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67 アナリーズとアミティエ伯爵の再会

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「痩せた、な。アナリーズさん」

「伯爵様こそ……随分と、お痩せになられましたね……」


 アミティエ伯爵からの労わるような声に、同じだけの思いを込めて返すアナリーズ。



 子爵領にある豪華な12階建ての集合住宅。

 アナリーズが住む庶民向けのアパートとは違い、豪華な建材を惜しみなく使って最新技術で建てられたそこは、王都にあるのと同様の富裕層向けの高層住宅だった。

 長年、貴族は集合住宅を避ける傾向が強かったが、最近では贅を尽くし、魔法や魔石などの最新技術を使って住環境を整えた高層の物に限り、『景色がいい』とか『珍しい』などの理由で本宅とは別にパーティー用や友人を招く別宅としての需要があるのだとか。

 確かに景色は凄く良い。アナリーズなどは少々足がすくんでしまうほどだ。

 子爵領ではまだ珍しい高層建築は見物人の姿もチラホラと見えた。こんなことでもなければ、アナリーズも再びこういった種類の住居に足を踏み入れることはなかっただろう。

 アナリーズがアミティエ伯爵から連絡を貰ったのが今から二週間ほど前のこと。ジョイが子爵領へと旅立つのと同時に、アナリーズも伯爵が迎えによこしてくれた馬車へと乗り込み子爵領へと旅立った。

 そして、目的地である子爵領へ着いたのはほぼ同時刻。
 アミティエ伯爵と共に、伯爵夫人とジョイの親密な様子を見たのはつい先ほどの出来事だ。


「その……大丈夫か? 前もって説明できれば良かったのだが、誰かに見られる危険を考えると手紙では詳しい事情を書くのが憚られて……。そのせいで、事前説明もなく二人のあんな姿を見せてしまうことになるとは」

「…大丈夫です。その、驚かれるかもしれませんが、思ったよりもショックはありませんでした。……心のどこかで、覚悟をしていたからだと思います」


 これはアナリーズの本心だ。同僚に医者へと連れていかれたあの日。アナリーズは既に覚悟を決めていたのだと思う。伯爵からの手紙を貰った時点で『ああ、来るべき時が来たのだな』という思いの方が強かった。

 むしろ……。


「私よりも伯爵様の方がお辛そうです。迎えに来てくださった侍従の方から、伯爵様があまり食事を摂られていないとお聞きしました」

「……そうだ、な。まさか自分が、生きている妻との別れを考える日が来るとは思いもしなかったから」


 不幸な事故で前妻と死別し、伯爵夫人と出会ったことでようやく立ち直ることが出来たアミティエ伯爵。その伯爵婦人との間でこんなことになるとは思いもしなかったのだろう。


「……よろしければ私が何かお作りしましょうか? 途中で少し食材を買ってきたんです。その……今日は遅くなると聞いていましたので」

「…悪いがあまり食欲が……いや……そうだ――な。特にここ数日はまともに食べられていないんだ。出来れば何か……飲み込みやすい物を頼む」

「では、スープでもお作りしますね。実は、私も職場の同僚にかなり心配をかけてしまったので、少しでも食べられるようにと色々研究中なんです」

「はは……それは頼もしいな」


 ジョイから聞いていた通り――部屋もキッチンもすごくキレイで素敵だった。アミティエ伯爵によると、どの部屋も似たような造りをしているらしい。

 この素敵な部屋で。番との交流のたびにジョイと伯爵夫人は夫婦のように過ごしていたのだろう。キッチンには最新式の魔道具が使われている。オシャレで使いやすいとジョイは喜んでいたけれど、アナリーズはあの古アパートのキッチンをとても気に入っている。

 古いけど居心地のいいあのアパートで。
 愛するジョイと――もしかしたら産まれるかもしれない子供と。皆で一緒に暮らしていける日を夢見ていたけれど、そんな未来はもうやって来ない。

 ならば少しでも元気を取り戻して、新たな道を進みたい。

 そして出来れば、アナリーズと同じ苦しみを共有しているアミティエ伯爵にもしっかりと食べて元気を取り戻して欲しい。

 そんなささやかな願いを込めて――アナリーズは使い慣れない豪華なキッチンに立った。




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