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7 愛しているから――番とその飼い主の為に番絶ちを
しおりを挟む「本当に……いいのか? もう、ヴァイスとの婚約は解消したんだろう。何もそこまでしなくても」
「ええ。でも、番であるヴァイスへの愛が消えてくれないの。彼への思いを消さない限り、我を忘れて彼の大事な飼い主へ危害を加える可能性があるわ。そして、相手は王族よ。自分と――愛するヴァイスを守るためにはコレしかないの」
「分かった……でも、本当にツライからな」
「覚悟の上よ」
グレイは最後まで反対をしてくれたけど、王族へ危害を加える可能性があることを話せば理解をしてくれた。施設の人も同じだった。
聞いていた通り、『番絶ち』はツライものだった。愛する番の匂いを嗅いでも嬉しいと思わないように。幸せだと思わないように。心と体に痛みを与えて決して反応をしないようにしていくのだ。
子供の頃から大好きだった。
彼を幸せにしてあげたかった。
二人で幸せになりたかった。
そんな思いを痛みで打ち消して、番を思い出しても心や体が反応しないように自分の一部を壊すのだ。
永遠とも思える苦痛。しかし、私がソレから解放されるのは驚くほど早かった。治療に使ったのは――最後に届けられた洗濯物だ。家の中からは彼の匂いが消え去って。他に彼を思い出せるほどの匂いの付いたものがなかったから。
大好きな彼と王女様の匂いの混じった洗濯物。
怒りや恨みで我を忘れそうになるけれど。
与えられる痛みで番への愛を忘れるたびに。別の痛みが消えていく。
それで気が付いた。
死ぬほどつらいはずの番絶ち。それと同じくらいの心の痛みを、私は日々感じていたのだと。
半年後には番の匂いを嗅いでも心が動かなくなった。
そして、一年後には番を思い出しても何も感じなくなった。
穏やかな。幼馴染への親愛の情はあるけれど、成長と共にあふれ出すようになった番への愛情は消え去った。喪失感も感じない。むしろ、今までで一番の晴れやかな気分かもしれない。
ここまで番絶ちが上手くいくのは珍しいそうだ。治療は苦しかったけれど、経験者であり、幼馴染でもあるグレイが頻繁に顔を出して支えてくれたのが大きかった。
いつの間にか。私は番であるはずのヴァイスより、グレイの匂いに安堵を覚えるようになっていた。来てくれる日を心待ちにしていた。痛みに寄り添い、支えてくれたグレイに対して穏やかな愛情を抱くようになっていたのだ。
彼にそのことを伝えれば、一瞬驚いた顔をしたものの、嬉しそうな顔をして笑ってくれた。
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