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20 待ち時間
しおりを挟む「今からなら午後の受付に間に合うだろ。お前は城にソレを提出しておいてくれ。オレは愛人……いや、もう本命か。運命の相手にでも会いに行くかな。随分と待たせてしまったから、コレで宝石でも買っていってやるか」
自らの側近にそう言うと、元婚約者は机の上の金貨を懐に仕舞った。
「ちょ……ま、待って!」
「あ? 慰謝料いらないって言ったのはお前だろ。意地きたねぇな、今更撤回をしようったって……」
「違うわよ。その……ちゃんと婚約破棄の書類が受理されたかどうかを私もこの目で確かめたいの。ホラ! 私も新たに婚活を始めるなら少しでも早い方がいいし!! だから、側近さんが帰ってくるまでウチで一緒に待たない? そうだ、ちょうど料理人さん達と一緒にあれこれ試作をしていたのよ。今後の参考にしたいから、食べて意見を聞かせてくれると嬉しいわ」
「……何だよ、急に。そんなこと言って、腹いせに毒入りだったりするんだろ」
「ウチに先ぶれもなしに来たんだから、そんなの仕込んでいる時間も余裕もなかったでしょ。だいたい、毒なんか入れたら私が食べられないじゃないの。純粋に貴方の意見が聞きたいだけよ。その……貴方の舌は確かだから」
「フーン……? ま、いいか。お前、昔っからオレに気に入られようとアレコレ作っていたもんな。いいぜ。お前のガッカリな手料理を食べるのもこれで最後だしな。オレのような被害者を出さないためにも、しっかりと評価してやるよ」
人の良さそうな。柔らかな暖かい風貌から紡ぎ出される毒入りの言葉は彼が子供の頃から変わらない。しかも、毒性はかなり高いと思う。
小さい頃からその毒に慣らされ過ぎて、私もすっかり感覚が麻痺していたようだ。
我が家を訪ねて来てからずっとこんな調子で毒を吐き散らかしていたが、毒を吐くだけ吐いて彼もようやく落ち着いたらしい。元婚約者は改めて側近にお使いの指示を出すと、自分はドカリとソファーに座り直した。
うちの屋敷から城までは往復で一時間くらい。
側近さんがお使いから戻り次第、婚約破棄書類の受領証をこの場で確認させてもらうことで話がついたので、コチラも急いで準備をしなくてはいけない。
懐に仕舞った金貨を撫でながらニヤニヤしている彼を一瞥して、私はそっと席を立った。
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