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追記事項~その1
第16頁
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「銘って自分の武器に付けた名前のことだよね?」
「そうですぜ、ジュークの坊ちゃん。あっしの妖刀リキラ丸にだって、『リキラ丸』っていうご立派な銘がありまさぁ」
「じゃあ、あたしは妖刀『ヴィフテーキ丸』にしようっと」
「ぅおまちなさい? なに勝手に素っ頓狂な命名してますの? その角刀を使うには私も立ち会う必要があるのでしょう? そんな品性の欠片もない命名は却下ですわ却下!」
ティーナさんが会議に出席中で助かった。
大事な宿屋の屋号を〝品性の欠片もない〟なんて言われたら、濁流魔法か魔導固めが炸裂してた所だ。
「――だよね。僕が考えた〝モクブーコ〟って名前と変わらないじゃんか。バクチさんのマネだし……」
「「「「「いーえ、モクブーコは論外!」」」」ですわ!」
どうしても、〝モクブーコ〟はダメっぽい。
モクブートじゃないから、どうせ使えないけど。
「えっと、片角や小刀、一本角を言い換えてみてはいかがかしら……『小角』……『小柄』……『独角』……『一角』……あとは『隻刀』――」
ロットリンデさんが謎の言葉を羅列していく。
「――イッカク! 妖刀『イッカク』にする!」
「でも、妖刀じゃないよ。暗いところで赤く光ったりしないし……『国宝級……SSS級レアの神格兵器』だっけ、ティーナさんが言ってたのって……」
「じゃ、神剣『イッカク』でー♪」
軽い。軽いなー。それはトゥナの良いところだけどさー。
ワイワイワイワイ、ガヤガヤガヤガヤ!
丸太小屋からの喧騒に、全員がそっちを見た。
いま丸太小屋では、魔導格闘術一門とギルドの人たち、それとワーフさん達みたいな職人を集めて、会議の真っ最中。
議題はティーナさんがばらまいた、このチラシの件だ。
『キャンプ設営・運営は
宿泊とお食事のプロにお・ま・か・せ❤
宿屋ヴィフテーキ食堂
後援:コッヘル商会』
丸太小屋の中は、〝キャンプ設営計画に一枚咬ませろと乗り込んできた迫力ボディーの美人商会長〟に、さぞかし翻弄されていることだろう。
声に驚いたファロ子が僕の背中に張り付いた。
ははは、かわいい――けど、ツノがゴリゴリって肩甲骨に当たる――――HP47/51!
§
「でわみなさま~、ご静粛に~!」
魔導アーツ一門が取り仕切るこの場で、騒ぐ奴はいない。
ファロ子でさえ僕の脇腹に角を押しつけて大人しくしてる――――HP43/51!
っていうか、ギルドの二人はどこ行った?
ココは、キノコで蹂躙されたキャンプ前。
整地されて板張りの巨大フロアが出来上がっている。
その一画に作られた、大がかりな舞台も公演できそうなステージ。
観客席もフカフ村住人全員が座れるくらい沢山有る。
「まず、森の主幼体である、〝ロ子ちゃん〟の処遇が決まりましたぁ!」
元がボバボーンな美女だけに、真面目にするとものすごくサマになっている。
ロットリンデと僕とトゥナ、そしてファロ子は、ステージ横の長椅子に座らされていた。
しかも別に幕でさえぎられてるわけじゃないから……何コノさらし者状態。
そして名指しされた〝僕に張り付くファロ子〟に注目が集まりつづける。
ティーナさん、何タメてんの、早く進行して――――MP48/49。
ほら、いま減ったじゃんか精神力が!
