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余計な誤解を生むことが無いように、とアナリーズと伯爵は別々に昼食を摂るようにした。市井の料理を楽しみにはしてくれているみたいなので、伯爵の分はしっかりと別に用意することにして、アナリーズは近くの公園へと移動してそこでお弁当を食べている。
伯爵の分を作ること自体を止めるのも考えたが――考えてみれば、番同士の交流の為とはいえ、あの店でのジョイの昼食代は毎回伯爵家に出してもらっているのだ。弁当が対価になるとは思えないが、これについては一応お礼だと割り切ることにした。
そうやって、家族ぐるみで交流会を続けていたものの――何故か段々と交流で得られる『効果時間』が短くなってしまった。一カ月はジョイと夫婦として過ごせていたのに、半分程度まで短くなってしまったのだ。
こうなったら、交流会の回数を増やすしかないのか、と話し合っていた矢先――。
「引っ越すことになった」
突然。勤め先から帰宅したジョイがそんなことを言い出した。
「ほら。前に話しただろう? 隣同士に住んでいた番の話。やっぱり、月に一回共に過ごすだけでは効果が薄いと思うんだ。それで、あの部屋の隣に空きが出たらしいから、これはちょうどいいと思って」
どうやら、部屋だけでなくあの建物自体がアミティエ伯爵家の所有らしい。賃貸に出していた隣の部屋が空いたことで、そんな話が出たのだそうだ。
「悪い話じゃないと思うんだ。今よりも商会に近くなるから通勤も楽になるし、何より――隣同士で住めば、交流会自体をしなくて良くなるから」
「それは……でも」
――正直。
アナリーズが伯爵夫人に敵視されている今、憂鬱な交流会自体が無くなるのは有難い。
けれど、アナリーズには安易に頷けない理由もあった。
ジョイは通勤が便利になるというが、それは当然の事だ。あの部屋があるのは高級住宅街で、『近くて便利だから』という理由で大商会の幹部クラスがこぞって住んでいるエリアなのだから。
アナリーズ達が現在住んでいる、王都の外れにある格安アパートとは家賃相場からして違う。賃貸料が一桁変わるのだ。
「無理よ。だって、家賃だけで今の8倍……ううん、下手したら10倍くらいはかかるでしょう。流石に、家賃にそこまではかけられないわよ」
「それが、伯爵家のご厚意で格安で貸してもらえるんだ。その……今より4倍の家賃はかかるけど、試してみる価値はあると思うんだ。ごめん……実は、良い話だって思ったから、もう契約しちゃって……」
「ジョイ……」
どうして勝手に決めてきてしまったのか。二人で話し合って決めるべきなのではないのか。
アナリーズはそう思ってもやりとしたが、既に契約を済ませてしまったとなると何を言ったところで今更だし、何より先方にも迷惑がかかってしまう。
(こうなったら仕方ない……わね。確かに、ここのところのジョイの不調も気になるし)
実際問題。『通勤が楽になる』というのはジョイに限ってのことだ。商会地区の外れにあるアナリーズの勤め先に通うのならば、時間はさほど変わらない。
いいや、高級住宅街からだと貴族の馬車が通るような大通りをいくつも渡り、大商会の建物を縫うようにして通勤することにもなるので、時間帯によってはもっとかかってしまうだろう。
それでも、これで少しでもジョイの体調が安定するのならば――。
そんな思いでしたこの決断が、アナリーズを更に追い詰めることになってしまう。
伯爵の分を作ること自体を止めるのも考えたが――考えてみれば、番同士の交流の為とはいえ、あの店でのジョイの昼食代は毎回伯爵家に出してもらっているのだ。弁当が対価になるとは思えないが、これについては一応お礼だと割り切ることにした。
そうやって、家族ぐるみで交流会を続けていたものの――何故か段々と交流で得られる『効果時間』が短くなってしまった。一カ月はジョイと夫婦として過ごせていたのに、半分程度まで短くなってしまったのだ。
こうなったら、交流会の回数を増やすしかないのか、と話し合っていた矢先――。
「引っ越すことになった」
突然。勤め先から帰宅したジョイがそんなことを言い出した。
「ほら。前に話しただろう? 隣同士に住んでいた番の話。やっぱり、月に一回共に過ごすだけでは効果が薄いと思うんだ。それで、あの部屋の隣に空きが出たらしいから、これはちょうどいいと思って」
どうやら、部屋だけでなくあの建物自体がアミティエ伯爵家の所有らしい。賃貸に出していた隣の部屋が空いたことで、そんな話が出たのだそうだ。
「悪い話じゃないと思うんだ。今よりも商会に近くなるから通勤も楽になるし、何より――隣同士で住めば、交流会自体をしなくて良くなるから」
「それは……でも」
――正直。
アナリーズが伯爵夫人に敵視されている今、憂鬱な交流会自体が無くなるのは有難い。
けれど、アナリーズには安易に頷けない理由もあった。
ジョイは通勤が便利になるというが、それは当然の事だ。あの部屋があるのは高級住宅街で、『近くて便利だから』という理由で大商会の幹部クラスがこぞって住んでいるエリアなのだから。
アナリーズ達が現在住んでいる、王都の外れにある格安アパートとは家賃相場からして違う。賃貸料が一桁変わるのだ。
「無理よ。だって、家賃だけで今の8倍……ううん、下手したら10倍くらいはかかるでしょう。流石に、家賃にそこまではかけられないわよ」
「それが、伯爵家のご厚意で格安で貸してもらえるんだ。その……今より4倍の家賃はかかるけど、試してみる価値はあると思うんだ。ごめん……実は、良い話だって思ったから、もう契約しちゃって……」
「ジョイ……」
どうして勝手に決めてきてしまったのか。二人で話し合って決めるべきなのではないのか。
アナリーズはそう思ってもやりとしたが、既に契約を済ませてしまったとなると何を言ったところで今更だし、何より先方にも迷惑がかかってしまう。
(こうなったら仕方ない……わね。確かに、ここのところのジョイの不調も気になるし)
実際問題。『通勤が楽になる』というのはジョイに限ってのことだ。商会地区の外れにあるアナリーズの勤め先に通うのならば、時間はさほど変わらない。
いいや、高級住宅街からだと貴族の馬車が通るような大通りをいくつも渡り、大商会の建物を縫うようにして通勤することにもなるので、時間帯によってはもっとかかってしまうだろう。
それでも、これで少しでもジョイの体調が安定するのならば――。
そんな思いでしたこの決断が、アナリーズを更に追い詰めることになってしまう。
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