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17 痛みと幸せを貴女に

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 ファンゲンの話を聞いて。思い出した耳の痛みを話したら、彼の方が痛そうな顔をしていた。変なの、とくすりと笑う。そうしたら思いのほかするりと言葉が出てきた。


「お母様は会えなくなった前の子供を思って私を可愛がってくれたのかしら。でも、前の子供は人間だったから、あからさまに違いを感じてしまうこの獣の耳が嫌いで――」

「違う!!」

「でも……」

「ああ、ごめん。でも、それは違うよ。僕は男だからよく分からないけど、同じ腹を痛めた子供だから、混ざってそんな気持ちになることもあるとは思う。でも、君のお母様が君を幸せそうに見ていたのを僕は何度も見ているし、愛しそうに君のその可愛い耳を撫でている姿も見ている。その――僕は僕で、仲の良い番の家族に憧れを持って見ていたからね。それが偽物の感情だったら、僕がここまで惹きつけられる筈がない。これでも僕は優秀だからね。いくら感情に流されていても、その辺を見誤るとは思えない。どう? 僕のことは信用できない?」

「……ううん。私、自分はあまり頼りにならないけど……ファンゲンのことだけは、物心がつく前から何故か信用してるの」

「だったら信用して。僕が考えるに君のお母様は『前の家族を捨てたからこそ、あのつらい思いを乗り越えたからこそ、今のこの幸せがある。私と同じこの幸せを愛するラシーヌにも与えたい』って思いがあるんじゃないかな。だからこそ、自分と同じことをさせようとしているんだ」

「同じこと? 番と……別れさせることが?」

「――と、いうか順番だよね。番以外と結婚したあとに、奪うように望まれてこそ、この幸せにたどり着いたのだと――思わないと割り切れなかったんだと思う。そうやって無理に割り切ったからこそ妄信して、同じ順番でラシーヌを幸せにしようとしているんだ。僕に言わせればとんでもないし、相当拗らせて歪んでいると思うけどね。でもまあ、前の結婚が幸せであればあったほど、そして、今の結婚が幸せであればあるほど、その思いが強くなっているんだと思う。君を同じルートで幸せにすることが出来れば、自分の決断が間違っていなかったことの証明になるし、その分前の家族に対して抱えている自分の罪悪感も薄れるからね」


 お母様が私の幸せを願っている――不思議なことに、その言葉もすとんと胸に落ちてくる。かといって、お母様の行動を全て理解できるわけでも混乱しない訳でもないけれど。




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