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18 番との再会(ヴァイス視点)
しおりを挟む「まあ、ヴァイス久しぶり! 元気だった?」
「フルール……!」
メイド服に身を包み。久々に見た彼女はキラキラとして美しかった。怒鳴られるか、なじられるか。いずれにせよ歓迎はされないと思っていたから、友好的な態度は意外だった。
逃げられたら堪らないと、連絡もせず領主様の屋敷を突然訪ねた。会わせてもらえなかったらどうしようかと思っていたが、応対をしてくれたのが彼女だった。
領主様と暮らし、既に子供までいると聞いていたが……服装を見るに、正式な夫婦ではないようだ。領主様も貴族だ。平民であるうえ、獣人の彼女との婚姻は難しかったのかもしれない。
乾燥しきった俺の心に期待が滲む。
「あのね、ヴァイス。私にも飼い主がいたの。それで、貴方の気持ちが良く分かったの」
「フルール!」
思った通りだ……!
彼女も飼い主を見つけたことで、俺の気持ちを理解してくれたのだ。しかも、彼女には子供までいるんだし。
……もしかしたら俺と同じような状況だったのではないだろうか。それならばきっと、俺の今の気持ちも分かってくれるはず。
領主様との間に既に子供がいようが関係ない。俺ならこんな風に愛する番を使用人扱いして、蔑ろにしたりなんかしない。
俺達二人ならやり直せる……!!
口から言葉が出かけた時に。
「ママー、お客さん?」
「このおじちゃん誰?」
彼女によく似た耳を持つ子供達が現れた。
形はどうあれ、今、彼女は飼い主と共に暮らしている。そして、子供がいる。頭では理解していても、実際それを目にすると胸がツキリと痛んだ。
しかし、コレは俺自身が招いたこと。受け入れるしかない。様々な感情を抑え、俺は子供達に向けて笑顔を作った。
「こんにちは。この子たちが……領主様の子供?」
俺の言葉にフルールは大きな目をパチパチと瞬かせると吹き出した。
「まさか! やあねぇ。子供達のこの可愛らしい耳が見えないの? 領主さまの奥様は人間よ」
「え」
どういう……ことだ。フルールは飼い主と……領主様と結ばれて、子供が産まれたのではないのか? 領主様には人間の伴侶が居て……。子供がいるフルールはメイドの格好をしていて。
不幸な関係を強いられているのではないのか?
もし、そうなら俺が……。
「二人とも。そろそろ坊ちゃんがお昼寝から目覚める頃だから、様子を見てきて。おやつを持っていくからお庭のいつもの場所で待っていてちょうだい」
「やった! ママ、僕たちも一緒に食べていいの」
「貴方たちが一緒じゃないと、坊ちゃんが大人しく食べてくれないから仕方ないわね」
「よーし、はやく起こしに行こうぜ。今日は虫取りを教えてあげるんだ」
「ちょっと、虫取りはおやつの後よ! しっかりお手てを洗ってからお連れするのよ。まったく。まあ、乳母が注意してくれるわね」
心配そうに。しかしどこか幸せそうに。元気よく駆けていく子供達の背を見送る彼女。
そのどこにも悲壮感はない。
むしろ、見たこともないほど穏やかで――。
その姿に目を奪われるとともに。何故だか妙な焦りを感じた
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