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2 救出

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 この国には現在三種類の種族が暮らしていると言われている。

『王族や貴族』『人間』そして――――『獣人』。

『王族や貴族』については国の支配層に対するただのやっかみ交じりの皮肉だが、『獣人』の方は種族からして違う。
 彼らは近年、獣人国からの移民が増えて、ちらほらと王都でも見かけるようになった者達だ。

 獣人はその名の通り様々な動物を祖としており、それぞれ元となった動物の性質を色濃く引き継いでいる。その為、多くの場合で彼ら獣人は人間よりも力が強く、時に怖れられる存在となっているのだ。

 鋭い牙で食い殺されるとか。
 強い力で身体を引きちぎられるとか。
 死肉を食らうとか。

 王都でも獣人を見かけることが増えてはきたが、人間に比べればまだまだ数が少ないせいで、噂ばかりが広がっているのが現状だ。

 先ほどの酔っぱらいたちが一目散に逃げて行ったのも、そんな無責任な噂を聞いていたからだろう。


(――そんなことはないのに)


 実際の所、獣人はとても温厚で仲間思いの義理堅い種族なのだ。

 中堅ながらアナリーズの商会は獣人国とも取引があるため、多くの獣人達が働いている。おかげでアナリーズは彼らの真実の姿を知っているし、王都に蔓延る無責任な噂に振り回されることも無い。

 勿論、種族によっては気難しい者達もいるにはいるが、性格の良し悪しは人それぞれ。その辺の事情は人間とさほど変わらない。

 王族や貴族については――付き合いが薄いので良く判らないが。


 助けてくれた男性の、暗闇に光る神秘的な瞳に魅入られて。

 アナリーズがついついその輝きを凝視していると、居心地が悪そうについ……っと、その目を逸らされた。


「あー…ごめん。もしかして、獣人だから却って君を怖がらせちゃったかな? 身体も震えてるし」

「あ……ち、違うの。ジロジロ見たりしてごめんなさい。貴方の目がキラキラしていてすごくキレイだったものだから、つい見惚れてしまって。……でも、獣人の方ってそういうの苦手なのよね? その、知り合いに獣人の方もいるけれど、今まで夜に会ったことはなかったの。だから、ビックリして……あの、助かったわ。どうもありがと……あ…っ」

 助けてくれた獣人の男性に気を遣われてその場に降ろされたものの、アナリーズの足の震えは治まらず――再び転びそうになって獣人の彼にしがみついてしまった。


「ご……ごめんなさい!! 足が震えているけど、これは貴方が怖いとかじゃなくて……、その……」

「あー…、うん。君が躊躇なく俺にしがみついてきたから流石にそれは解った。……まあ、あんな目に遭ったらいくら同じ人間相手でもそうだよな。ごめん、俺の配慮が足りなかった。よし、ちょうどいいや。少し腹減ってきたから、食事に付き合ってよ」

「あ、ちょっと待って。私、自分で歩け…………そうも、ないわね……ごめんなさい」


 アナリーズは再び男性に抱き上げられそうになって、慌てて声を張り上げるものの……足が言うことを聞いてくれず、段々と尻つぼみになってしまった、

 それを見て。


「ははは! お姉さん素直でいいね」


 獣人の男性は楽し気に笑うと、アナリーズを再び両腕でひょいと抱き上げて、飲食店が立ち並ぶ賑やかなエリアへと歩き出した。



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