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91 泥棒猫の見る夢2(フランク視点)
しおりを挟む地域に貢献している祖父のお陰で獣人への差別がないとは言っても、やはり獣人が目立つ存在であることには変わりがない。父親に棄てられる前はフランクも母親や祖父のように獣人としての特徴をしっかり晒していた為、耳やしっぽに奇異の目を向けられてうんざりしたことは多々ある。
祖父は特に気にしていないどころか自分の耳やしっぽをうまく利用して、好奇心旺盛な子供達の興味を勉強に向けさせたりしていたが、父親のせいで少々拗らせていたフランクは祖父のそんな行動をあまりよく思ってはいなかった。
そんな中。
キラキラした大きな目で黒板に集中して祖父の授業を聞くアナリーズの姿は好感が持てた。人間の子供たちに交じって授業を受けつつも、フランクは興味が惹かれるままに、何となく彼女の姿を目で追って過ごしていた。
しばらくするとフランクは祖父の援助で上の学校へ進学したので、その後は特に彼女のことを思い出すことも無かったが。
そんなアナリーズと王都の商会で再会したときは驚いた。どうやら彼女はあの後も真面目に勉強を続け、無事に奨学金を勝ち取って進学することが出来たらしい。
残念ながら彼女はフランクの事を覚えていないようだった。当然かもしれない。年齢のせいもあるがかなり拗らせていたせいで、あの頃のフランクはしっかりと耳としっぽを隠していたのだから。
この頃の王都では急激に獣人人口が増えていたこともあり、獣人への偏見から嫌な目を向けられることも多かった。
けれど、フランクはアナリーズからそんな目で見られたことは一度もない。彼女から向けられるのは純粋な疑問だ。
獣人はどういうことをされたら嫌なのか。
獣人とうまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいか。
種族ごとに差はあるのか。食べられない物はあるのかetcetc……。
どうやら祖父のお陰もあって彼女の中で獣人への印象はかなりいいらしい。そして、何事も真剣に学ぶ姿勢は相変わらずのようで、獣人に関する知識を増やしていった彼女のお陰で人間の商会員との行き違いも減って、職場は随分と働きやすくなっていった。
そんな彼女は男女問わず獣人連中から人気があった。
実はフランクだけでなく、商会に所属する獣人のほとんどは既に拒絶薬を飲んでいる。番にこだわらない商会員からしてみたら、獣人への理解があるアナリーズは結婚相手として理想的な相手なのだ。
けれど、一番初めに彼女に目を付けたのはフランクだ。あえて祖父の事は伝えていないが、小さな頃の彼女を知っている分、他の獣人よりも彼女について知っていることは多い。
だからその辺のアドバンテージを維持したまま、かといって獣人特有の狩猟本能であまりグイグイと近づきすぎて人間の彼女を怖がらせたりしないよう注意をしつつ、フランクは徐々に二人の距離を縮めていった。もちろん、その間も他の獣人商会員達への牽制も忘れない。
正直、幼馴染という特権を活かせなかったのは失敗したと思ったが、どうせ彼女はフランクの事を覚えていないのだ。だとすれば、『何故か自分の事をよく解ってくれる気の合う同僚』という立ち位置に居た方が色々と都合がいい。
彼女の相談に乗って。昼食を共にして。誰より仲の良い同僚となって。いずれは――とフランクがのんびりしている間に、突然現れた田舎猫に横から掻っ攫われた。
悔しかったしムカついたが、悠長に構えていた自分自身の責任でもある。彼女が幸せならいいかと仕方なく諦めるつもりだった。彼女が獣人の夫と上手くやれるようにと慣れない遠慮だってした。
――――なのに。
フランクからアナリーズを奪っておいて、あのオス猫は運命の番に目移りしてアナリーズを傷つけたのだ。
日々元気を失くし痩せていくアナリーズを見ているのがつらかった。ただの同僚に出来ることなど限られているのに。
彼女が自分の夫を愛しているのは知っている――けれど。
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どうしてあのオスは自分の妻が無理していることに気付けないのか。
――どうしてあのオスはここまで妻を虐げることが出来るのか。
いっそアナリーズを攫ってしまおうかとも思ったけれど、それでフランクが彼女に嫌われてしまったら意味がない。そして、アナリーズ自身が望んでもいないのにフランクが勝手に行動する訳にもいかない。
あくまでも現在のフランクはただの職場の同僚なのだ。
だとしたら、あくまでも職場の同僚として。
同僚に出来る範囲で彼女の手助けをするしかない。
フランクは出来る限り彼女に目を配って相談に乗った。
必要な知識を与えて成り行きを見守った。これ以上は無理だと思ったら多少強引な手段もとった。
そして――――……。
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