【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
6 / 22

6 豹変する番

しおりを挟む
「ああ、やっぱりそうなったか。――で、僕の言う通りにしてくれた?」

「う…うん。ちゃんと『番かもしれない』って確定はしないような言い方で伝えたわ」

「うん。それなら大丈夫。僕の計画通りだ」


 お母様から頭ごなしに反対をされたことに取り乱して。
 居てもたってもいられず、つい獣化して彼の部屋まで訪れたらそう言われて驚いた。

 時間は既に夜。お風呂上がりだったのだろう、ファンゲンの髪は濡れて前髪が下にたれている。最近はやたら大人ぶって、横に分けたり後ろに流したりしていることが多いのに。

 そうやって昔ながらの髪型をしていると、子供の頃を思い出して安心する。ファンゲンは昔から頭が良いのだ。彼に任せておけば何の心配もない。


(ダメだな……。私も、もっと彼みたいに頭を使ってから行動するようにしないと)


 私は直感で行動したり発言してしまったりするから、ファンゲンみたいに落ち着いて物事を進めることが苦手だ。

 今だって私は何も考えずに獣化して窓から抜け出して来てしまったけれど、彼の屋敷の前まで来て途方に暮れてしまった。

 彼の屋敷を訪ねようにも、このまま獣化を解いたら素っ裸になってしまう。流石にオムツの頃から付き合いのあるご家族とはいえ、そんな姿は見せられない。

 仕方なく獣化したまま屋根に上がり、ダメ元で彼の部屋の窓から中を覗いてみたら、ちょうどお風呂から戻ってきたらしい彼と目が合った。彼は慌てて窓を開けて部屋の中に招き入れてくれて、肩からかけていたバスタオルで私を包んでくれた。それで、ようやく獣化を解くことが出来たのだ。

 種族が同じならば獣の姿のままでも会話ができるが、ファンゲンとは種族が違うので獣化を解かなくては話せない。
 人の形をとったことで、どうにか先ほどのお母様とのやり取りをファンゲンに伝えて――全てが計画通りだと言われて、私もようやく落ち着くことが出来た。

 彼が大丈夫と言えば大丈夫なのだ。子供の頃からずっとそうだったのだから。


「私、偽の恋人役を頼んだのがファンゲンで良かったわ……。貴方が本物の番だったおかげで自分の番に面倒な説明をする手間が省けたし、何より余計な情報で相手を傷つけないで済んだのだもの。それが一番嫌だったの。手近なところで手を打たずに、ちゃんと貴方に相談してよかった……」


 ピクリ……。


 私の発言で彼の纏う空気が突然変わった。

 私が来てからずっと余裕な態度ですました顔をしていたのに、急に獲物をいたぶる獣の表情になる。考え無しの私が、また何か余計なことを言ってしまったのだろうか。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

俺の番が見つからない

Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。 第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか? 一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。 毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ) 皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。 CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。 ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか? 2021/01/15 次のエピソード執筆中です(^_^;) 20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。 お付き合い頂けると幸いです💓 エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶

精霊王だが、人間界の番が虐げられているので助けたい!

七辻ゆゆ
恋愛
あんなに可愛いものをいじめるなんてどうかしている! 助けたい。でも彼女が16になるまで迎えに行けない。人間界にいる精霊たちよ、助けてくれ!

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

私の上司は竜人で私はその番でした。

銀牙狼
恋愛
2021年4月、私は仙台HBG(星川バンクグループ)銀行に就職。優しい先輩にイケメン上司、頑張るぞと張り切っていたのにまさかこんなことになるなんて。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

処理中です...