「正直言ってぇ、この幼子に物理及び魔法戦で勝利することは適いません!」
ざわつく会場。そりゃそうだ。「殴っても火の玉をぶつけても効かない」って言っているのだから。
「ですが、ご・安・心下さい♪ 我が娘――じゃなかった、我がコッヘル商会直属の凄腕拳闘士が皆様をお守りいたしまぁす!」
さっき、よってたかってトゥナを身繕いさせてたのはソレか。
おずおずと頭を掻きながらステージ中央に歩いて行くトゥナ。
あれはさすがに同情する。頑張れ。
「凜々しいぜー」「かわいーわよー」
かすかに励ます声が聞こえてくる。多分ロットリンデ隊……長いからリンデ隊って呼ぶことにする。
さすがに小柄な女の子が一人出て行って凄腕拳闘士なんて言われても、納得する奴なんていない。
実際には、トゥナのレベルは今やロットリンデさんの全盛期に肉薄していて、ココに居る全員が束になっても勝てるかどうかは怪しい(ファロ子以外)んだけど。
ワーフさんが半日がかりで用意してくれたのは、トゥナの防具一式と一振りの短剣。
防具は、銅色に光り輝いていて、前のヤツより体を覆うところが多い。
胸部が不相応に出っ張ってるけど、今ステージ上で冒険者達から喝采を浴びる母親《ティーナさん》のボバボーンぶりを考えると、あながち――
「コラ、ジューク。そんな眼で淑女を見るモノじゃなくってよ」
ロットリンデさんにほっぺたを引っ張られた。
ファロ子までマネして反対側を引っ張り始めた。
やめろ、やめて――――HP41/51!
「――そして、みなさま大変お待たせ致しましたぁー! 本日の主役にご登場していただきましょう!」
進行するステージ上。主役って誰のことだろう?
トゥナとファロ子の、お披露目じゃないの?
「――ルシランツェル家の反逆者にして……」
あ、コレは駄目なヤツだな。
ピンときた僕は、ファロ子を抱えてステージを横から降りた。
「……破落戸まがいの傍若無人」――
「「「「「「おおおおぉー!」」」」」」
「口を開けば罵詈雑言――」
「「「「「「おそろしー!」」」」」」
「立てば癇癪座れば愚鈍――」
「「「「「「やめてー!」」」」」」
「歩く姿は毒の花とまでいわれ、とうとう断罪さ――――」
「「「「「「いやぁぁぁ!」」」」」」
観客達まで一緒になって盛り上げている。
この茶番は、客席に紛れ込ませたリンデ隊が扇動している。
悪い見た目にそぐわず彼ら、彼女らは優秀だった。
「ちょっと! ソコまで言わなくても、よろしいのでわなくて!?」
あー、飛び出しちゃった。ご本人が。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なにその、絹を裂くような少女声。トゥナかと思った。
ティーナさんの大声に驚いて半歩飛び退く、ロットリンデさん。
「出・た・わー! 吸血鬼・ロッ・ト・リ・ン・デ・よぉうー! ――よいしょっと」
何故か取り出す伝家の宝刀。いつもティーナさんが使ってる魔法杖だ。
「――――フフフフフフッ、さ・す・が・は・宮廷魔導師、バレちゃぁ仕方が有りませんわっ! そうよ私が、かの悪名高い〝悪逆令嬢、吸血姫ロットリンデ〟よーー!」
ロットリンデさんの口調は、どこか芝居じみてるって言うか、やっぱり魔物役者としての血が騒いじゃったかー。
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
彼女の手から噴き出す大爆煙。
しかも、指の間から出る爆煙にはひとつひとつ違った色が付いていた。
カラフルな8色。……芸が細かい。さすが上流階級。
謎の舞台は大好評のウチに閉幕――――しなかった。
「では、みなさま、お手元の資料の三枚目をご覧下さい」
は?
