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第二歌
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この日。私は今までの分を埋めるかのように話をした。殿下も話してくださった。納得してくださったのか、くださらなかったのか分からないけれど、この日を境に少しだけ会話は増えた気がする。
でも、やっぱり口数が少ないのは変わらないみたい。「ああ」とか「うん」とか。多少は増えたけど、やっぱり「そうか」が多いのよね。うふふ、それで会話が成り立つのが不思議よね。
そして私は最後まで言葉を惜しまなかった。
私はこの国が好きよ。
貴方が好きよ。
冥妃様も大好き。
だから自分の選択を後悔していないし、何度だって同じ選択をするわ。だから悲しまないでいいし、苦しまなくていいの。持てる荷物は自分で持って行くから。
だから、貴方はどうか、私がどうしても持っていけないものを守って欲しい――。
何度も何度も繰り返した。
そして彼も「そうか」と言った。
そして――。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」
「おめでとうございます。殿下、元気な女の子です」
「そうか」
ふふ…ふ……最後まで「そうか」なの、ね――
「君が初めてこの国へと来たとき、なるべく親しくしないようにしていたんだ。悪役令嬢教育を受けて真実を知った時、その方が逃げ出しやすいと思ったから。でも、君は最初から全てを知っていたんだね」
――ぴゅう――
「ほら、式を挙げる前。一度国へと帰しただろう。アレが君を自由にしてあげられる最後のチャンスだと思っていたんだ。だから、君から里帰りの延長を求められたとき、ああ、これでようやく解放してあげられると安心したのに。君ときたら何事もなく戻ってくるから驚いたよ。あのときは流石に頭が真っ白になったな」
――ぴゅう――
「それにまさか、あんなにすぐに子供が出来るとは。カウントダウンが始まるのが早すぎるとは思わないか? 思ったよりも共に過ごす時間が少なくて、後で後悔したよ。言葉を惜しまずにもっと話しておけば良かったなって」
――ぴゅうぅ――
――ぴゅう――
メーコンの夏の夜会に国王が出席することはない。王妃が王太子妃に。形だけとはいえそれを繰り返してきたこの国の歪みを最小限にするための苦肉の策だ。
そんななか。とある時代の国王は、時折、夏の夜会の夜に兵士の詰め所にふらりと現れては差し入れを持ってきたという。そのときには兵士たちはそっとその場から姿を消す。
夜会会場からほど近いその場所は、冥婚悲恋歌が聞こえる位置にある。
国王は兵士の詰め所の入り口に腰を掛けると。
日頃口数の少ない国王が、その時ばかりは珍しく饒舌に何かを語り出す。
――そう――そう――
――そうなの?――そう――
そんなときには不思議と、それに答えるかのような、穏やかな風が吹いたと言う。
悲劇的な最期を迎える王族が多い中、この国王は最後まで国を支え続けた。娘が続き中々男子に恵まれなかったが、彼は放り出したりしなかった。ようやく授かった王子が成人し、冥妃が王子へと移っても彼は国と王太子を支え続けた。
時々、何事かを夏の夜会の夜に兵士の詰め所前で呟いている姿を目撃されているが、風の音にかき消されて内容までは聞こえない。答えるのは風のみだ。
そして不思議なことに。
国王が崩御すると、時折聞こえていたその相槌のような冥婚悲恋歌も聞こえなくなったと言われている。
――ある兵士の日報より
でも、やっぱり口数が少ないのは変わらないみたい。「ああ」とか「うん」とか。多少は増えたけど、やっぱり「そうか」が多いのよね。うふふ、それで会話が成り立つのが不思議よね。
そして私は最後まで言葉を惜しまなかった。
私はこの国が好きよ。
貴方が好きよ。
冥妃様も大好き。
だから自分の選択を後悔していないし、何度だって同じ選択をするわ。だから悲しまないでいいし、苦しまなくていいの。持てる荷物は自分で持って行くから。
だから、貴方はどうか、私がどうしても持っていけないものを守って欲しい――。
何度も何度も繰り返した。
そして彼も「そうか」と言った。
そして――。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」
「おめでとうございます。殿下、元気な女の子です」
「そうか」
ふふ…ふ……最後まで「そうか」なの、ね――
「君が初めてこの国へと来たとき、なるべく親しくしないようにしていたんだ。悪役令嬢教育を受けて真実を知った時、その方が逃げ出しやすいと思ったから。でも、君は最初から全てを知っていたんだね」
――ぴゅう――
「ほら、式を挙げる前。一度国へと帰しただろう。アレが君を自由にしてあげられる最後のチャンスだと思っていたんだ。だから、君から里帰りの延長を求められたとき、ああ、これでようやく解放してあげられると安心したのに。君ときたら何事もなく戻ってくるから驚いたよ。あのときは流石に頭が真っ白になったな」
――ぴゅう――
「それにまさか、あんなにすぐに子供が出来るとは。カウントダウンが始まるのが早すぎるとは思わないか? 思ったよりも共に過ごす時間が少なくて、後で後悔したよ。言葉を惜しまずにもっと話しておけば良かったなって」
――ぴゅうぅ――
――ぴゅう――
メーコンの夏の夜会に国王が出席することはない。王妃が王太子妃に。形だけとはいえそれを繰り返してきたこの国の歪みを最小限にするための苦肉の策だ。
そんななか。とある時代の国王は、時折、夏の夜会の夜に兵士の詰め所にふらりと現れては差し入れを持ってきたという。そのときには兵士たちはそっとその場から姿を消す。
夜会会場からほど近いその場所は、冥婚悲恋歌が聞こえる位置にある。
国王は兵士の詰め所の入り口に腰を掛けると。
日頃口数の少ない国王が、その時ばかりは珍しく饒舌に何かを語り出す。
――そう――そう――
――そうなの?――そう――
そんなときには不思議と、それに答えるかのような、穏やかな風が吹いたと言う。
悲劇的な最期を迎える王族が多い中、この国王は最後まで国を支え続けた。娘が続き中々男子に恵まれなかったが、彼は放り出したりしなかった。ようやく授かった王子が成人し、冥妃が王子へと移っても彼は国と王太子を支え続けた。
時々、何事かを夏の夜会の夜に兵士の詰め所前で呟いている姿を目撃されているが、風の音にかき消されて内容までは聞こえない。答えるのは風のみだ。
そして不思議なことに。
国王が崩御すると、時折聞こえていたその相槌のような冥婚悲恋歌も聞こえなくなったと言われている。
――ある兵士の日報より
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