3 / 20
3 飼い主の願いを叶える私の番
しおりを挟む王女様から発言を許された彼は、それまでの思いがあふれ出て止まらないかのようにお礼を伝えていた。
流石に前世での飼い主の婚約破棄については発言を控えていたが、飼い主本人がつらい時にもかかわらず、死にかけた仔猫だった自分を助けてくれたこと、自らの食事を減らしてまで病院へと連れて行ってくれたこと、最後どうなったのかまでは覚えていないが、前世も、今もずっと感謝している、お礼を言いたかった――そんなことを涙ながらに語っていた。
周囲も突然の感動話に聞き入っていた。お優しい王女様の話はすぐに広まった。とりわけ庶民の中で王女様は大人気になった。
彼は前世の恩を返したいと言った。そして王女様はそれなら頑張って近衛に入って欲しいと言った。
普通なら王女直属の近衛騎士には貴族しかなれないけれど、飼い主に仕えたい獣人となると話が違う。獣人の飼い主への忠誠はそれほど信頼されているのだ。前世から、となればなおのこと。勿論、それには剣の実力が必要となるけれど。
王女様からそれを聞かされたヴァイスはそれから毎日剣を振るった。引退した騎士がいると聞けば教えを仰ぎ、騎士学校に庶民枠があると聞けば苦手な勉強も頑張った。
そして見事首席で卒業し、16歳で近衛騎士となった。
私はその彼の努力を一番近くで見ていたから、本当は――本当は王女様のことばかり気にかけるヴァイスに複雑な思いを抱いていたけれど、それは言わずにすぐそばで支え続けた。
彼が王女様の為に努力しているのは分かっている。
それでも――。
「近衛騎士になれば給料もいいからフルールにも楽をさせてあげられるしな」
笑顔でそんなことを言われると、それだけで天にも昇る気持ちだったから。
騎士団の仕事に慣れて試用期間も終わった頃、ヴァイスから一緒に暮らそうと誘われた。お互い仕事が忙しく、なかなか会えないのがツライらしい。私もそうだったので、そう言われてしまえば断る理由などない。
私の仕事は食堂の従業員だった。体を動かすのが好きだったし、人と話すのが楽しかったから。それに混雑している昼時に大人数を捌くのはとてもやりがいがあった。でも、大事な番には家にいて欲しい――婚約者にそう言われて仕事は辞めた。
騎士の生活は夜勤もあって不規則だから、彼を支えるにはその方が都合が良かったのもある。それに、一緒に暮らすからにはすぐに子供が出来る可能性もあるし、外で働く余裕なんてないかもしれない、そう思って彼に従った。
だけど――。
新居へと引っ越してすぐ、恩人である王女様が隣国の王子に婚約を破棄された。国としてはあちらの方が強いので、泣き寝入りだった。
かなり仲が良い事で有名だったので意外だったが、隣国の王子には「仲のいい」お相手はそれこそ星の数ほどいたらしい。後になってその話が広まって、ヴァイスはとても怒っていた。
「前世でも婚約を破棄されて、今世でもこんなことになるなんて。いったい王女様が何をしたって言うんだよ……!! 女好きのクソ王子め、ぜってぇ許さねえ……!!!」
そう言って、ボロボロ泣いて荒れていたのを覚えている。そうは言っても隣国とは国力の差が大きいし、コチラの国からは泣き寝入り以外に出来ることはない。
ヴァイスが飼い主愛しさのあまりとんでもないことをするんじゃないかとすごく心配だったけど、それは王女様が止めて下さったらしい。
それだけは感謝している。でも……。
「また、一から婚約者を探さなきゃ。大丈夫、まだやり直せるわ。前世の時より、ずっと若いもの。今回も、貴方が傍で支えてくれれば頑張れるわ。ふふふ。だから、ヴァイスは私より先に結婚しちゃ嫌よ」
王女様のその一言で。
私たちの関係は止まってしまった。
118
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。
ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女は白を選ばない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
ヴェルークは、深い悲しみと苦しみの中で、運命の相手とも言える『番』ティナを見つけた。気高く美しかったティナを護り、熱烈に求愛したつもりだったが、彼女はどうにもよそよそしい。
プロポーズしようとすれば、『やめて』と嫌がる。彼女の両親を押し切ると、渋々ながら結婚を受け入れたはずだったが、花嫁衣装もなかなか決めようとしない。
そんなティナに、ヴェルークは苦笑するしかなかった。前世でも、彼女は自分との結婚を拒んでいたからだ。
※短編『彼が愛した王女はもういない』の関連作となりますが、これのみでも読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる