1 / 4
1 魔法陣弁当で異世界召喚された俺
しおりを挟む校舎裏のベンチが俺の指定席だった。
園芸部が管理している小さな花壇の脇にある古いベンチ。この場所で俺は毎日昼食を摂っている。春先なら心地いいだろうここも、寒風吹きすさぶ冬の今、愛でる花もなく寒いだけ。
それでも厄介な連中に絡まれることなく食事を摂れるだけで天国だ。寒いし、手はかじかむけど。
そう。俺はいじめに遭っている。教科書は隠されるし、陰口は隠されないし、体だって痣だらけ。
本当は登校したくない。でも、将来を考えれば学校を休むことはできないし、親にも相談していない。でも、母親はうすうす何か感づいているのだろうと思う。
その証拠が、この弁当。
お友達と楽しくお昼を過ごせるように。その願いを込められて作られたであろう凝った作りの見事なキャラ弁。それが途絶えたことはない。
しかしぼっち属性が強い俺は、高校に入学してからずっと一人でソレを食べ続けた。
……コレもギャラリーが俺だけでは労力の無駄だろうに。
(今日は何だろう)
かじかむ手で弁当箱のふたを開ければ、海苔で作られた見事な魔法陣。コレには見覚えがある。つい先日古本屋で買ったファンタジ―雑誌に載っていた願いが叶う魔法陣だ。
居間に置きっぱなしにしていたから、それを参考にしたのだろう。凝り性な母親らしく細部にまでこだわった再現度が凄まじい。『今日も一日楽しく過ごせますように』そう言って、渡されたお弁当。その願いが叶うのは難しいだろう。
いじめっ子が居る教室。
見て見ぬふりの担任教師。
荒れた学校。
逃げ場のないこんな状況では、楽しくなんて過ごせない。異世界にでも行かない限り、願いなんか叶わないよ――。
そんな風に思った瞬間。俺は見知らぬ場所にいた。
雑踏。ファンタジー感あふれる街並み。縫製の少々雑な服を着た人達。そこに、学生服姿の俺がいる。
何が起こったのか。ここはどこなのか。
考える俺の頭の中に答えが響いた。
『やっほぅ。俺、神様。魔法陣の精度が高いから感心してつい声かけちゃった。君の願いを叶えてあげたんだから、お礼に俺の頼みも聞いてくれるよね。そうだな、せっかくだからこの世界の魔王討伐をお願いしちゃおうかな☆ 成功報酬として、君の持っていた母親特製の魔法陣弁当を進呈しちゃうよ! 状態保存かけておくから安心してね☆ じゃ!』
「ちょ、待てよ! ざけんな、元の場所に……」
その叫びには、もう答えは帰ってこなかった。
48
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる