【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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番外編

5 結婚。そして……(ヴィクトリア視点)

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「――え!? お二人は結婚していなかったんですか!? あんなに仲がよろしいのに!??」


 ズィーガーからヴィクトリアへの突然のプロポーズに驚く島民達。それはそうだろう。ズィーガーとヴィクトリアは二十年以上もの間、ずっとこの島で夫婦として暮らしてきたのだから。


「い、いえ、その……色々あって、籍だけ入れたんです。なっ!」


 慌ててズィーガーが取り繕ってヴィクトリアに助けを求めるものの、詳しい話はできない。

 なので、島民たちの視線を受けてヴィクトリアは曖昧に微笑んだ。


「なるほど訳アリってやつですね! いいんです、いいんです、追及したりはしませんて。ねえ?」

「そうそう! いや~、おかしいと思っていたんだよ。これまで帝国からこの島に派遣されてくる領主様ってこっちが心配になるくらいの年寄りばっかだったのに、急に若いご夫婦に変わるんだもんな。こりゃー、絶対何かあるなって。…ってことは、もしや結婚式もまだ? そりゃ~大変だ!」


 全てにおいて平和なこの島の中では曖昧な笑顔も複雑な事情も大した意味をなさないようだ。サラリと適当に流されて、細かく追及をされないのは有難い。


 そこからは大騒ぎだった。


 島民みんなで準備をして、ヴィクトリアとズィーガーの結婚式を挙げてくれた。

 娯楽の少ないこの島では何でもお祭り騒ぎにしてしまう。中でもおめでたい結婚式は一大イベントだ。

 当然、契約結婚だったヴィクトリアとズィーガーは入籍だけで結婚式は挙げていない。なので、今回が二人にとって初めての結婚式となる。

 ヴィクトリアとしては誰もがうらやむような豪華な結婚式を挙げた一度目の結婚がああいう結末を迎えた以上、『結婚式』そのものには何の思い入れも無かった。

 ……が、島民がズィーガーとヴィクトリアの為に準備してくれた全てにおいて手作りの素朴な式は――あまりにも一度目と違い過ぎて、却ってすんなりと受け入れることが出来た。

 花嫁が着るのは白いドレスではなく、繊細な刺繍の入った極彩色の婚礼衣装。これは島に一着しかない物で、この島で結婚する花嫁は必ずそれを身に着けるのだという。いわば使いまわしのレンタルだ。

 婚礼を挙げる花嫁はそれに自分で小さな刺繍を足して、婚礼衣装は次の花嫁へと受け継がれていく。

 刺繍の数だけ過去に幸せな花嫁が存在してきたことになる。そこにヴィクトリアも加わるのだ。何て責任重大なのだろう。
 島民から話を聞いたヴィクトリアは散々悩んだあげく、自分とズィーガーの竜鱗を模した架空の花を刺繍した。

 一針一針。結婚式を準備してくれた島民への感謝と、島の平和を祈って。

 柔らかな光沢を浮かべる神秘的な花は島民にも大好評で、二人の存在が彼らに受け入れているような気がしてヴィクトリアは嬉しかった。

 ヴィクトリアはこの婚礼衣装を着てズィーガーに嫁ぐ。女神様に愛を誓った一度目とは違い、愛を誓うのもそれを見届けるのも島民達だ。

 そんな手作りの祝いの席は夜更け近くまで続いた。

 そして――。




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