【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

６９ 痛みの共有

　アミティエ伯爵から詳しい事情を聞いてアナリーズは納得した。

　獣人の番はとても妊娠率が高いのだ。番の二人が身体を重ねようと思えば絶対にソレが必要になる。

　伯爵夫人には次代の出産が望まれている以上、ジョイの子を孕むわけには――。


「……っ」


　解っていても決心はしていても、胸が締め付けられる。これでは食欲なんて出る筈がない。

　事情を知らず王都でのうのうと暮らしていたアナリーズですらこうなのだ。詳しい報告を受けながら、一人で耐えていたアミティエ伯爵の負担はどれほどだったのか。

　伯爵はずっと彼らを見守っていたのだ。
　いつ、二人に裏切られるのかと……もしかしたら踏みとどまってくれるかもと……大きな不安と微かな希望に翻弄されながら。

　アナリーズだったらとてもじゃないが耐えられなかっただろう。それほどの苦しみをアミティエ伯爵たった一人に背負わせてしまったのだ。

　アナリーズだけが唯一、彼と同じ苦しみを理解できたのに。


「……伯爵様。たとえどういう結果になろうとも、私は伯爵様に感謝をしております。長い間一人で背負わせてしまって申し訳ありませんでした。……お辛かったでしょうね」

「……っ、そう、だな」


　アナリーズがそう声をかけた途端。
　アミティエ伯爵の目から次から次へと涙が溢れる。


　貴族社会で弱みを見せることは家の弱体化に繋がる。きっと伯爵は誰にも相談できずに、ずっと一人で耐えて戦ってきたのだろう。


　アナリーズはただ一人、彼と同じ痛みを共有する者として。

　下を向いて声もなく涙を流し続けるアミティエ伯爵に、そっと寄り添うことしかできなかった。



　そして――。


　深夜を僅かに過ぎた頃。ジョイが泊まる部屋に仕掛けられた盗聴の魔道具が発動した。