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70 深夜の逢瀬

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『ああ、ジョイ、ジョイ……んぅ……ずっとこうしたかったぁ
……』
『はぁ…ティア……大事な、大事な俺の番……! ン……』

 聞くに堪えなかった。お互いの名前を呼びながら。濃厚な口づけを交わしているような音が受信機から絶え間なく聞こえてくる。

 今、アナリーズと伯爵がいるのはジョイが泊まっている部屋の隣室。伯爵夫人が泊まっているのとは反対側の部屋だ。高価な防音技術が使われている為、人間のアナリーズや伯爵ではこうして魔道具の力を借りなければ隣の部屋の声を聴くことは出来ないが、これは今まさに、隣室で起きていることなのだ。

 獣人である彼らは聞こうと思えばこちらの音が聞こえるはずだが……番に惹かれているときは他の音や匂いに鈍感になるのは実体験で分かっている。

 ジョイにとって、今のアナリーズはその程度の存在でしかないのだろう。……そして、伯爵夫人にとってのアミティエ伯爵も。


 もう十分だと青い顔で頷き合って、アナリーズと伯爵は合鍵を使って二人がいる部屋へと移動する。


 ――聞くに堪えないと思っていたが、実際に目にするのはそれ以上にキツかった。


 月明かりの入り込む室内で。
 濃厚な口づけを交わすジョイと伯爵夫人の姿が浮かび上がっている。

 先ほど受信機から聞こえていた声は勿論、その生々しい息遣いまでもが聞こえてくる。それくらい近くに居るのに、二人は自分たちの伴侶が同じ部屋に入ってきたことにさえ気づかない。

 ほぼ裸と言っていいくらいに布地の少ない下着にしか見えない物を着こんだ伯爵夫人の目的は明らかだし、ジョイはジョイでアナリーズが用意したパジャマのボタンを全開にしてほのかに色づいた素肌を晒している。

 部屋の配置の問題でリビングから侵入し、そのままこれが始まってしまったのだろう。薄く窓が開いていて、場所がベッドルームではなかったのが唯一の救いだったのかもしれない。

 若干生々しさが薄れるとはいえ、部屋に漂う淫らな空気は隠しきれるものではないけれど。

 いつまでも眺めているつもりはない。侵入者の存在にまったく気付かない二人にアナリーズとアミティエ伯爵は声をかける。


「ジョイ」

「ティア」


 ピクリ……。月明かりの中で抱き合う二人の肩が跳ねて、こちらを向くとそのまま目を見開いて固まった。


「アナリーズ、伯……爵……どう……して、ここに……?」





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