「ではココで、略式ながら悪虐令嬢ロットリンデの罪状認否を執り行いたいと思います!」
身構えるご令嬢にも、手渡される資料。
僕も空いてる客席に座り、ぺらり。三枚目を見た。
ソコには僕達がロットリンデさんから聞いた〝王都襲撃事件〟の顛末が書かれていた。
より詳細にまとめられた一部始終は、のちの世の事実ともあってると思う。
ロットリンデさんが身勝手な理由で迷惑を掛けた事実も、全部記載してある。
寺院のマークがうっすらと見えるから、少なくとも記載事項に虚偽はない。
「ふふぉふぉふぉ~♪ 其方が、ロットリンデ・ナァク・ルシランツェルと言うのは本当かね?」
ティーナさんの横に立つのは、魔導格闘術免許皆伝……じゃなくて、王立魔導アカデミーの高名な学者様。それなりの衣装で出てきたから、場の空気がキュッと締まった。
「――――ええ、学者様におかれましては、ご機嫌うるわしく。ウフフ♪」
スカートをつまみ腰を落として、元に戻す。
ソレだけの動作で、身の証が立つというのは凄いことだなあと思った。
さらに静まりかえる舞台会場。
僕なんかじゃ、どれだけ言葉を連ねたところで、自分が何者かなんて説明が出来ない。
そして、ここからだと、ロットリンデさんの横顔が見えた、
いつも通り目は笑ってない。
彼女が本気で笑うのは、僕を攻撃してるときか、何か食べてるときくらいのもんだ。
「被告ロットリンデ、こちらの書面に相違ありませんくわぁっ!?」
魔導格闘術開祖……じゃなくて、元王立魔導アカデミー所属の元宮廷魔導師が、被告人を激しく指差した。
「間違いありませんでしてよ。私が『魔導探求の末に王都の人民を苦しめたこと』は事実ですもの! 反省はしますけれど、後悔はありませんわっ!」
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
「「「「「「「ぅぉかぁしらぁー」」」」」」」
リンデ隊が悪党ロットリンデに感銘を受けているのが聞こえてくる。
たしかに、この状況であの啖呵は、そうそう切れるもんじゃない。
あと、なんか増えてないかリンデ隊。
「ふふぉふぉふぉ~♪ 豪気なことよのう。では沙汰を言い渡す。被告人ロットリンデはルシランテェル家が持つ爵位を返上ののち、無罪放免とする!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
みんな一緒にバカ騒ぎした後で、ロットリンデさんを責めようなんて冒険者はいない。
「「「「「「「「「「ぅぉかぁしらぁー」」」」」」」」」」
だから増えてるだろっ、リンデ隊。
「では、コチラをお受け取り下さぁい♪」
司会進行から、何か手渡されるリンデ隊長。
「なんですの? ……召喚状!? でも、たった今、無罪放免って!」
「ふふぉふぉふぉ~♪ ルシランテェル家の相続財産管理人と『遠見』の魔法で連絡を取ったところ、現在、ルシランテェル家の爵位は休止状態であると判明した。名乗れぬ爵位は返上できぬ。よって爵位を再び名乗るには、国王への申し立てが必要になるということじゃ。つまり簡単に言うと、王都中央議会所までご足労ねがいたい」
「王都中央議会所? それって、モロにヤツのテリトリーじゃありませんのっ! 宰相は存命ですのっ!?」
何か揉めだした。宰相って全てのイザコザと罪をロットリンデさんに丸投げして押しつけたって言う――
「ますます、お美しくなられて、王都中から魔物と呼ばれておるわい」
ふうん、宰相って女の人なのか。
ヒゲをさする高名な学者。体を動かす度に、筋肉で衣装が着崩れてきてる。
「お話になりませんわっ! 私、実家へ帰らせていただきます!」
逃げ出そうとするご令嬢を背後から羽交い締めにする魔導格闘術開祖。
あ、諦めた。魔導固めの恐ろしさは、身にしみてるからな。
それにしても、今駈け出そうとした方角ってフカフ村だよな。
間違っても王都じゃない。
って事は、間借りしてた宿屋ヴィフテーキもなくなっちゃったわけで……僕達が出会った初心者向けダンジョンに行こうとしたのか?
