紅蓮慕情

井海博人

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花の跡 二

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 ところが、姉は次に俺が思ってもいなかったようなことを口にした。

「だって、お見合いしたら和くん怒るでしょ……?」

 何だ、それ。

ついこないだみたいにまた俺が怒ってひどいことされると困るから、先に俺の意見を求めとこうって? 

俺に逆らって怒らせるのが怖いから見合いしたくないとかそういうこと?

「姉さんが見合いしたら、何で俺が怒るんだよ」

 自分の気持ちを見透かされた気がして、俺は思わずそう尋ね返していた。

 姉さんを独占できないから、玩具を取られた子供みたいに俺が駄々をこねるんじゃないかって?

 だから、優しい姉さんは姉として弟の機嫌を取ろうってわけ?

 またそれかよ。あくまで俺の姉でいようとするのか。

繋がることができるのは体だけで、それも俺が一方的な繋がりを求めているだけで、姉にとってはどう転んでも自分が弟でしかないことを見せ付けられる。

「……怒らない……?」

 姉は、恐る恐る俺を見上げて聞いてきた。

 怒るよ。怒るし無性にむかつくし絶対に嫌だ。

 だけど、俺がその気持ちをぶつけて姉を止めたら、逆に彼女は意地になって見合いに行き結婚まで決めてくるんじゃないかと思えた。

それは――俺にとって最悪の事態だ。

「勝手にしろよ」

 だから、そう言い捨ててその場から立ち去ることしかできなかった。

自分の言葉の手前、姉に指一本触れることなくその脇を通り過ぎて。

 部屋に戻っても自分がひどく惨めで、だけどどうすればよかったのかも分からなくて、俺は何もせずにベッドの片隅でジッとうずくまっていた。











 翌日、母はすぐに見合い相手の写真を手に入れてきた。

姉も盛装してフォトスタジオに写真を取りに行き、それも無事相手の手に渡ったようだ。

当然一目見て先方は是非姉に会ってみたいと言い出したらしく、案の定話の流れで姉は見合いを約束させられた。

その後、六月初旬の吉日の日曜日に行われるらしい見合いの日まで、夕食に間に合うように帰ってきては母親は仕入れてきた見合い相手の情報を楽しげに姉に語って聞かせた。

その大半は相手がどれだけいい人か、この見合いの条件がどれだけいいかという話で、母が姉の心変わりを心配し、見合いまでに引き返せない心理状況に追いやろうとしているのは明らかだった。

 そんな母親のはしゃいだ様子と、それに応えようとしている姉を苦々しく思いながら、俺は彼女を抱く機会もないまま遠巻きに眺めているしかなかった。

ちょうど中間テストも始まったため、とりあえずは勉強へと意識を集中させる。

姉が母の話を興味深く聞いているところや、見合いに着ていく服を二人で選んでいるところなど、見たくもない。

 姉の見合い前日の土曜の昼、俺が帰宅すると最近姉にベッタリだった母親の姿が見えなかった。

どうやら、翌日の見合い本番に向けて楢原さんとやらと最終の打ち合わせに出かけたらしい。

漏れ聞いたところによると、この話を楢原さんに持ってきた会社の取引先の社長が仲人に立つようだ。

母はその人とは直接面識がないから、より入念に段取りを整えるのだろう。

たかが見合いにそこまで下準備が必要かと思うが、母は必要以上に浮き足立っていて、ただ単にジッとしていられないらしい。

反面、姉は見合いの日が近づくにつれて表情が暗くなり、気持ちを沈みこませているように見える。

母もそれは気づいていて、「ちょっと会ってお話するだけなんだから、そんなに緊張することないのよ」と励ましていたが、俺にはそれだけじゃないように思えた。

 だから嫌なら嫌って言っときゃよかったんだよ。

 どうせ母親がいるんだろうと思って悟志と昼飯を食っていたため、俺が帰宅したのは午後二時過ぎだった。

母親が出かけていることに気づくと、荷物を放り出して制服のまままっすぐに姉の部屋に向かう。

僅かなチャンスを逃す手はない。

口実一つ口にせず嫌がる彼女の腕を掴んで強引に自分の部屋まで連れてくる。

「和くん、いやっ! したくないのっ……」

 磨きこまれた廊下を引きずられてくる間、姉はそんなことを言い出した。

新しい抵抗のセリフだ。

「今日は」ってことなのか「永久に」ってことなのか、答えを聞きたい。

「するなんて言ってないよ」

 腕を掴み肩を抱いて部屋の中へ押し入れながら俺がそう答えると、姉は体の力を抜いて疑問顔になった。

「……しないの……?」

 心なしその声と顔から残念そうな気配が読み取れるのは、俺の勘違いだろうか。

俺が姉に近づくイコール彼女を無理に抱くと理解されているなら、心外と思えばいいのか光栄と思えばいいのか。

「するに決まってんだろ」

 当然俺はそう宣言し、鍵を閉めて後ろから抱きしめながら有無を言わせず早速服を脱がせにかかった。

 今日の姉は何だかエスニックな服装だ。

背中で紐を結んで着るタイプの、エプロンドレスとかいうらしい、一見マタニティっぽくも見える茶色のワンピースは象だの花だのの縫い取りがしてあるせいか幼稚園児の服装みたいだ。

体の線が見えないから姉自身も何だか幼く見える。

 そのワンピースの紐をほどき肩から抜いて床に落としてやると、下に着ている白い長Tも脱がそうと手をかける。

姉は当然抵抗したが、俺が一言「破くよ」と忠告すると、大人しくなった。

下着姿にすると髪をまとめていたバレッタもはずし髪を解いてやった。

俺は姉を抱いている時に、彼女の髪が流れるのを見るのが結構好きだったりする。
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