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1:輪廻転生、おいでませガムラン町
28:E級冒険者(幼女)、狩りチュートリアル(ポグバード)
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あさいちばんの草原。
ギッ――、ギィギィ――!
澄んだ空気のなかを、かすかな喧噪がとびかう。
「ちらほら、いやがるな」
「うん。あっちには鳥もいる!」
プギー、ばさばささっ。
まったく居なくなってた獲物が、もどってきていた。
「(このへんの土地は何でこんなに、肥えてるんだ?)」
おれ……迅雷が根こそぎ刈りつくした草が、まんべんなく生えてきている。
「(地中のマナ……魔法の元となる活力……龍脈が真下を流れているようです)」
「(龍脈……なんか植えりゃあ、スグ育つってのか?)」
「(はい、おおむねその認識で問題ありません)」
おれのLVが上がるまで、畑を耕すのも悪くねえかもなあ。
「おーい、あんまり先に行くなよー。あちゃー、剣が錆びてるや」
ギギギ、ザリザリザリ――ギャギイン!
女将の食堂の若い店員が、使い古しの剣を抜いた。
「わけえのが狩りを教えてくれるって言うから、たのんだけど――」
「――ちょっとたよりないわね」
おれたちは、革鎧を着た青年と、いつものギルド制服の鬼娘を待つ。
「こら、ニゲルはこんなだけど、スーパールーキーとして一目置かれてたんだからね」
彼女のせなかの長刀は、幅も厚みもある。とてもあの細腕で振りまわせるようには、みえない。
「(数春奇異?)」
「(有望な新兵……神童や麒麟児のことです)」
「へぇえ、このわけえのがねえー」
「こら、またシガミーは。町のひとは敬わないと」
おめえも、さっき頼りねえって言ってたじゃねーか。
「へへへ、おもう存分敬っていいよ――――オルコトリアさん、いま〝こんなだけど〟って言った?」
「本当はギルド職員である私が、冒険者のレイダとシガミーを、ひいきしちゃいけないんだけど……」
おれとレイダのあたまの上からつま先まで、じーっとみつめる麗人。
あさの陽光に、肩までの青髪がきらめいている。
「私がこないと――リカルルが来ちゃうからねー」
来ちゃう? たしかに狐耳なら、ギルドのしきたりなんか、お構いなしだろうけど。
「よくわからねえ、狐耳がくると、なんかまずいのか?」
リカルルの名を聞いたニゲルが、そわそわしてるけど放っておく。
「お付きと護衛をひきつれてちゃ、狩りの練習なんてできないでしょ」
「あー、そりゃそーか」
たしかに、白い装束と黒い甲冑が、いつも何人か離れたところに張りついてた。
「わたしたちがリカルル様に、追いかけ回されないように……かとおもった」
レイダもやっぱり狐耳に、飛びかかられたりしたんだろうな。
そのかおが、青ざめてる。
「……それも少しあるわね」
こっちも、青ざめてた。
狐耳がらみの苦労が忍ばれる。
ため息をついた鬼娘が、落ちてた小石を何個かひろった。
「草原での狩りのコツを、ひととおり教えます。あとはそれを自分なりに工夫してね」
「はーい」「おう」
「じゃあ、まず……あそこにいるポグバード」
いつも食ってる、まるい鳥だ。
ごきり――骨が鳴る音。
制服の二の腕が、はち切れそうになっている。
鬼の怪力だ。おれが戦ったやつは拳に力を込めてた。
「――――わああぁぁっ!」
叫ぶと同時――――風切り音。
鬼は石を投げた――けど狙いははずれている。
「(はずしたぞ?)」
「(そのようです)」
バタバタバタバタッ――飛びたつ鳥。
「プケーーッ!」
どさり。石は鳥に命中した。
「(あたったぞ!)」
「(そのようです)」
放った小石に、鳥が当たったのだ。
「飛びたつポグバードの軌道はー、いつも同じで変わらないのー」
と小走りに駆けていく鬼娘を、追いかけるレイダ。
「ポグバードの顔の正面。ちょっとななめ上を狙うんだよ」
ニゲルが投げるうごきをする。
「じゃあ飛んでるやつは、どうすりゃ良いんだ?」
「おなじだよ。あいつらは顔の向きに、まーっすぐ飛ぶから、その先を狙って弓や魔法を放つ」
こんどは弓をひくうごき。
「近づく前に気づかれちまうのは、どうすりゃ良いんだ?」
昨日はそれで、角ウサギ一匹しとめるのに、まる一日かかっちまった。
「餌をまいて、じっとしてればいいんだよ」
ニゲルが種つぶみたいなのをばらまいて、しゃがみこんだ。
まわりの草はまだ伸びきっておらず、ニゲルの姿はまるみえだ。
「そんなんじゃ、気づかれちまって寄ってこねえよ」
「いーから。よーくみてて」
鳥をかかえて戻ってきた鬼娘が身をかがめる。
さぁぁぁぁぁ――――風が吹く。
パタタタタタタタッ――――プキー♪
けたたましい鳥の声。
まるい鳥が青年の近くに、降り立った。
目のまえを横切る、肥えた鳥。
元冒険者が叩くように、錆びた剣を振りおろした。
プケケーー!
