな弱っちろい声だすなってんだ」
不安そうな子供に、言ってやる事なんざひとつしかねえ。
「大丈夫だ。ガムラン町には冒険者を束ねる優秀な軍師が居る――な、そうだろ――――えっと小豆……?」
「レムぞー・クエーサーでス、シガみー」
そうだった。そういやレイダ家には家名があるのすら、忘れてたぜ。
「そうだ、そんな名だった。事態は一刻をあらそうぞ、なんか言えレムゾー・クエーサー!」
「は、はい、そうですね。驚いてばかりもいられません。伯爵が到着するまでは私が指揮を執ります。まずは先遣隊を明朝出立させますので、迅雷殿にもお知恵をお貸しいただきたく!」
ギュギュギュィィィィッ――――ギュギュィィィィーーーーーーンッ!
よし、調子が戻ったな。
もういちど、米粒をみる。
ちかちかちか――目の端がひかり――覆われる視界。
ヴュゥゥィィーー♪
迅雷が遠くを近くに見せる。
やっぱり狼煙はあがってねえ。
「(これ以上は、光学補正できません。ひと月あれば、月まで見通すことが可能になりますが――)」
「(そんなには待てん!)」
§
シガミー邸、深夜。
アーティファクトの充電台から、角張った神力棒を引きぬく。
「(シガミー、戻りました)」
「(ようし、準備はできてるぜ)」
大机にならべたのは、
食材用収納魔法具が120個。
魔法粥収納魔法具が34個。
猪蟹屋との、二往復でもって来た全部を――
ヴヴヴッ♪
一呑みで迅雷が格納する。
ヴヴッ――――ぱし、ぱしん♪
両手の錫杖と小太刀を展開――錫杖がじゃりんと鳴る。
「(よし、そっちに抜かりはねえな?)」
得物はすぐ格納――――カシュカシュ、すぽん!
「(はい、シガミー)」
ぼろぼろの外套のうえから、黒い網をまとった。
これで、月が出ても、おれの姿は闇にまぎれる。
ふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『遠征部隊を救出せよ!
達成条件【リカルル・リ・コントゥル】の生還。
救出クエスト開始 残り時間 03:19:59』
――――ごっわぁあぁあぁあぁあぁあぁん♪
うるっせえ。今日は御囃子はなしだ。
了解しました、シガミー。
ギルドの制服を着たヤツが、大声を張りあげる。
魔物境界線の手前。
先鋒の砦に到着すると、よこすはずの連絡がねえらしい。
がやがやがや、どやどやどや、ざわざわざわ。
ここは冒険者ギルド一階。
「レイダ、上いくぞ!」
どたどた、はい、ちょいとごめんなすってよ!
ごめんなさぁい、とおりま――むぎゅ!
冒険者の群れに飲みこまれたレイダを、つかんで引っぱりだした。
がやどやざわわ、がやどやざわわ。
一度に集まると、冒険者ってのはこんなに沢山いたんだな。
こりゃだめだ。
「つかまってろ!」
柱を蹴あがり、灯りの魔法具にとびつく。
レイダを背中にぶら下げたおれは――よっはっとぉっ!
むぎゅ、むぎゅ、どかり――すたっ!
うぉ!? きゃぁ!? 痛って――!
「ガキども、なにしやがるっ!?」
できるだけ背負ってる物や、肩なんかを踏んだつもりだったが。
あまりにもちょうど良い高さにあったもんだから、おっさんの頭を踏んづけちまった。
「わりい! おれは『猪蟹屋』のシガミーだ。店にきたら負けてやるから、勘弁してくれ~!」
ごめぇんなさぁいぃ――――
「ししがにゃー?」
「ししがにゃーって、あの……」
「リオレイニアが店番してる……」
レイダの叫び声が喧噪に、かき消された。
おれたちは掲示板よこの、ドアに掛けこむ。
「まてこらぁ――いねえ!?」
どこいったぁ――!?
なんか聞こえるが、いまはそれどころじゃねえ!
§
「迅雷――レイダの重ぇ尻」――ごちん!
痛ってーな、頭を殴るんじゃねー!
「――ご立派様」――ごちん!
