冥婚悲恋歌

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
13 / 18
第二歌

しおりを挟む
 この日。私は今までの分を埋めるかのように話をした。殿下も話してくださった。納得してくださったのか、くださらなかったのか分からないけれど、この日を境に少しだけ会話は増えた気がする。

 でも、やっぱり口数が少ないのは変わらないみたい。「ああ」とか「うん」とか。多少は増えたけど、やっぱり「そうか」が多いのよね。うふふ、それで会話が成り立つのが不思議よね。



 そして私は最後まで言葉を惜しまなかった。


 私はこの国が好きよ。
 貴方が好きよ。
 冥妃様も大好き。

 だから自分の選択を後悔していないし、何度だって同じ選択をするわ。だから悲しまないでいいし、苦しまなくていいの。持てる荷物は自分で持って行くから。

 だから、貴方はどうか、私がどうしても持っていけないものを守って欲しい――。

 何度も何度も繰り返した。
 そして彼も「そうか」と言った。



 そして――。




「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」


「おめでとうございます。殿下、元気な女の子です」

「そうか」


 ふふ…ふ……最後まで「そうか」なの、ね――






「君が初めてこの国へと来たとき、なるべく親しくしないようにしていたんだ。悪役令嬢教育を受けて真実を知った時、その方が逃げ出しやすいと思ったから。でも、君は最初から全てを知っていたんだね」

――ぴゅう――

「ほら、式を挙げる前。一度国へと帰しただろう。アレが君を自由にしてあげられる最後のチャンスだと思っていたんだ。だから、君から里帰りの延長を求められたとき、ああ、これでようやく解放してあげられると安心したのに。君ときたら何事もなく戻ってくるから驚いたよ。あのときは流石に頭が真っ白になったな」

――ぴゅう――

「それにまさか、あんなにすぐに子供が出来るとは。カウントダウンが始まるのが早すぎるとは思わないか? 思ったよりも共に過ごす時間が少なくて、後で後悔したよ。言葉を惜しまずにもっと話しておけば良かったなって」

――ぴゅうぅ――
――ぴゅう――



 メーコンの夏の夜会に国王が出席することはない。王妃が王太子妃に。形だけとはいえそれを繰り返してきたこの国の歪みを最小限にするための苦肉の策だ。


 そんななか。とある時代の国王は、時折、夏の夜会の夜に兵士の詰め所にふらりと現れては差し入れを持ってきたという。そのときには兵士たちはそっとその場から姿を消す。

 夜会会場からほど近いその場所は、冥婚悲恋歌が聞こえる位置にある。

 国王は兵士の詰め所の入り口に腰を掛けると。

 日頃口数の少ない国王が、その時ばかりは珍しく饒舌に何かを語り出す。

――そう――そう――
――そうなの?――そう――

 そんなときには不思議と、それに答えるかのような、穏やかな風が吹いたと言う。



 悲劇的な最期を迎える王族が多い中、この国王は最後まで国を支え続けた。娘が続き中々男子に恵まれなかったが、彼は放り出したりしなかった。ようやく授かった王子が成人し、冥妃が王子へと移っても彼は国と王太子を支え続けた。


 時々、何事かを夏の夜会の夜に兵士の詰め所前で呟いている姿を目撃されているが、風の音にかき消されて内容までは聞こえない。答えるのは風のみだ。


 そして不思議なことに。
 国王が崩御すると、時折聞こえていたその相槌のような冥婚悲恋歌も聞こえなくなったと言われている。



 ――ある兵士の日報より



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

きちんと別れ話ができなかった結果。

下菊みこと
恋愛
久々のヤンデレ。二人ともお互いにスーパーハイパー自業自得なお話。でも可哀想。 スーパーハイパーバッドエンド。とても可哀想。誰も幸せにならない。 ヤンデレかつバッドエンドで二人ともだいぶ自分勝手なので嫌な予感のする方は閲覧注意。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

ずっとお慕いしております。

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄される令嬢のお話。 アンハッピーエンド。 勢いと気分で書きました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢シルベチカの献身

salt
恋愛
 この物語は、気が付かなかった王太子と、ただひたすらに献身を捧げた公爵令嬢の物語。  王太子、ユリウス・アラウンド・ランフォールドは1年前、下級貴族の子爵令嬢に非道な行いをしたとして、悪役令嬢シルベチカ・ミオソティス・マスティアートに婚約破棄を言い渡し、国外追放の刑を受けた彼女を見送った。  1年後、新たな婚約者となった子爵令嬢の不調をきっかけに、王太子は真実を知る。  何も気が付かなかった王太子が  誰が被害者で、  誰が加害者で、  誰が犠牲者だったのかを知る話。  悲恋でメリバで切なくてしんどいだけ。  “誰も悪くない”からこそ“誰も救われない”  たったひとつ、決められた希望を求めた結果、救いがない物語。  かなり人を選ぶ話なので、色々と許せる方向け。 *なろう、pixivに掲載していたものを再掲載しています。  既に完結済みの作品です。 *10の編成からなる群像劇です。  1日に1視点公開予定です。

愚者の恋

メカ喜楽直人
恋愛
貴族学園の卒業式が始まろうとしていたその時。愚かな妬心に狂ったひとりの女生徒が断罪されようとしていた。

彼女の選んだ未来

椿森
恋愛
彼女が知りうる限りの真実を持ってして、彼女自身が選択した未来のために。 ※暗く、鬱な内容です。自己防衛をお願いいたします。 救いはありません。

処理中です...