7 / 7
7 真実の愛見つけた(妹視点)
しおりを挟む
とにかくお姉さまとお話ししたい。そう思った私はベッドを抜け出した。廊下に出ると窓の外からお姉さまの声が聞こえたので覗いてみると、下の中庭にお姉さまとメイズがいた。
どうやらここは上の方の階のようだ。でも、夜だからか静かでとてもよく話が聞こえる。
「ごめんなさい。どなたか分からないけど、私王宮に帰らないといけないの。ここへは奉仕活動で来ているだけなのよ」
「君の妹と離婚する!! だから、頼むよ、どうか君から妹に伝えてくれないか」
「そんなことを私に言われても困るわ。妹なんて知らないもの。どうして貴方が本人に言わないの?」
「君は忘れてしまっているかもしれないが、アイリスは魅了の力を持っているんだ。本人を目の前にすると、どうしても離婚の意思を伝えられない」
「あら、じゃあ、私にも無理だわ。私、先ほどもそうだったけど、あの可愛らしい子を見ると愛しくて愛しくてどうしようもなくなっちゃうの。だから、そんな傷つけるようなことは言えないわ」
「あの子が産まれる前から愛していた君だけは魅了にかかっていなかったんだ。だから、君だけはスキルに妨害されずに厳しい言葉も伝えられたんだ。本当の意味でアイリスを愛していたから。不安定な妹を、家族を、君は真実の愛で守っていた。僕は――そんな君をずっと愛していた」
「そんなこと言われても困るわよ。貴方のことも妹のことも覚えていないもの。ああ、そうだ。それなら今度はあなたが真実の愛であの子を愛せばいいんじゃない? そうしたら、ちゃんと自分で伝えられるわよ」
これで解決ね! そう言ってお姉さまはイルガード様と共に馬車に乗って帰って行った。
窓の外で崩れ落ちるメイズが見える。ああ、あれがメイズの本心だったのね。やはり私を愛してなんかいなかった。メイズが愛していたのはお姉さまだったのよ。
真実、愛していた人に忘れられるなんて可哀想。でも、それは私も同じだわ。産まれた時から、みんなが私を愛してくれるけど、どこか何かが不自然だった。お姉さまだけだった。お姉さまだけが、私を本当に愛してくれていた。
なのに、私を愛してくれていたお姉さまはもういない。
お姉さまの婚約者を奪った私は見捨てられてしまった。記憶ごと切り捨てられてしまった。それとも、いつまでも満足しない私に疲れちゃったのかしら。
私が本当に欲しかったモノは、ちゃんと産まれる前から持っていたのに。手を伸ばせば届く距離にあったのに。
消えてしまった今はどこに手を伸ばせばいいのかも分からない。
「ごめんなさい、お姉さま……」
答えてくれる人はもういない。
それから私は真実の愛を外に求めるのはやめた。記憶の中のお姉さまがあれこれ教えてくれる。
あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目。そんな意地悪な言葉の方にこそ価値があるのを今は知っている。
メイズは不思議そうだった。彼が本心では私と別れたいのは知っている。私を目の前にすると言えなくなってしまうのも。あのとき彼の本心を聞けたから私は気付けたの。
でも、まだ一人では無理。頼る人が必要だわ。だから、せめて付き合わせてしまう彼には誠実でいようと思った。それは、お手本があるから大丈夫。メイズとお姉さまが婚約していた頃のお姉さまがお手本よ。私がメイズからそれを奪ってしまったのだから、せめて似た何かを返さなきゃ。
そんな暮らしをしていたら、何故かいろんな不満が無くなっていった。同時に両親や夫、周囲からも違和感を覚えることが少なくなった。
そう言えば、小さい頃からお姉さまがいつも言っていたわ。私の心が安定していると「魅了の力」が治まるんだって。
お姉さまってすごいのね。記憶に残っているだけでもどんなに愛してくれていたのかが分かる。そんなお姉さまを裏切った私ってなんて最低だったのかしら。
ごめんなさい、ごめんなさいお姉さま。
一日に何回も謝っているわ。決して許されはしないけど。
そうしてやっと人生を終えるとき。
「アイリス、浮気を繰り返す君は最低だった。あの頃、僕はずっと君と離婚がしたかった。ああ、やっと言えた」
メイズのそんな声が聞こえた。ああ、やっと本心が聞けた。私の魅了の力が無くなったのか、死にかけているからなのか、理由は分からない。でも、お姉さまのおっしゃる通りだったわ。
私、幸せだったような気がするの。でも、やっぱりお姉さまに言えないのだけが心残り。
ごめんなさい、ごめんなさい、お姉さま。
そして、ありがと、う――おねえ、さ、ま……
…………
……
…
どうやらここは上の方の階のようだ。でも、夜だからか静かでとてもよく話が聞こえる。
「ごめんなさい。どなたか分からないけど、私王宮に帰らないといけないの。ここへは奉仕活動で来ているだけなのよ」
「君の妹と離婚する!! だから、頼むよ、どうか君から妹に伝えてくれないか」
「そんなことを私に言われても困るわ。妹なんて知らないもの。どうして貴方が本人に言わないの?」
「君は忘れてしまっているかもしれないが、アイリスは魅了の力を持っているんだ。本人を目の前にすると、どうしても離婚の意思を伝えられない」
