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前編
しおりを挟む「お姉様ばかりずるい! 私も! 楽しそうだから私もダンスを習いたいわ」
ダンスが苦手だった私が二年間ほど習ってようやく楽しめるようになったころ。妹がそんなことを言い出した。そして遅れて習い始めた妹に半年もしないうちにサクッと追い越されてしまう。
ああ、やっぱりこうなるのね、と思う。
妹は何でも私のマネをしたがるのだ。勉強がしたいからと家庭教師をつけてもらえば妹も家庭教師をつけて欲しいと強請り。私がマナー教室に通えば妹も同じマナー教室に入りたいと強請る。
しかも、私が慣れずに苦労しているときには見向きもしない。私は少し不器用だけど凝り性で、どんなに苦手でも本で調べたりして時間をかければ出来るようになるタイプ。そんな私がどうにか習い事に慣れて、ようやく楽しくなってきた頃に妹はマネをしたがって、あっという間に私の数倍の速さで身に付ける。
両親もそんな妹を天才だ、なんだと褒めまくる。
お姉ちゃんは二年かかったのに。
お姉ちゃんより覚えが早いわ、妹ちゃんすごい。
言われる度に私のやる気が下がるけど、両親はそんなこと気にもしない。乾いたスポンジのように次々知識を吸収していく優秀な妹が立派な淑女になれるようにと、私にやりたくもない習い事までやらせるようになる始末。
ダンスだって本当は、社交ダンスじゃなくてベリーダンスをやりたかったのに。学園での異国との文化交流会で見たその異国情緒あふれる美しさに心奪われ両親に頼んだけど、社交ダンスしか許してもらえなかった。アウトドアスポーツがやりたくて釣り教室に通いたかったのに、それも乗馬に変更させられた。
料理は貴族らしくないからダメ。
水泳は素肌を晒すからダメ。
山登りは日焼けするからダメ。
染物は汚れるから刺繍にしなさい。
合唱は人前で大口開けるからダメ。詩の朗読にしなさい。
私がやりたい習い事は何一つさせてもらえない。
そして親の口出しは習い事にだけにとどまらない。
あれをしちゃ駄目。コレをしちゃ駄目。
常に。清く、正しく、美しく。
模範となるような人物になりなさい。
色々言ってはくるけれど、両親が言いたいことはただ一つ。
「妹がマネをしたらどうするの」――だ。
小さい頃はともかく、今、私がやらされる習い事の全ては優秀な妹に興味を抱かせるのが目的だ。嫌々、やりたくもないことをやらされている私と違って、望んで好きな事をやっている妹の上達は早い。両親はそんな優秀な妹ばかりを可愛がる。
それでも。妹のためとはいえ、常に品行方正を心掛け、様々な習い事や勉強で知識を増やしてきた私はそれなりに注目されていたらしく、なんと王太子殿下の婚約者に指名されてしまった。
恐れ多いし、絶対自分には無理だからと言ったけど、両親は名誉なことだと無理やり私に王太子妃教育を受けさせた。勉強もマナーも今まで学んだこととは比べ物にならないほど大変で、自由時間も一切ない。
辛いばかりだったけど、3年もすると語学もマナーもそれなりに出来るようになってきて、ようやく学習を楽しめるようになってきた、その時。
やはり、いつものアレが始まった。
「お姉様ばかりずるい! 私も! 楽しそうだから私も王太子妃教育が受けたい」
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