……さっきの冒険者のお怒りは、ごもっともだぜ。
もし来たときゃ盛大に、もてなしてやらねえと。
リオに茶菓子も、だしてもらおう。
「よっと――――!」
冒険者ギルドの建物は、通路がひろく作られてる。
けどそれは、冒険者のでけぇ盾や武器を、通すためだ。
せまく急な階段を、一気にのぼっていくが――
ブブブブッキャチャギシシッ――カチャキャチャギュシリ!?
背負ってたレイダごと巻きついちまったから、金剛力が全力を出せねえ!
「迅雷――これでどうだ!?」
レイダの尻をつかんで、持ちあげる。
「っきゃふぁ~~!?」
「な、なんて声、出しやがんだ! ええい――」
両手でしっかりつかんで、ひきよせた。
「っにぅ~~!?」
カチャキャチャギュシリ――ギュシリッキャチャカチャキャチャ――ぱしゃん!
よし入った(レイダの尻が)!
――――ストトォン!
「もーばか! シガミーのばかーっ!!」
うるっせー!
遭難はわかったときに、すぐ動かねえと、まず助からねえもんだ。
「がまんしてくれっ!」
キュキュギシッ――――ストトォン!
キュキュギシッ――――ストトォン!
キュキュギシッ――――ストトォン!
最上階まで来たぞ――避雷針交換でとおりなれた道だ――足は止めない。
空中《ちゅう》でドアを開け、うしろ手に閉じ、足をつく。
長いはしごを一歩でとびあがると、避雷針交換のための足場がある。
ひらいた出入り口から外を、眺めていたのは――――
「おとうさん!?」
「ギルド長!?」
「(考えることは、同じようですね)」
§
「姫さんに、なんかあったのか?」
あいた窓の向こう。
とおくの稜線の、すこし下のあたり。
なんかの建物らしいのが、米粒よりも小さく見えている。
このからだは、目までいいぜ。
もとから悪くはなかったが、まえより遠くまで見通せる。
「まだわかりませんが、魔物のうごきに急激な変化があったのは、まちがいないでしょう」
眼鏡の〝摘み〟が――うごいてねえ。
「シガミィー」
「なんでぇ、そんな弱っちろい声だすなってんだ」
不安そうな子供に、言ってやる事なんざひとつしかねえ。
「大丈夫だ。ガムラン町には冒険者を束ねる優秀な軍師が居る――な、そうだろ――――えっと小豆……?」
「レムぞー・クエーサーでス、シガみー」
そうだった。そういやレイダ家には家名があるのすら、忘れてたぜ。
「そうだ、そんな名だった。事態は一刻をあらそうぞ、なんか言えレムゾー・クエーサー!」
「は、はい、そうですね。驚いてばかりもいられません。伯爵が到着するまでは私が指揮を執ります。まずは先遣隊を明朝出立させますので、迅雷殿にもお知恵をお貸しいただきたく!」
ギュギュギュィィィィッ――――ギュギュィィィィーーーーーーンッ!
よし、調子が戻ったな。
もういちど、米粒をみる。
ちかちかちか――目の端がひかり――覆われる視界。
ヴュゥゥィィーー♪
迅雷が遠くを近くに見せる。
やっぱり狼煙はあがってねえ。
「(これ以上は、光学補正できません。ひと月あれば、月まで見通すことが可能になりますが――)」
「(そんなには待てん!)」
§
シガミー邸、深夜。
アーティファクトの充電台から、角張った神力棒を引きぬく。
「(シガミー、戻りました)」
「(ようし、準備はできてるぜ)」
大机にならべたのは、
食材用収納魔法具が120個。
魔法粥収納魔法具が34個。
猪蟹屋との、二往復でもって来た全部を――
ヴヴヴッ♪
一呑みで迅雷が格納する。
ヴヴッ――――ぱし、ぱしん♪
両手の錫杖と小太刀を展開――錫杖がじゃりんと鳴る。
「(よし、そっちに抜かりはねえな?)」
得物はすぐ格納――――カシュカシュ、すぽん!
「(はい、シガミー)」
ぼろぼろの外套のうえから、黒い網をまとった。
これで、月が出ても、おれの姿は闇にまぎれる。
ふぉふぉふぉふぉぉぉん♪
『遠征部隊を救出せよ!
達成条件【リカルル・リ・コントゥル】の生還。
救出クエスト開始 残り時間 03:19:59』
――――ごっわぁあぁあぁあぁあぁあぁん♪
うるっせえ。今日は御囃子はなしだ。
了解しました、シガミー。
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