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93 泥棒猫の見る夢4(フランク視点)

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「………………アナリーズ?」


 ……。

 一瞬。愛する妻の思考に不穏な物を感じたフランクは彼女の名を呼んだ。

 野生の勘というか、アナリーズが別のオスの事をチラリとでも考えるとフランクは何となく察知することが出来るのだ。

 自分でも嫉妬深いと思うが、こればかりは仕方がない。一応『あちら』も片付いたとはいえ、一度ぽっと出の田舎猫にアナリーズを奪われているフランクとしては油断はできない。

 だから、アミティエ伯爵の好みのタイプを調べて料理好きの子爵令嬢を彼の元に送り込んだのはフランクだ。

 少々変わり者で身分が低いのがネックではあるが、一応は貴族女性。平民よりは周囲の反発も少ないだろうし、猫好きで気のいい彼女と身分差を気にしない伯爵はきっとうまくいくだろう。彼女は料理さえ作れればそれだけで幸せな人だから。

 強敵だったアミティエ伯爵。

 けれど――アナリーズが選んだのは人間でも貴族でもなく、獣人であるフランクだ。

 知識と拒絶薬。そして――アナリーズへの好感度の刷り込みを残してくれた祖父には感謝しかない。番が運命なのだとしたら、これだって立派な運命だとフランクは思う。


「ねえ、さっき娘に言われたわ。『お父さんはお母さんの番だから、お父さんの分の花冠はお母さんが作ればいいと思うの』――って」

「おっ! 流石は僕の娘だ。よく解っているじゃないか」

「ふふふ……じゃあ、飛び切り素敵なのを作るから待っていて」

「うん。じゃあ、出来るまでちょっとお昼寝でもしようかな。流石は僕の息子だよ、元気いっぱいで疲れというものを知らないんだ。でも、もう若くないお父さんはヘトヘトだよ……」


 アミティエ伯爵に嫉妬するフランクの不穏な空気を察したのか、アナリーズが一生懸命フランクの機嫌を取ってくる。そんな彼女も可愛らしい。

 大丈夫。一度手に入れた彼女をフランクは手放すつもりはないし、油断もしない。番なんかには惑わされない。……けれど、ポカポカ陽気の心地よさには少々弱い。

 時折幸せそうな笑顔を向ける彼女を薄目で見ながら、フランクはゆったりと夢の世界に入って行く。


(番の血筋――か)


 実は、獣人国内よりも人間国の方が番との出会いは多い。それは、番に導かれ国を出る者が存在するからだ。恐らくはアナリーズの元夫もその類だったのだろう。そして、番の血筋というのは確かに存在する。

 人間国内という狭い獣人社会で増えていく番の血。

 その二つが揃ってしまった時に起こる悲劇は想像に難くない。

 そして人間国内で生きていく以上、それは受け入れられるものではないだろう。だからこそ、祝福が呪いとなる前に自制出来るような物は必要なのだ。

 番との未来を選んだ父親の娘との間で縁が結ばれていたフランクの時のように。





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