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15 家族の問題
しおりを挟む「君はウチの事情は知っているよね?」
「ファンゲンのお家の事情……って。その、ここ数代番に恵まれていないとか、そういう……?」
場の空気を変えるように、突然話題を変えるファンゲンに少し戸惑う。お母様の話をしていたのではなかったか。
「そう。ここ数代、番を諦め政略結婚を重ねてきたため、ウチの伯爵家の財政はすごく潤っているわけだ。その代わりと言っては何だけど、家族仲の方はあまり……なんだよね。だから君の家では存在しない『嫁姑問題』なんて言うのも普通に存在する。気に入らないことがあればお婆様から『まあ、嫁と言っても貴女は息子の番ではないからね』……なんてことを言われるし、父上は父上で出会えなかった番の存在が心のどこかで燻っている。当然母上のストレスは溜まりに溜まって、自分がされて嫌だったことを跡継ぎ息子の嫁である兄嫁にやり返す。自分は番ではない嫁としてこうされたのだから――と。ねえ、ラシーヌ。君の家には嫁いびりなんて存在しないだろう?」
「それは……まったくない訳ではないと思うけど、お父様が命懸けで庇うから」
「それ。ウチの母上の不満は突き詰めればそこなんだ。『私が番だったらこんなつらい思いはしないのに』――って」
「確かにウチの場合は番同士の婚姻だから、お母様はお父様からこれ以上ないほど甘やかされているわ。だから、何かあってもお父様が庇うし、お母様が結婚生活の中でつらい思いをすることなんて、何も……あ……でも、泣いているのを見たことがある……」
「そう。甘やかされて守られて、不満を感じる余裕もないほどに溺愛される――嫁いでからはそうだろうけど、君のお母様には『その前』があるだろう? 君のお母様は再婚だから」
「ええと、つまり……『前の結婚』で嫌な思いをしたから、それを私にやり返しているの? 実の娘なのに?」
「僕は男だから女同士のことはよく分からないけどね。女性は同性に厳しいって言うだろ。やっぱりウチも、例え実の娘でも姉上には厳しかったよ。兄上や僕には甘いのに、不思議だよね。おかげで嫁いだ後は、母上を嫌って姉上はあまり実家に帰ってこない。でも――君の場合、そう単純な物でもないと思う。これは僕の推測だけど――」
再婚前、幸せな結婚をして子供までいたラシーヌの母親。そしてそんなラシーヌの母親を溺愛して、攫うようにして再婚を果たしたラシーヌの父親。
その時に支払った莫大な慰謝料でラシーヌの生家であるライフェ侯爵家の財政は傾いたけれど、平民だったラシーヌの母親にとってはそれでも贅沢な暮らしに変わったし、番であるラシーヌの父親からは溺愛されて嫁姑問題もなく、ラシーヌという子宝にも恵まれて、ラシーヌの母親にとってそんな結婚生活自体には不満はないはず。
けれど――とファンゲンは話す。
「『前の家族』のことはそう簡単に切り捨てられるものではないと思うんだよね。特に、『子供』については」
「……ああ…」
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