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5 世界の理

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「彼、逝ったそうですよ。あ、コレ、仕事の資料です。彼の机の上にありました」

「は!? もう!? 参ったなー、あと一カ月くらいは持つかと思ったのに。ったく、死期を顔に出さないにもほどがあるよ。はあ……。あの仕事、嫌いなんだよね。今日からまた自分でやるのか」


 まるでこうなることを想定していたかのように。キレイに、そして分かりやすくまとめられた仕事の資料を見て。

 彼のような優秀な魂は二度と戻っては来ないだろう――と第二王子はため息をついた。

 オークが足りない魂を他種族の転生希望者から集めているように。人間も欠員を他種族からの転生で集めているのだ。例え最初にどんな種族に生まれようとも。堕ちていくものはどこまでも堕ちていき、逆に上へ行くものはどこまでも上へ行く。そういうものだ。

 一度あちらへと上がってしまえば、彼が戻ってくることはないだろう。彼も、彼の両親も。


「――ま、しょうがないか。と、いう訳で例のアレは消しちゃって」

「よろしいのですか? 一緒になって立ち上げたのに」

「種族としての在り方を根本からひっくり返すような前例を許すわけがないでしょ。彼が『はい』って言ってくれたら他の方法を見つけられたかもしれないけど――まあ、どのみち遅かれ早かれだよね」

「分かりました。温情は」

「眠っている間に全てが終わっているように。俺も起きた時には憂いなくスッキリしていたいから。あとは、彼の隣に葬ってあげて。化けて出られても嫌だから丁重に、ね」

「――はい」




 その日。引き継いだ仕事を終わらせた後の、深夜。

「おー。始まった。仕事が早いな。作るのは時間がかかるけど、消すのは一瞬だね。――まあ、これで思ったよりは歳の差夫婦にはならないんじゃない? ごめんね。あまり大掛かりにやられるのも困るんだよね。まあ、世界の理ってやつ? 無視されると都合が悪いんだよね。コレも王族としての仕事だからさ。君も、あんまり待つことなく転生出来るんだから許してよね。……はあ。こういうことするからオークの評判下がっちゃうんだろうね」


 遠くにあがる火の手を見て――第二王子はいつも通りの眠りについた。




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