【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
3 / 22

3 利害の一致

しおりを挟む

 まだ小さかったあのときの、お母様が私に向けた表情の抜けたような顔は、どうしても忘れることが出来ない。

 それでも私はお母様のことが大好きなのだ。

 お母様との暖かい思い出だってちゃんとある。16歳になった今でも思い出せるわ。

 乳母に頼ることなく、毎日、私を寝かしつけてくれたお母様。
 そして眠っているお父様を気遣って、小さな声で歌われる子守歌。

 ささやきよりも小さな声だけど、私の獣の耳はしっかりとお母様の優しい歌声を拾うことが出来た。調子を取るようにお布団の上からトントンと優しくたたかれて、そのことで感じられる心地よい振動も音と共に覚えている。

 お父様譲りのとっても感度の高い耳が嬉しかった。

 ただ、時折。子守唄を歌いながら愛しそうに頭を撫でてくれるお母様の優しい手が、私の獣の耳で一瞬止まって。すすり泣きのような声が混じることがあった。

 お母様の優しい歌声はすぐに私を眠りの世界へと連れて行ってくれたから、夢うつつの中のことではあったけれど。

 多分……お母様は国に残してきた家族のことを思い出していたのだと思う。それもあって、私は誰かとお付き合いをしたいとは思えなかったのかもしれない。


 そういった面では幼馴染の彼とはとてもよく気が合った。


 当時、彼も貴族として色々な思惑から女性との付き合いを薦められて辟易していた。けれど、彼は明確に番との婚姻を望んでいた。


 ……だから。

 だから、あのとき。私は幼馴染のファンゲンと――恋人のフリをする約束を交わしたのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

俺の番が見つからない

Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。 第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか? 一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。 毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ) 皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。 CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。 ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか? 2021/01/15 次のエピソード執筆中です(^_^;) 20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。 お付き合い頂けると幸いです💓 エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶

精霊王だが、人間界の番が虐げられているので助けたい!

七辻ゆゆ
恋愛
あんなに可愛いものをいじめるなんてどうかしている! 助けたい。でも彼女が16になるまで迎えに行けない。人間界にいる精霊たちよ、助けてくれ!

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

私の上司は竜人で私はその番でした。

銀牙狼
恋愛
2021年4月、私は仙台HBG(星川バンクグループ)銀行に就職。優しい先輩にイケメン上司、頑張るぞと張り切っていたのにまさかこんなことになるなんて。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

処理中です...