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1 お前の妹との婚約を破棄する!

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「カメリア・アイオーラ伯爵令嬢! 悪いがお前の妹との婚約は破棄させてもらうっ!!」

 王家主催の夜会が始まるや否や、王太子殿下が私に向かいそう宣言した。ざわめく会場。人々の好奇の視線が私に突き刺さる。

 そして私は思う。


(ああ……またなの。いい加減、本人に言ってくれないかしら)



※※※

 私には5歳年下の妹がいる。そして、妹は控えめに言って傾国の美女だった。とにかくモテてモテて、モテまくる。

 しかも、庇護欲をそそられるらしく、婚約者がいるというのに求婚者が絶えない。そして妹自身、常に白馬に乗った王子様を求めているのでその度にこんな騒動になる。

 そもそもの、初めの婚約者が良くなかったのかもしれない。同格の伯爵家の子息だったが、乱暴者で妹は彼を嫌っていた。そんな彼から妹を守り、奪ったのが格上の侯爵家の子息だ。

 そして、浮気に怒った伯爵家子息が私に対して妹との婚約破棄を宣言したのが最初だった。

 これには仕方のない事情がある。我が家には稀に「魅了持ち」が産まれるのだ。多分、妹はそれが強く出たのだと思う。いくら縁を切ろうとしても、本人を目の前にすると「庇護欲」の方が勝ってしまい、どんなに怒っていても裏切られても、決心が揺らいでしまうのだ。

 そこで、とった対策が姉である私に対する婚約破棄宣言。

 本人さえ近くにいなければ婚約破棄は可能とのことで、妹と婚約破棄をしたい婚約者の皆さんは私に向かって婚約破棄をするようになった。

 まあ家族だし、我が家のスキル上の問題でもあるので甘んじて受け入れているが、まるで私が何度も婚約破棄をされているようで気が滅入る。

 私自身は長年一人の婚約者と上手くやっていて、何一つ問題を起こしていないというのに。婚約者がこの件に関して理解があるのが唯一の救いだろうか。

 両親もその度に慰めてくれるが、妹が懲りないのにも事情がある。妹は確実に爵位が上へ上へと相手を変えているので、両親も注意がしづらいのだ。そして、毎回相手に問題があるのも確か。

 一人目(伯爵子息)は暴力が問題だったし、二人目(侯爵子息)はギャンブルの問題を抱えていた。三人目(公爵子息)は女関係。――で、最終的に王太子に助けてもらって次期王妃にまで上り詰めた妹凄い――と思っていたのだが。

 妹の「魅了」は国内にとどまらなかった。妹は留学に来ていた帝国の皇太子と仲良くなったのだ。わが国の王族は複数の妃が持てるため、それがつらいと相談に乗ってもらっていたらしい。

 怒った王太子からは夜会で婚約破棄を突き付けられた(私が)。
 でもまあ、あとはこれで妹が帝国へと嫁げばようやく私の役目も終わる――と思っていたのだが。

 妹の快進撃はここで突然終わる。

 我が国ではさほど問題とされていない「魅了持ち」も、帝国では隔離の対象になるほどの警戒がされており、帝国側から待ったがかかった。皇太子は既に記憶消去の処置を受けており、妹の乗り換え先がなくなってしまった。

 具体的に話が進む前だったので皇太子とはそれっきり。


 可哀想に。あれから妹は家の中で泣き暮らしている。そもそも直接婚約破棄を受けたのなら実感もあるだろうが、人づてに聞いても自分がしでかした浮気の罪悪感が持てないのと同じくらいに現実味などないに違いない。

 毎回、妹の代わりに婚約破棄を宣言されてきた私は何故か感じなくてもいい罪悪感と実感をバリバリ感じてきたが、妹にそれを理解させるのは無理だろう。

 そんな妹を私は可哀想だと思う。本人が望んで魅了スキルを持って産まれたわけでもないし、妹はちょっと夢見がちなだけなのだ。

 何度も迷惑はかけられてきたが、それでも私にとっては大事な妹だ。魅了持ちの妹が産まれると知ったときから私は妹が幸せになれるように全力でサポートをしていこうと決めていた。

 だから、魅了スキルのせいで全てを失って落ち込む妹を家族みんなで献身的に支え続けた。一人にしないよう常に誰かが寄り添った。それがいけなかったのかもしれない。


 まさか、私の婚約者と妹が、そんなことになるなんて。




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