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27 やめられない癖と懐かしい記憶
しおりを挟む王太子の婚約者としていざとなったら身を挺してでもオディオを守るために、クアリフィカもある程度の護身術は身に付けていたが、王家の影ともなるとその程度の戦闘力では話にならない。
普通の貴族令嬢だったクアリフィカが暗殺者並みの戦闘能力を一から身につけなくてはならないのだ。そのための教育は苛烈を極めたが、毒杯によるあの痛みと苦しみと羞恥を乗り越えたのだと思えばどうにかなった。
更に、影になるうえで多くの者が躓くと言われている気配を消す修業については筋がいいと褒められた。
家族で一人だけ孤立をしていたクアリフィカは、自然とその技術を身につけていたらしい。家の中で下手に目立つとその分嫌な思いをするので、クアリフィカにとって気配を殺すことは死活問題だったのだ。
最低限の食料で生き抜く訓練だけは少し苦しかったが、それも小さかった頃の飢えを思えば何でもない。
ただ、その件でクアリフィカには昔からどうしても止められない癖がある。
王太子妃教育が始まってからは公爵家で食事が抜かれることはなくなったが、幼い頃に飢えた記憶から空腹を恐れるあまり、クアリフィカは城で出されるお茶菓子の残りをハンカチに包んで屋敷に持ち帰っていた。
家での待遇が良くなっても夜食などを特別に用意してもらったりは出来ないので、遅くまで勉強をする際にクアリフィカはそれを広げてこっそり食べていたのだ。
王家の影として様々な勉強をする今も、クアリフィカのその癖は変わらない。
表には出てこない他国の情勢や国内貴族との力関係、秘匿された貴族間の血縁関係など、クアリフィカには覚えなくてはならないことが大量にある。
もしかしたら、それらは表の物よりも複雑に入り組んでいるかもしれない。その中には、社交界で有名なあのおしどり夫婦が親の不貞の影響で実は血の繋がった兄妹で――などというクアリフィカからすると驚愕するような内容もあったくらいだ。
そのため、クアリフィカはそれらを覚えるために毎日夜遅くまで勉強をしているのだが。
夜中。ハンカチを広げてお茶の時間に出されたクッキーの残りを食べていたら、気配を消して近づいてきたパイデウシスが横からひょいっとそれをつまんで食べていた。
クアリフィカはそれを見て昔の記憶を思い出す。
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