「あら、じゃあ、私にも無理だわ。私、先ほどもそうだったけど、あの可愛らしい子を見ると愛しくて愛しくてどうしようもなくなっちゃうの。だから、そんな傷つけるようなことは言えないわ」
「あの子が産まれる前から愛していた君だけは魅了にかかっていなかったんだ。だから、君だけはスキルに妨害されずに厳しい言葉も伝えられたんだ。本当の意味でアイリスを愛していたから。不安定な妹を、家族を、君は真実の愛で守っていた。僕は――そんな君をずっと愛していた」
「そんなこと言われても困るわよ。貴方のことも妹のことも覚えていないもの。ああ、そうだ。それなら今度はあなたが真実の愛であの子を愛せばいいんじゃない? そうしたら、ちゃんと自分で伝えられるわよ」
これで解決ね! そう言ってお姉さまはイルガード様と共に馬車に乗って帰って行った。
窓の外で崩れ落ちるメイズが見える。ああ、あれがメイズの本心だったのね。やはり私を愛してなんかいなかった。メイズが愛していたのはお姉さまだったのよ。
真実、愛していた人に忘れられるなんて可哀想。でも、それは私も同じだわ。産まれた時から、みんなが私を愛してくれるけど、どこか何かが不自然だった。お姉さまだけだった。お姉さまだけが、私を本当に愛してくれていた。
なのに、私を愛してくれていたお姉さまはもういない。
お姉さまの婚約者を奪った私は見捨てられてしまった。記憶ごと切り捨てられてしまった。それとも、いつまでも満足しない私に疲れちゃったのかしら。
私が本当に欲しかったモノは、ちゃんと産まれる前から持っていたのに。手を伸ばせば届く距離にあったのに。
消えてしまった今はどこに手を伸ばせばいいのかも分からない。
「ごめんなさい、お姉さま……」
答えてくれる人はもういない。
それから私は真実の愛を外に求めるのはやめた。記憶の中のお姉さまがあれこれ教えてくれる。
あれをやっちゃ駄目、これをやっちゃ駄目。そんな意地悪な言葉の方にこそ価値があるのを今は知っている。
メイズは不思議そうだった。彼が本心では私と別れたいのは知っている。私を目の前にすると言えなくなってしまうのも。あのとき彼の本心を聞けたから私は気付けたの。
でも、まだ一人では無理。頼る人が必要だわ。だから、せめて付き合わせてしまう彼には誠実でいようと思った。それは、お手本があるから大丈夫。メイズとお姉さまが婚約していた頃のお姉さまがお手本よ。私がメイズからそれを奪ってしまったのだから、せめて似た何かを返さなきゃ。
そんな暮らしをしていたら、何故かいろんな不満が無くなっていった。同時に両親や夫、周囲からも違和感を覚えることが少なくなった。
そう言えば、小さい頃からお姉さまがいつも言っていたわ。私の心が安定していると「魅了の力」が治まるんだって。
お姉さまってすごいのね。記憶に残っているだけでもどんなに愛してくれていたのかが分かる。そんなお姉さまを裏切った私ってなんて最低だったのかしら。
ごめんなさい、ごめんなさいお姉さま。
一日に何回も謝っているわ。決して許されはしないけど。
そうしてやっと人生を終えるとき。
「アイリス、浮気を繰り返す君は最低だった。あの頃、僕はずっと君と離婚がしたかった。ああ、やっと言えた」
メイズのそんな声が聞こえた。ああ、やっと本心が聞けた。私の魅了の力が無くなったのか、死にかけているからなのか、理由は分からない。でも、お姉さまのおっしゃる通りだったわ。
私、幸せだったような気がするの。でも、やっぱりお姉さまに言えないのだけが心残り。
ごめんなさい、ごめんなさい、お姉さま。
そして、ありがと、う――おねえ、さ、ま……
…………
……
…
300
お気に入りに追加
824
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話
しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」
「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」
父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。
ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。
婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。
両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない
しがついつか
恋愛
「これからしばらくの間、私はあなたに不誠実な行いをせねばなりません」
茶会で婚約者にそう言われた翌月、とある女性が見目麗しい男性を数名を侍らしているという噂話を耳にした
。
男性達の中には、婚約者もいるのだとか…。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる