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92 泥棒猫の見る夢3(フランク視点)

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「っふふ……あはは! ちょっと、フランクくすぐったいわよ、もう」

「おっと、ようやく身に染みたかな? 君は商会に入った頃から笑顔が一番素敵だったんだから、いつもそうやって笑っていてよ」



 青い空が広がる居心地のいい公園で。

 フランクは愛するアナリーズを優しく抱きしめながら、ずっとこちらを羨ましそうに見つめている男にサッと視線を走らせニヤリと嗤う。


 フランクを射殺してきそうなアナリーズの元夫の視線にはずっと気づいていた。今日だけでなく、数年毎に現れては未練がましい視線だけを残して去っていく。


(フン――哀れな男だ)


 アナリーズという獣人にとって最大の幸運を手に入れておいて、自ら棒に振った馬鹿な奴。

 離婚する時に魔法契約を結んだ元夫はアナリーズに近寄ることが出来ない。

 発動された魔法障壁の向こう側。

 そうやって手の届かない場所で、フランクの手で幸せになっていく彼女の姿をいつまでも指をくわえて見ているがいい。それをアナリーズに悟らせる気はないけれど。

 フランクはいつものようにスリスリと自分の匂いを愛する妻に刻みつけながら、さりげなく元夫をアナリーズの視界に入れないように調整する。

 すでに拒絶薬を飲んでいるフランクに隙は無い。

 フランクが望んでいるのはあくまでもアナリーズとの幸せだ。祖父のような学者でもないフランクには、番の存在に興味はない。フランクにとっての番は家族を壊すものでしかないのだから。

 留学生だろうが何だろうが、人間の国で暮らしておいて、拒絶薬の存在を知らない筈がない。絶対に手放せない相手がいるのに飲まないとしたら――よほど意志が弱いか既に手遅れになっている者だけだ。

 そして、そこまで意志が弱い者が番をそもそも拒絶できるはずがない。

 拒絶薬を開発したのは学者だったフランクの祖父だ。

 人間女性と婚姻中に番と出会った祖父。
 意思の強さで番を拒絶していたものの、夫に運命の番が見つかったことを知って絶望した妻は、自ら命を絶ってしまった。のちに運命の番と再婚はしたが、二度とこんな悲劇を起こしてはいけないと、祖父は自らを実験台にしながら拒絶薬を開発したらしい。


 そんな祖父の姿に運命の番だった祖母は何を思っていたのだろう?


 自らが愛する者と運命の番。双方の犠牲のもとに開発された拒絶薬。

 現在、それを生産しているのは祖父から作り方を教わったフランクの母だ。

 当初、獣人として拒絶薬の生産を躊躇していた母も、ソレを切実に求めている者がいることを知って考えを変えた。

 ただ、大量生産ができないため、数に限りがあるのでどうしても口コミというか、知り合いを通じての提供になってしまう。


(そう。例えば同じ商会の仲間とか――ね)


 もちろん、貴重な薬なので相応の対価は当然の権利として得ている。それでも注文はひっきりなしだ。もしアナリーズの夫が問い合わせをしてきたら――フランクはどうしただろうか。

 少なくとも、彼からの注文は入っていなかった。それが答えだ。

 そして――フランクからしてみれば、アミティエ伯爵の方がアナリーズの元夫よりよほど手強かったし、正直ヒヤリともした。

 アナリーズを思う彼の気持ちは本物だった。裏で囲い込みに入っていたし、もしもアナリーズが彼を選んでいたらフランクといえども諦めざるを得なかっただろう……。




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