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11 私の飼い主と夫と家族
しおりを挟む結局、私とグレイは領主様のお屋敷で働くことになった。詳細を聞いて、最初グレイは難色を示していたけれど、実際領主様に会ったらわだかまりは消えたようだ。
私に新たな命が宿り、安定を欲していたせいもあるのだろうが、領主様の人柄に惹かれる所もあったのだろう。
今では領主様がたまに頭を撫でることを許しているくらいだ。少し、神経質なところがある人なのに。領主様曰く、グレイは触り心地がいいらしい。
そしてグレイ曰く、あの撫で方は卑怯だ、つい喉を鳴らしてしまう。領主様はいったいどれだけの頭を撫でてきたのか。
――ということらしい。
まあ、前世を入れていいのなら、結構な数になると思う。私を含め、他にも色々と面倒を見ていたみたいだから。
番ではないけれど、グレイと私は次々と子宝に恵まれた。領主様のご厚意で、敷地内に保育所が出来たのでご近所の子供達も含め、仕事中は面倒を見てもらっている。
領主様も、仕事の合間に子供達の様子を見に行くことを楽しみにしているようだ。
家族が増えて大変だろうということで、お屋敷に住み込みで働かせてもらえることになった。元気な子供達の声はうるさいと思うのだけれど、領主様は幸せそうに笑っている。子供達も領主様に懐いている。
将来はこの子たちに屋敷を任せてもいいかもなぁ、そんな風に漏らすこともあるけれど、それはおそらくないだろう。
子供達の面倒を見てくれている若い保育士の女性との間に、同志のような、穏やかな愛情が育っているのを私達家族は知っている。寂しさから私達家族を手元に置いていた領主様が、自分の家族を手に入れる日も近いだろう。
そして、そうなってもおそらくこの穏やかな関係は変わらない――そんな予感もある。
保育士の女性の、獣人との接し方を見ていて思い出した。
前世。町会長亡き後、私は子供に拾われた。『首輪してるけど迷子さん? 家族が見つかるまでお家で一緒に暮らそうね!』そう言って家に連れて行かれ、まあ、全力で可愛がられた。
正直逃げ出したかったけど、鍵っ子の一人っ子でまだ小さいその子が心配で目が離せなかったのもある。お世話をしているつもりで、結局は最期までお世話になった。
……彼女に記憶はないようだが、私が身をもって教えてあげた直伝の猫への接し方は体がしっかり覚えているらしく、たまに撫でられるとつい喉を鳴らしてしまう。
領主様とは少し年齢差はあるが、前世ほどではない。価値観が同じ二人はきっとうまくいくだろう。
飼い主二人が前世、本当に望んでいた物を知っているから――そんな幸せな未来を掴む手助けが出来たら嬉しいと思う。
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