【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
上 下
84 / 88
番外編

5 結婚。そして……(ヴィクトリア視点)

しおりを挟む

「――え!? お二人は結婚していなかったんですか!? あんなに仲がよろしいのに!??」


 ズィーガーからヴィクトリアへの突然のプロポーズに驚く島民達。それはそうだろう。ズィーガーとヴィクトリアは二十年以上もの間、ずっとこの島で夫婦として暮らしてきたのだから。


「い、いえ、その……色々あって、籍だけ入れたんです。なっ!」


 慌ててズィーガーが取り繕ってヴィクトリアに助けを求めるものの、詳しい話はできない。

 なので、島民たちの視線を受けてヴィクトリアは曖昧に微笑んだ。


「なるほど訳アリってやつですね! いいんです、いいんです、追及したりはしませんて。ねえ?」

「そうそう! いや~、おかしいと思っていたんだよ。これまで帝国からこの島に派遣されてくる領主様ってこっちが心配になるくらいの年寄りばっかだったのに、急に若いご夫婦に変わるんだもんな。こりゃー、絶対何かあるなって。…ってことは、もしや結婚式もまだ? そりゃ~大変だ!」


 全てにおいて平和なこの島の中では曖昧な笑顔も複雑な事情も大した意味をなさないようだ。サラリと適当に流されて、細かく追及をされないのは有難い。


 そこからは大騒ぎだった。


 島民みんなで準備をして、ヴィクトリアとズィーガーの結婚式を挙げてくれた。

 娯楽の少ないこの島では何でもお祭り騒ぎにしてしまう。中でもおめでたい結婚式は一大イベントだ。

 当然、契約結婚だったヴィクトリアとズィーガーは入籍だけで結婚式は挙げていない。なので、今回が二人にとって初めての結婚式となる。

 ヴィクトリアとしては誰もがうらやむような豪華な結婚式を挙げた一度目の結婚がああいう結末を迎えた以上、『結婚式』そのものには何の思い入れも無かった。

 ……が、島民がズィーガーとヴィクトリアの為に準備してくれた全てにおいて手作りの素朴な式は――あまりにも一度目と違い過ぎて、却ってすんなりと受け入れることが出来た。

 花嫁が着るのは白いドレスではなく、繊細な刺繍の入った極彩色の婚礼衣装。これは島に一着しかない物で、この島で結婚する花嫁は必ずそれを身に着けるのだという。いわば使いまわしのレンタルだ。

 婚礼を挙げる花嫁はそれに自分で小さな刺繍を足して、婚礼衣装は次の花嫁へと受け継がれていく。

 刺繍の数だけ過去に幸せな花嫁が存在してきたことになる。そこにヴィクトリアも加わるのだ。何て責任重大なのだろう。
 島民から話を聞いたヴィクトリアは散々悩んだあげく、自分とズィーガーの竜鱗を模した架空の花を刺繍した。

 一針一針。結婚式を準備してくれた島民への感謝と、島の平和を祈って。

 柔らかな光沢を浮かべる神秘的な花は島民にも大好評で、二人の存在が彼らに受け入れているような気がしてヴィクトリアは嬉しかった。

 ヴィクトリアはこの婚礼衣装を着てズィーガーに嫁ぐ。女神様に愛を誓った一度目とは違い、愛を誓うのもそれを見届けるのも島民達だ。

 そんな手作りの祝いの席は夜更け近くまで続いた。

 そして――。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...