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27 お邪魔虫の正体
しおりを挟むお気に入りの東屋に義妹そっくりな幼児が現れた。
悔しそうにギュッと手を握り締め。
両腕を上下にブンブンと振り回しながら、
「じゅるい、じゅるい」
……と、繰り返している。
あれ? おかしいな。執務室と同じで、ここも認識阻害がかけられていたはずなのだが――と、慌てて身を離し、高位の魔法使いに確認してみると。
「……残念ながら、自我が未発達で操れない子供は精神に干渉する魔法が効きづらい。――が、魔法ではじき飛ばすことは可能だし、結構な魔力を使い本気で認識阻害をかければどうにかなる。それに、今まで通り言葉を封じるくらいなら簡単にできる」
『じゅるい』に二人の時間を邪魔されたのがよほど面白くなかったのだろう。高位の魔法使いは無表情でそんな恐ろしいことを言ってきた。いや、こんな子供にそれは駄目でしょう。可哀想すぎる。
何度も自分から彼に依頼して、義妹に魔法をかけまくっておいてなんだけど――子供には罪はない。
というか、このくらいの子供ならばまだ間に合う。
高位の魔法使いを何とかなだめすかして、小さなお邪魔虫ちゃんに優しく話しかける。
「ずるくはないわ。おば様はキチンとお仕事をしたから、ご褒美におやつをもらえたのよ。貴女もおやつが欲しいなら、お仕事しなきゃ。貴女くらいの年齢なら常識を身に付けるのがお仕事だから――そうね、お手手を奇麗に洗ってこられるかしら?」
「はい!」
素直に東屋に設置してある水道で手を洗い、私の膝の上でもらった焼き菓子を頬張る姪っ子の可愛いこと可愛いこと。よくできましたと頭を撫でると子供は顔をあげてニッコリと微笑んだ。
義妹似の保護欲を誘う愛らしい顔に、公爵家特有の銀色の髪がサラサラとかかる。
彼女は私に求婚していた公爵家三男のドリット様と義妹の娘。血は繋がっていないが私にとっては可愛い姪っ子だ。
親子三人で別の場所に住んでいるが、実家に遊びに来ると両親に先ぶれがきていたのでおそらくはぐれたのだろう。
王太子殿下が絡んできたあの時。私が正式に高位の魔法使いを選んだことでドリット様は少々荒れた。それを見た義妹は即食いついた。
ダメ男感知機能を持っている義妹のことだからソレが反応したのだろうけれど、元々真面目なドリット様のこと。すぐにご自分を取り戻し、しっかりと責任を取って義妹を引き取ってくれた。現在は公爵家が持つ伯爵の爵位を引き継ぎながら、立ち上げた大手出版商会の経営に勤しんでいる。
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