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5 運命の出会い(オディオ視点)

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 その日は婚約者同士のお茶会の日だった。

 優秀なクアリフィカは学園の最終学年に上がる頃には王妃教育を終えていたため、城でオディオと顔を合わす機会は減っていた。

 これまで散々放置してきたが、結婚を前にクアリフィカとの関係を改善させておいた方がいいだろう。

 そう考えたオディオは侍従に婚約者への手土産を用意させて公爵家を訪れたのだ。侍従が用意した手土産の中身はクアリフィカの好物のケーキらしい。

 好物を受け取ったクアリフィカの反応もまずまずで、お茶会の雰囲気は悪くなかった。そこに、フラリとクアリフィカとよく似た雰囲気の令嬢が現れたのだ。


「あら! これって話題のお店のケーキよね? まあ、王太子殿下が持って来てくださったの!? ねえお姉様、私も食べたいわ。いいでしょう?」

「ルシクラージュ、王太子殿下の前で失礼よ。ご挨拶もせずに」

「……ああ、いけない。私ったらまたお姉様に叱られてしまったわ……。王太子殿下、初めまして! 私は妹のルシクラージュです。せっかくだから私もご一緒していいかしら?」

「ルシクラージュ。今日は婚約者同士のお茶会があると言っておいたでしょう? 悪いけど、殿下と大切なお話もあるから貴女は遠慮して頂戴」

「もう。お姉様ったら、また私にそんな意地悪ばかり言って! ちょっとくらいいいじゃないの。ずっとお部屋で勉強ばかりさせられて、お腹が空いてしまったのだもの」


 そう言った途端、くぅ……と可愛らしい音が響き、ルシクラージュは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。その飾らぬ態度が心地よくて、オディオはルシクラージュに優しく声をかけたのだ。

 関係改善のためにも婚約者との交流は必要なのだが、優秀過ぎるクアリフィカとのお茶会は、どうにも息が詰まるのだ。昔はそれほどでもなかったのだが、これも長年放置しすぎた弊害なのかもしれない。

 そのため、オディオにとっても明るく無邪気な雰囲気を持つルシクラージュの同席は歓迎だった。


「ははは、別に僕はルシクラージュ嬢が一緒でも構わないよ。クアリフィカ、ケーキはたくさんあるんだから別にいいじゃないか。甘い物は疲れた頭にいいからね。ルシクラージュ嬢もここで少し休憩をしていくといい」

「やったぁ、ありがとうございます、王太子殿下! えへへ。私ね、一度このお店のケーキを食べてみたかったの!!」

「へぇ、そうなのか。そんなにここのケーキが気に入ったのなら、また買ってきてあげるよ」

「本当ですか!? 嬉しい!」

「……ルシクラージュ。貴女、家庭教師の先生をお待たせしているのでしょう? それを食べたらすぐにお部屋へ戻るのよ」

「…………はぁい、お姉様。解ったわよ」


 そうして少し居心地が悪そうにケーキを食べるルシクラージュは、あの日のクアリフィカを思わせて――――。


 この日を境に頻繁に交流の場に現れるようになった未来の義妹から、オディオは目が離せなくなってしまった。




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