もう『ヴァミヤラーク洞穴』最下層への転移方陣は、壊れて消えて使えないのに……。
ぶわぁさわさわさぁ――!
涙目のご令嬢に舞い落ちる、関係資料とは別のチラシ。
必死にソレをつかむご令嬢。
ステージ上の雨よけみたいな天井からばらまかれたのは、『懸賞金付き賞金首手配書』だった。
僕も落ちてきたソレを拾い上げる。
絵のタッチは例のファローモ煎餅の袋と同じだったけど、この人物の描き方には悪意があった。
そう、コレはまるで、『破落戸まがいの傍若無人。口を開けば罵詈雑言、立てば癇癪座れば愚鈍。歩く姿は毒の花』
そう、この舞台の演目にもあった、語り伝えられた悪虐令嬢ロットリンデの再現だ。
まるでこの世の悪意を煮染めたような、底意地の悪さ。
「わぁーたぁーくぅーしぃー、こぉーんな性悪な顔はいたしてませんですわぁ――――!」
してる、してる。そのいつもの悪党顔は、コノ絵にちょっとだけ似てるよ?
『REVIVE OR ALIVE ~生死問わず。但し完全に蘇生可能な状態で王都の中央議会所まで連れてくること~』
似顔絵の下に書かれた文字は、古い王都文字で書かれてるみたいで、僕には読めない。
そもそも、僕は文字を読むのがソレほど得意ではない。
報告書を書くのだって、参考にしてとティーナさんに書いて貰ったのを丸写ししてるし。
「あのう、コレは何て書いてあるんですか?」
隣に座ってた、弓を背負った冒険者に聞いてみる。
「読めないッチか? えっと、王都の中央議会所に連れてきたら懸賞金が出るって書いてあるッチよ」
「懸賞金!? それっていくらくらい?」
金額は数字で書いてないから僕には分からない。
「『JACK POT』――――つまり、うなぎ登りの天井無しって事ッチよっ!」
ヒャッハァー♪
弓使いが突然、悪鬼のような顔つきになって、ステージに向かって弓を構えた!
「そうですぜ、ジュークの坊ちゃん。あっしの妖刀リキラ丸にだって、『リキラ丸』っていうご立派な銘がありまさぁ」
「じゃあ、あたしは妖刀『ヴィフテーキ丸』にしようっと」
「ぅおまちなさい? なに勝手に素っ頓狂な命名してますの? その角刀を使うには私も立ち会う必要があるのでしょう? そんな品性の欠片もない命名は却下ですわ却下!」
ティーナさんが会議に出席中で助かった。
大事な宿屋の屋号を〝品性の欠片もない〟なんて言われたら、濁流魔法か魔導固めが炸裂してた所だ。
「――だよね。僕が考えた〝モクブーコ〟って名前と変わらないじゃんか。バクチさんのマネだし……」
「「「「「いーえ、モクブーコは論外!」」」」ですわ!」
どうしても、〝モクブーコ〟はダメっぽい。
モクブートじゃないから、どうせ使えないけど。
「えっと、片角や小刀、一本角を言い換えてみてはいかがかしら……『小角』……『小柄』……『独角』……『一角』……あとは『隻刀』――」
ロットリンデさんが謎の言葉を羅列していく。
「――イッカク! 妖刀『イッカク』にする!」
「でも、妖刀じゃないよ。暗いところで赤く光ったりしないし……『国宝級……SSS級レアの神格兵器』だっけ、ティーナさんが言ってたのって……」
「じゃ、神剣『イッカク』でー♪」
軽い。軽いなー。それはトゥナの良いところだけどさー。
ワイワイワイワイ、ガヤガヤガヤガヤ!
丸太小屋からの喧騒に、全員がそっちを見た。
いま丸太小屋では、魔導格闘術一門とギルドの人たち、それとワーフさん達みたいな職人を集めて、会議の真っ最中。
議題はティーナさんがばらまいた、このチラシの件だ。
『キャンプ設営・運営は
宿泊とお食事のプロにお・ま・か・せ❤
宿屋ヴィフテーキ食堂
後援:コッヘル商会』
丸太小屋の中は、〝キャンプ設営計画に一枚咬ませろと乗り込んできた迫力ボディーの美人商会長〟に、さぞかし翻弄されていることだろう。
声に驚いたファロ子が僕の背中に張り付いた。
ははは、かわいい――けど、ツノがゴリゴリって肩甲骨に当たる――――HP47/51!
§
「でわみなさま~、ご静粛に~!」
魔導アーツ一門が取り仕切るこの場で、騒ぐ奴はいない。
ファロ子でさえ僕の脇腹に角を押しつけて大人しくしてる――――HP43/51!
っていうか、ギルドの二人はどこ行った?
ココは、キノコで蹂躙されたキャンプ前。
整地されて板張りの巨大フロアが出来上がっている。
その一画に作られた、大がかりな舞台も公演できそうなステージ。
観客席もフカフ村住人全員が座れるくらい沢山有る。
「まず、森の主幼体である、〝ロ子ちゃん〟の処遇が決まりましたぁ!」
元がボバボーンな美女だけに、真面目にするとものすごくサマになっている。
ロットリンデと僕とトゥナ、そしてファロ子は、ステージ横の長椅子に座らされていた。
しかも別に幕でさえぎられてるわけじゃないから……何コノさらし者状態。
そして名指しされた〝僕に張り付くファロ子〟に注目が集まりつづける。
ティーナさん、何タメてんの、早く進行して――――MP48/49。
ほら、いま減ったじゃんか精神力が!
「正直言ってぇ、この幼子に物理及び魔法戦で勝利することは適いません!」
ざわつく会場。そりゃそうだ。「殴っても火の玉をぶつけても効かない」って言っているのだから。
「ですが、ご・安・心下さい♪ 我が娘――じゃなかった、我がコッヘル商会直属の凄腕拳闘士が皆様をお守りいたしまぁす!」
さっき、よってたかってトゥナを身繕いさせてたのはソレか。
おずおずと頭を掻きながらステージ中央に歩いて行くトゥナ。
あれはさすがに同情する。頑張れ。
「凜々しいぜー」「かわいーわよー」
かすかに励ます声が聞こえてくる。多分ロットリンデ隊……長いからリンデ隊って呼ぶことにする。
さすがに小柄な女の子が一人出て行って凄腕拳闘士なんて言われても、納得する奴なんていない。
実際には、トゥナのレベルは今やロットリンデさんの全盛期に肉薄していて、ココに居る全員が束になっても勝てるかどうかは怪しい(ファロ子以外)んだけど。
ワーフさんが半日がかりで用意してくれたのは、トゥナの防具一式と一振りの短剣。
防具は、銅色に光り輝いていて、前のヤツより体を覆うところが多い。
胸部が不相応に出っ張ってるけど、今ステージ上で冒険者達から喝采を浴びる母親《ティーナさん》のボバボーンぶりを考えると、あながち――
「コラ、ジューク。そんな眼で淑女を見るモノじゃなくってよ」
ロットリンデさんにほっぺたを引っ張られた。
ファロ子までマネして反対側を引っ張り始めた。
やめろ、やめて――――HP41/51!
「――そして、みなさま大変お待たせ致しましたぁー! 本日の主役にご登場していただきましょう!」
進行するステージ上。主役って誰のことだろう?
トゥナとファロ子の、お披露目じゃないの?
