【完結】お４枚鏡

お４枚鏡３

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　何が起きたのか解らなかった。
　突然、不良が床に倒れたのだ。

　不良は息をしていない。
　でも、そんなことはどうでもよかった。僕は『お４枚鏡』の怪談が作り話ではないことを知っている。だからこそ、僕はそれを実行するつもりだったのだから。

　苦しいばかりの現実から逃げ出して、たった一人の友達の所に行きたくて。

　なのに、僕じゃなくて不良がそれを実行してしまった。不良が彼女のもとへと行ってしまった。
　彼女は、ずっと僕を気遣ってくれたのに。

　僕のせいだ。僕のせいで、鏡の中の彼女を危険に晒…し、て――。



　ふわり。

　不意に。空気が動いた気がして顔を上げると、目の前に彼女がいた。

　ずっと、鏡の中にいた僕の友達。
　半透明の彼女は美術室に立って、床に転がった僕の描いた絵を興味深そうに眺めている。

　学年が上がって僕へのいじめが酷くなってからは、いつも怒った顔をしていた彼女。

　だけど僕は彼女の笑顔が大好きだった。
　だからキャンバスには彼女の笑顔を描いたのだ。


　踏みつけられて足跡だらけになった笑顔の彼女。
　それを覗き込む彼女は僕が描いた絵よりも何倍も楽しそうに笑っていて――。


「何だ、今の音は……なっ、お前達、いったいどこから入ったんだ！？？　何して……ヒッ！　お、おい、大丈夫か！？　しっかりしろ！！　今、救急車を……」


　音を聞きつけた教師の叫び声と慌ただしく去っていく足音を遠くに聞きながら。

　僕は、こちらを見てバイバイと笑顔で手を振る彼女に微笑んだ。