肥えたまるい鳥が、錆びた剣の錆びになった。
「え? なんでなんで? わたしも待ち伏せするけど、全然うまくいかないのに!」
魔法の杖を振り回す子供。
「うふふ、何でだとおもう?」
鬼が青年のとなりに立つ。
さぁぁぁぁぁ――――風が吹く。
風になびく、とおくの木々。
風になびく、草花。
風になびく――――鬼と元冒険者。
このあいだ思い出した〝じっとしてる修行〟が――あたまをよぎった。
いちめんの草を薙いでいく流れが――まる穴のあいた〝板きれ〟で。
風に揺れるふたりは〝突きさした根〟だった。
「風に溶けこんでんのか!」
そう言ったときの鬼娘と元冒険者のおどろいた顔は、かなり間が抜けてて、ちょっと笑った。
ーーー
マナ/超自然的なエネルギーの概念。自然や精霊に由来し、万物に宿る。
龍脈/大地をながれる巨大な気の流れ。山脈の稜線をこう呼ぶことも有る。
神童/非凡な才能にめぐまれた子供。
麒麟児/将来に望みを掛けられる、優れた若者のこと。
ギッ――、ギィギィ――!
澄んだ空気のなかを、かすかな喧噪がとびかう。
「ちらほら、いやがるな」
「うん。あっちには鳥もいる!」
プギー、ばさばささっ。
まったく居なくなってた獲物が、もどってきていた。
「(このへんの土地は何でこんなに、肥えてるんだ?)」
おれ……迅雷が根こそぎ刈りつくした草が、まんべんなく生えてきている。
「(地中のマナ……魔法の元となる活力……龍脈が真下を流れているようです)」
「(龍脈……なんか植えりゃあ、スグ育つってのか?)」
「(はい、おおむねその認識で問題ありません)」
おれのLVが上がるまで、畑を耕すのも悪くねえかもなあ。
「おーい、あんまり先に行くなよー。あちゃー、剣が錆びてるや」
ギギギ、ザリザリザリ――ギャギイン!
女将の食堂の若い店員が、使い古しの剣を抜いた。
「わけえのが狩りを教えてくれるって言うから、たのんだけど――」
「――ちょっとたよりないわね」
おれたちは、革鎧を着た青年と、いつものギルド制服の鬼娘を待つ。
「こら、ニゲルはこんなだけど、スーパールーキーとして一目置かれてたんだからね」
彼女のせなかの長刀は、幅も厚みもある。とてもあの細腕で振りまわせるようには、みえない。
「(数春奇異?)」
「(有望な新兵……神童や麒麟児のことです)」
「へぇえ、このわけえのがねえー」
「こら、またシガミーは。町のひとは敬わないと」
おめえも、さっき頼りねえって言ってたじゃねーか。
「へへへ、おもう存分敬っていいよ――――オルコトリアさん、いま〝こんなだけど〟って言った?」
「本当はギルド職員である私が、冒険者のレイダとシガミーを、ひいきしちゃいけないんだけど……」
おれとレイダのあたまの上からつま先まで、じーっとみつめる麗人。
あさの陽光に、肩までの青髪がきらめいている。
「私がこないと――リカルルが来ちゃうからねー」
来ちゃう? たしかに狐耳なら、ギルドのしきたりなんか、お構いなしだろうけど。
「よくわからねえ、狐耳がくると、なんかまずいのか?」
リカルルの名を聞いたニゲルが、そわそわしてるけど放っておく。
「お付きと護衛をひきつれてちゃ、狩りの練習なんてできないでしょ」
「あー、そりゃそーか」
たしかに、白い装束と黒い甲冑が、いつも何人か離れたところに張りついてた。
「わたしたちがリカルル様に、追いかけ回されないように……かとおもった」
レイダもやっぱり狐耳に、飛びかかられたりしたんだろうな。
そのかおが、青ざめてる。
「……それも少しあるわね」
こっちも、青ざめてた。
狐耳がらみの苦労が忍ばれる。
ため息をついた鬼娘が、落ちてた小石を何個かひろった。
「草原での狩りのコツを、ひととおり教えます。あとはそれを自分なりに工夫してね」
「はーい」「おう」
「じゃあ、まず……あそこにいるポグバード」
いつも食ってる、まるい鳥だ。
ごきり――骨が鳴る音。
制服の二の腕が、はち切れそうになっている。
鬼の怪力だ。おれが戦ったやつは拳に力を込めてた。
「――――わああぁぁっ!」
叫ぶと同時――――風切り音。
鬼は石を投げた――けど狙いははずれている。
「(はずしたぞ?)」
「(そのようです)」
バタバタバタバタッ――飛びたつ鳥。
「プケーーッ!」
どさり。石は鳥に命中した。
「(あたったぞ!)」
「(そのようです)」
放った小石に、鳥が当たったのだ。
「飛びたつポグバードの軌道はー、いつも同じで変わらないのー」
と小走りに駆けていく鬼娘を、追いかけるレイダ。
「ポグバードの顔の正面。ちょっとななめ上を狙うんだよ」
ニゲルが投げるうごきをする。
「じゃあ飛んでるやつは、どうすりゃ良いんだ?」
「おなじだよ。あいつらは顔の向きに、まーっすぐ飛ぶから、その先を狙って弓や魔法を放つ」
こんどは弓をひくうごき。
「近づく前に気づかれちまうのは、どうすりゃ良いんだ?」
昨日はそれで、角ウサギ一匹しとめるのに、まる一日かかっちまった。
「餌をまいて、じっとしてればいいんだよ」
ニゲルが種つぶみたいなのをばらまいて、しゃがみこんだ。
まわりの草はまだ伸びきっておらず、ニゲルの姿はまるみえだ。
「そんなんじゃ、気づかれちまって寄ってこねえよ」
「いーから。よーくみてて」
鳥をかかえて戻ってきた鬼娘が身をかがめる。
さぁぁぁぁぁ――――風が吹く。
パタタタタタタタッ――――プキー♪
けたたましい鳥の声。
まるい鳥が青年の近くに、降り立った。
目のまえを横切る、肥えた鳥。
元冒険者が叩くように、錆びた剣を振りおろした。
プケケーー!
肥えたまるい鳥が、錆びた剣の錆びになった。
「え? なんでなんで? わたしも待ち伏せするけど、全然うまくいかないのに!」
魔法の杖を振り回す子供。
「うふふ、何でだとおもう?」
鬼が青年のとなりに立つ。
さぁぁぁぁぁ――――風が吹く。
風になびく、とおくの木々。
風になびく、草花。
風になびく――――鬼と元冒険者。
このあいだ思い出した〝じっとしてる修行〟が――あたまをよぎった。
いちめんの草を薙いでいく流れが――まる穴のあいた〝板きれ〟で。
風に揺れるふたりは〝突きさした根〟だった。
「風に溶けこんでんのか!」
そう言ったときの鬼娘と元冒険者のおどろいた顔は、かなり間が抜けてて、ちょっと笑った。
ーーー
マナ/超自然的なエネルギーの概念。自然や精霊に由来し、万物に宿る。
龍脈/大地をながれる巨大な気の流れ。山脈の稜線をこう呼ぶことも有る。
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