「――ルシランツェル家の反逆者にして……」
あ、コレは駄目なヤツだな。
ピンときた僕は、ファロ子を抱えてステージを横から降りた。
「……破落戸まがいの傍若無人」――
「「「「「「おおおおぉー!」」」」」」
「口を開けば罵詈雑言――」
「「「「「「おそろしー!」」」」」」
「立てば癇癪座れば愚鈍――」
「「「「「「やめてー!」」」」」」
「歩く姿は毒の花とまでいわれ、とうとう断罪さ――――」
「「「「「「いやぁぁぁ!」」」」」」
観客達まで一緒になって盛り上げている。
この茶番は、客席に紛れ込ませたリンデ隊が扇動している。
悪い見た目にそぐわず彼ら、彼女らは優秀だった。
「ちょっと! ソコまで言わなくても、よろしいのでわなくて!?」
あー、飛び出しちゃった。ご本人が。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なにその、絹を裂くような少女声。トゥナかと思った。
ティーナさんの大声に驚いて半歩飛び退く、ロットリンデさん。
「出・た・わー! 吸血鬼・ロッ・ト・リ・ン・デ・よぉうー! ――よいしょっと」
何故か取り出す伝家の宝刀。いつもティーナさんが使ってる魔法杖だ。
「――――フフフフフフッ、さ・す・が・は・宮廷魔導師、バレちゃぁ仕方が有りませんわっ! そうよ私が、かの悪名高い〝悪逆令嬢、吸血姫ロットリンデ〟よーー!」
ロットリンデさんの口調は、どこか芝居じみてるって言うか、やっぱり魔物役者としての血が騒いじゃったかー。
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
彼女の手から噴き出す大爆煙。
しかも、指の間から出る爆煙にはひとつひとつ違った色が付いていた。
カラフルな8色。……芸が細かい。さすが上流階級。
謎の舞台は大好評のウチに閉幕――――しなかった。
「では、みなさま、お手元の資料の三枚目をご覧下さい」
は?
「ではココで、略式ながら悪虐令嬢ロットリンデの罪状認否を執り行いたいと思います!」
身構えるご令嬢にも、手渡される資料。
僕も空いてる客席に座り、ぺらり。三枚目を見た。
ソコには僕達がロットリンデさんから聞いた〝王都襲撃事件〟の顛末が書かれていた。
より詳細にまとめられた一部始終は、のちの世の事実ともあってると思う。
ロットリンデさんが身勝手な理由で迷惑を掛けた事実も、全部記載してある。
寺院のマークがうっすらと見えるから、少なくとも記載事項に虚偽はない。
「ふふぉふぉふぉ~♪ 其方が、ロットリンデ・ナァク・ルシランツェルと言うのは本当かね?」
ティーナさんの横に立つのは、魔導格闘術免許皆伝……じゃなくて、王立魔導アカデミーの高名な学者様。それなりの衣装で出てきたから、場の空気がキュッと締まった。
「――――ええ、学者様におかれましては、ご機嫌うるわしく。ウフフ♪」
スカートをつまみ腰を落として、元に戻す。
ソレだけの動作で、身の証が立つというのは凄いことだなあと思った。
さらに静まりかえる舞台会場。
僕なんかじゃ、どれだけ言葉を連ねたところで、自分が何者かなんて説明が出来ない。
そして、ここからだと、ロットリンデさんの横顔が見えた、
いつも通り目は笑ってない。
彼女が本気で笑うのは、僕を攻撃してるときか、何か食べてるときくらいのもんだ。
「被告ロットリンデ、こちらの書面に相違ありませんくわぁっ!?」
魔導格闘術開祖……じゃなくて、元王立魔導アカデミー所属の元宮廷魔導師が、被告人を激しく指差した。
「間違いありませんでしてよ。私が『魔導探求の末に王都の人民を苦しめたこと』は事実ですもの! 反省はしますけれど、後悔はありませんわっ!」
――――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
「「「「「「「ぅぉかぁしらぁー」」」」」」」
リンデ隊が悪党ロットリンデに感銘を受けているのが聞こえてくる。
