【完結】そう、番だったら別れなさい

１３ お膳立て

「ははは。まさか、ここまでうまくいくとはね」

　幼馴染で元・形だけの恋人で、この度晴れて婚約者となった……運命の番のファンゲンが、私のベッドに座って上機嫌に言った。

　婚約者とはいえ婚姻前。二人きりで同じ部屋にいるのならドアを開けて……というのが普通だと思うのだけど、お母様はしっかりと扉を閉めて出て行った。大きい声で、使用人にラシーヌの部屋へは近づかないようにと指示を出している。

　ちなみに。

　この日に彼を屋敷に呼ぶと言ったら、急遽お父様とお母様は泊りで旅行へと出掛けることになったそうだ。


「ここまでお膳立てされるといっそ清々しいね。……ねえ、今日は何をしてもご両親には聞こえないと思わない？」


　そう言って、隣に座った私の肩を抱き寄せるファンゲン。一方の私は耳を澄ませて考える。トランクを引く音。ドアが開いて閉まる音。お母様の鼻歌。使用人たちの話し声。そして――走り去る馬車の音。

　お父様は一足先に愛するお母様の為に花束を買いに行っている。汽車の時間があるため、今日はもう戻ってくることは無いだろう。確かに聞かれることはなさそうだ。


「そうね」

「え。ラ、ラシーヌ本当に」


　何故か。ファンゲンが私の肩を抱く手に力が入る。


「ええ。流石ファンゲンね。今日なら何を話しても聞こえないから安全だと思うわ。だから教えて。何でファンゲンはお母様がああいう行動に出るって分かったの？」


　幸せではあるが、くっついていると顔が見えなくてどうにも話しづらい。

　肩を抱く手をすり抜けて、椅子を用意してファンゲンの前に座ると彼は何故かガックリと肩を落とした。