たしかに、この状況であの啖呵は、そうそう切れるもんじゃない。
あと、なんか増えてないかリンデ隊。
「ふふぉふぉふぉ~♪ 豪気なことよのう。では沙汰を言い渡す。被告人ロットリンデはルシランテェル家が持つ爵位を返上ののち、無罪放免とする!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
みんな一緒にバカ騒ぎした後で、ロットリンデさんを責めようなんて冒険者はいない。
「「「「「「「「「「ぅぉかぁしらぁー」」」」」」」」」」
だから増えてるだろっ、リンデ隊。
「では、コチラをお受け取り下さぁい♪」
司会進行から、何か手渡されるリンデ隊長。
「なんですの? ……召喚状!? でも、たった今、無罪放免って!」
「ふふぉふぉふぉ~♪ ルシランテェル家の相続財産管理人と『遠見』の魔法で連絡を取ったところ、現在、ルシランテェル家の爵位は休止状態であると判明した。名乗れぬ爵位は返上できぬ。よって爵位を再び名乗るには、国王への申し立てが必要になるということじゃ。つまり簡単に言うと、王都中央議会所までご足労ねがいたい」
「王都中央議会所? それって、モロにヤツのテリトリーじゃありませんのっ! 宰相は存命ですのっ!?」
何か揉めだした。宰相って全てのイザコザと罪をロットリンデさんに丸投げして押しつけたって言う――
「ますます、お美しくなられて、王都中から魔物と呼ばれておるわい」
ふうん、宰相って女の人なのか。
ヒゲをさする高名な学者。体を動かす度に、筋肉で衣装が着崩れてきてる。
「お話になりませんわっ! 私、実家へ帰らせていただきます!」
逃げ出そうとするご令嬢を背後から羽交い締めにする魔導格闘術開祖。
あ、諦めた。魔導固めの恐ろしさは、身にしみてるからな。
それにしても、今駈け出そうとした方角ってフカフ村だよな。
間違っても王都じゃない。
って事は、間借りしてた宿屋ヴィフテーキもなくなっちゃったわけで……僕達が出会った初心者向けダンジョンに行こうとしたのか?
もう『ヴァミヤラーク洞穴』最下層への転移方陣は、壊れて消えて使えないのに……。
ぶわぁさわさわさぁ――!
涙目のご令嬢に舞い落ちる、関係資料とは別のチラシ。
必死にソレをつかむご令嬢。
ステージ上の雨よけみたいな天井からばらまかれたのは、『懸賞金付き賞金首手配書』だった。
僕も落ちてきたソレを拾い上げる。
絵のタッチは例のファローモ煎餅の袋と同じだったけど、この人物の描き方には悪意があった。
そう、コレはまるで、『破落戸まがいの傍若無人。口を開けば罵詈雑言、立てば癇癪座れば愚鈍。歩く姿は毒の花』
そう、この舞台の演目にもあった、語り伝えられた悪虐令嬢ロットリンデの再現だ。
まるでこの世の悪意を煮染めたような、底意地の悪さ。
「わぁーたぁーくぅーしぃー、こぉーんな性悪な顔はいたしてませんですわぁ――――!」
してる、してる。そのいつもの悪党顔は、コノ絵にちょっとだけ似てるよ?
『REVIVE OR ALIVE ~生死問わず。但し完全に蘇生可能な状態で王都の中央議会所まで連れてくること~』
似顔絵の下に書かれた文字は、古い王都文字で書かれてるみたいで、僕には読めない。
そもそも、僕は文字を読むのがソレほど得意ではない。
報告書を書くのだって、参考にしてとティーナさんに書いて貰ったのを丸写ししてるし。
「あのう、コレは何て書いてあるんですか?」
隣に座ってた、弓を背負った冒険者に聞いてみる。
「読めないッチか? えっと、王都の中央議会所に連れてきたら懸賞金が出るって書いてあるッチよ」
「懸賞金!? それっていくらくらい?」
金額は数字で書いてないから僕には分からない。
「『JACK POT』――――つまり、うなぎ登りの天井無しって事ッチよっ!」
ヒャッハァー♪
弓使いが突然、悪鬼のような顔つきになって、ステージに向かって弓を構えた!
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